第16話お父ちゃん!
そしてアサリは父の頭に覆い被さり・・・。
二人とも沈んで行った。
最後まで気泡が出た後も甲は両手を口に添えて叫んでいた。
「お父ちゃん!お父ちゃん・・・。」
暫くは父が上がってこないか、不安な眼差しを向けていた。
虫捕りの時に甲よりも背の高い草むらへ父が一人入って行き暫く待たされた事があるが、今度は前とは違い水中だからその中にずっと居れば息が出来ない事ぐらい幼い甲でも分かっていた。
大粒の涙が甲の頬を伝い顎先に溜って一つ、二つ、父と出かけるからお気に入りの左胸に像さんの絵の描いた白いポロシャツを着ていたが、それも涙で汚れていた。
甲は希望を持って貯水池の水面を見詰め、「甲、帰ろうか?」
と父が背中を叩いて来るのでは無いかと、後ろを向き向き、水面を観ていたが、赤とんぼが風に乗ってクルと甲の頭上を飛び回る頃・・・甲が泣きじゃくりながら亀石公園の西側を行くと左手に坂があり下って右手前に烏原町と夢野町の境の急な坂道を上がる序に権現さん所謂、熊野神社へ横切り帰った事を今でも覚えている。
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