第40話 怪奇現象の正体
9/3 主人公の名前を敦と誤記載した部分を淳に全話修正完了しました
混乱を生んですいません
主人公の名前は淳です
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ちょっとした失敗だった。
配信前に処分したと思い込んでいた呪物が、まだ残っていて、彼女ーー相間玲香はそれを配信画面に映してしまったのだ。
当時、呪物の配信前の取り除きはダンジョン協会から念を押されているだけで、別段絶対というわけではなかった。
呪物を映して、画面の向こう側のリスナーに害が及ぶという実例がなかったからだ。
ダンジョン協会とは密接に関わりのある配信事務所所属ならいざ知らず、事務的な関わりしかない個人配信者には、呪物の処理などせずに、そのまま配信することが多かったこともあり、そういう観点から見れば、600人以上を呪死させた玲香はまだマシな方だった。
だが大量死が起こったことで、その姿勢の良さが災いした。
大量死を起こした後に玲香はすることをして起こったのだから、結果として起こったことは深刻だが、それで刑事罰を受けることや遺族たちから袋叩きにされることを理不尽極まりないと感じ、逃げてしまったのだ。
周りの人間がただ自分が起こしたことを口実にして精神的な暴力を振るってくる邪な存在にしか思えなかった。
それにその時、ちょうど潜伏先として都合のいい場所があったことも彼女が一因になっていた。
淳に攻略されてモンスターがいなくなった伽藍堂のS級ダンジョン『怨霊の箱』だ。
そこならばダンジョンにまで手を伸ばせない上に、たとえダンジョン協会が協力して、攻略隊を送り込まれたとしても土魔法の使い手の玲香であれば土の中に潜り隠れるのは容易だった。
目論見は上手くいき、持ってきた食料が1週間ほどで尽きるまで土魔法で攻略隊から身を隠して過ごした。
それから食料の補充のために地上に出た時、スーパーに備えられたテレビから、世の人間からバッシングを家族が受け、兄が自殺寸前まで追い込まれたことと現在も行方不明の自分を捜索していることを知り、あまりの悍ましさに食料も買わずに『怨霊の箱』に玲香は戻った。
ただちょっとしたミスだけで、人を害意を持って傷つけても、それが見逃される世の中が恐ろしく、自分が生きていける環境は地上には残されていないと彼女は思った。
ダンジョンの奥底で身動きができなくなった玲香は、兄の自殺未遂のショックと外界の人間たちの恐怖、そして肝心の食料がないことで飲まず食わずで過ごし、潤沢なダンジョンの魔力があれば食事をせずとも自分の体を保持できることに気づき、一年経ってモンスターがリポップするまでなるべく魔力が濃い深層近くで生活した。
やがてモンスターが再構成する魔力が満ちたのか、空気中に流れる魔力が多くなるのを、魔力が見えるようになった目で確認して実際に深層の魔物がリポップするの見ると彼女は上層に移動した。
ダンジョンにずっと潜っていたことで、魔力の変容が進みS級ダンジョンの深層のモンスターとも戦えるかもしれない可能性があることはわかっていたが、なまじ一年のブランクと玲香が潜っていたダンジョンがBランクダンジョンということもあり、勝てるビジョンが見えなかった故の行動だった。
人から袋叩きにされるため地上に戻れず、逃亡先のダンジョンの中では一日中モンスターに追われる自分の身の上に対して、哀れみを覚えて、涙が出た。
そんな陰鬱な生活をしばらく続けていると、攻略隊が入ってきて、それに気づかなかった玲香が彼らの前を横切ったが、気づかれず、とうに彼らの動体視力の範疇で捉えられる動きをしていないことを理解し、人目を憚る必要性がないと気づいてたせいか、その日以来涙が止まらなくなった。
そんな彼女の泣き声が怪奇現象としてダンジョン協会に報告されるようになる頃になると、突然彼女の前に自分を追いかけてくる男が現れた。
普通に動いていても、玲香の動きはS級ダンジョンで攻略できるほどの攻略者に認識できない程で、今はさらに全力疾走をしているというのに、その男ーー伊藤淳はどんどんと距離を詰めて追い付いてきていた。
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