第16話 お煎餅の今後
それから私は、湯前さんとわかれて、人気のない校舎の隅に移動する。
なんだかすっごく疲れた。
そんな私を労うように、イチフサ達が言葉をかけてくる。
「結衣、お疲れ様。よくがんばったね」
「結衣ちゃん、ありがとうだニャ。おかげでご主人様に、大好きだって伝えられたニャ」
それから、さらにもう一人。
「苦労かけて、悪かったな」
そう言ったのは、人吉くん。彼は、あの後少しだけ湯前さんと話をしてたけど、それからすぐに、私達のところにやってきた。
「別に、人吉くんが謝ることじゃないでしょ」
「いや。本当ならああいうのは、歩美ともお煎餅ともつき合いが深い俺がやるべきだったかもしれない。けど、何もできなかった。妖怪と人間は無闇に関わらない方がいいって、最初から諦めてた。凄いな、お前」
「べ、別に褒めてもなにも出ないわよ。だいたい、いきなりあんなこと言い出したら、変なやつって思われるかもしれないじゃない。そういう役は、私が適任なの」
実際は、変なやつって思われたらどうしようって不安で、心臓がバクバクだったんだけどね。
凄いなんて言われるもんだから、なんだか恥ずかしくなってそっぽを向く。
一方、どういうわけか、なぜかイチフサが誇らしげだ。
「そうだよ。結衣は凄いんだよ」
「なんであんたが偉そうに言うのよ。だいたい、今回一番役に立ってないのはイチフサじゃない」
私はお煎餅の言葉を湯前さんに伝えたし、人吉くんは私が上手く話せない時にフォローしてくれた。イチフサはと言うと、その間隣でお煎餅を抱っこしていただけだ。
けれど、そう言われて堪えるイチフサじゃない。
「ひどいな。じゃあ俺はこれから、お煎餅の面倒見ることにするよ。妖怪になったんだから、俺の住んでる妖怪の里で暮らすといい」
「ホントかニャ。ありがとうだニャ!」
「ほら、これで俺も役立たずじゃないだろ」
どうだと胸を張るのが、なんか腹立つんだけど。
まあ、お煎餅のこれからも決まったんだし、いいか。
すると、そんな私達のやりとりを見ていた人吉くんが、驚き半分、呆れ半分って感じで言う。
「お前たち、仲良いな。って言うか、イチフサ。お前、本当にあの山の妖怪か? あそこは妖怪の里の中でも、特に人間と距離があるって言われてるんだぞ」
えっ、そうなの?
あの山の妖怪は、イチフサを除けば一反木綿たちみたいにごく一部しかしらないけど、とてもそんな風には見えなかったんだけど。
「そりゃ、同じ里でも色んなのがいるからね。人間だって、社交的なやつからボッチまでいるんだし、それと同じだよ」
「ちょっとイチフサ! 今ボッチって言った時、明らかに私の方見たわよね!」
急に何を言い出すの。しかも、人吉くんの前で!
クラスメイトにそういう話を聞かれるのは、かなりキツイものがある。人吉くん、お願いだから、聞かなかったフリをして。
と思ったら──
「ん? 錦、お前ボッチなのか?」
わざわざ聞かないでよ! 揃いも揃ってデリカシーがないわね!
だ、だいたい私は、ボッチだって平気なんだから。
「まあ、ボッチが嫌なら歩美とでも話せばいいだろ。あいつ、お前のこと気に入ったと思うぞ」
「そ、そう?」
ま、まあ、別にボッチでも平気だけどさ、話せる人がいるってのも、悪くはないわよね。
今度機会があれば、また声をかけてみようかな。
「おぉっ、結衣にもついに人間の友達ができるのか。よかったね」
「うるさい! あんたは私の保護者か!」
イチフサのやつ、この前から、私に友達がいないことに妙にこだわるのよね。なんなのよ。
「ほんと、よかったよ」
もう一度、イチフサが言う。今度は恥ずかしくて無視したけど、どうしてそんなにこだわるのか、その理由はさっぱりわからなかった。
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