第14話アサリを殺した理由

口を大きく開け何かを叫んだ! 

そしてアサリは父の頭に覆い被さり・・・。二人とも沈んで行った。

最後まで気泡が出た後も甲は両手を口に添えて叫んでいた。

「お父ちゃん!お父ちゃん・・・。」暫くは父が上がってこないか、不安な眼差しを向けていた。

虫捕りの時に甲よりも背の高い草むらへ父が一人入って行き暫く待たされた事があるが、今度は前とは違い水中だからその中にずっと居れば息が出来ない事ぐらい幼い甲でも分かっていた。

大粒の涙が甲の頬を伝い顎先に溜って一つ、二つ、父と出かけるからお気に入りの左胸に像さんの絵の描いた白いポロシャツを着ていたが、それも涙で汚れていた。

 甲は希望を持って貯水池の水面を見詰め、「甲、帰ろうか?」と父が背中を叩いて来るのでは無いかと、後ろを向き向き、水面を観ていたが、赤とんぼが風に乗ってクルと甲の頭上を飛び回る頃・・・甲が泣きじゃくりながら亀石公園の西側を行くと左手に坂があり下って右手前に烏原町と夢野町の境の急な坂道を上がる序に権現さん所謂、熊野神社へ横切り帰った事を今でも覚えている。

 自宅に辿り着くまで父が待っているのではないか?と思い、父と遊びに行った所へ回って見たが、誰一人、甲の顔見知りの大人には出会わなかった。

 もしかして父が貯水池から上がって来て、亀石公園の亀の甲羅に跨って休んでいるかも知れない! と思ったら居ても立っても居れなくて、ダッシュで亀石公園に引き返した! 23㎝の運動靴の紐が切れて脱げたが、甲は靴下のまま走り続けた! 亀石公園までの最後の坂道を駆け上がり右に曲がってお父ちゃん! と、叫んだ!しかし、待っていたのは石を積んで亀の形をした亀石だった・・・。   

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