第38話 怨霊の箱


 ダンジョン協会からS級ダンジョン『怨霊の箱』は近いこともあり、協会長と話をつけた後、そのまま向かった。

 昔一度攻略したことがあるので、中の構造は大体のところは把握している。

 というよりもこのダンジョンはS級ダンジョンには珍しく巨大種が存在せず、大広間が存在しない。

 そのため、A級以下のダンジョンの構造とダンジョンの作りが同じになっているため、入ったことがなくてもダンジョンに潜った経験が長いものならある程度はどうなっているかは把握できる。


「今のところはまだ泣き声は聞こえないな」


 まだ入口であるということもあるが、初層で聞こえると言われる泣き声は聞こえない。


「HAHAHA! すげえ! やべえ!」


「ちょっとまずいって!」


 状況を確認して、声がしたので振り向くとチャラチャラした金髪碧眼の若い白人の男性とアスカさんがダンジョンに入ってきているのが見えた。

 アスカさんのプライベートについては知らなかったが、まさか外国人の彼氏がいるとは思わなかった。

 最近の子は国際色豊かだ。

 状況から見るに前アスカさんがS級ダンジョン配信をして、それをネタに彼氏にムチャぶりされてるって感じか。

 困ってるみたいだし、少し助け船を出した方がいいだろう。


「お兄さん、ここはデートをするには向いてませんよ」


「うわああああああ! 本物のDだ!!」


「デートじゃない!」


 ーーー


 聞くところによると、2人は出会ったばかりで、白人の男性ーーディヤリさんからここを案内してほしいと言われて、ここに来たらしい。


「自分実はDに憧れて、攻略者目指そうと思って、攻略者やってるんですけど、配信の仕事がてらこうしてD縁のダンジョンを聖地巡礼してたらD本人のイトーさんと偶然出逢えてマジ感激です!」


 ガムシャラに配信をした果てに、攻略者として認識されてファンができているとは思っても見なかった。

 しかもこの人は今度配信する時にエクスプレイから出ると資料で紹介された配信者だ。

 一応資料については渡されてるのだが、写真は髪がしっかりセットされており、今現在髪を下ろしている彼と同定できなかったので、それも相まって驚いた。


「奇遇ですね。俺はダンジョン協会からここの配信許可をする代わりに手伝ってほしいと言われてここに来たんです」


「イトーさんの覇業が成されたここで配信すか! 光栄す! 自分も協力するす!」


「ちょっと距離近いって。淳さんが暑苦しいって」


 どんどんと距離を詰めてくるディヤリさんを恨みがましい目で見つつアスカさんが引き剥がしにかかる。

 彼が俺のファンだと言った瞬間から機嫌が悪くなったように見えたが、配信者として隆盛を誇っている彼女からすれば自分よりも俺に彼の興味が入っていることで少しプライドが傷付いたのかもしれない。


 ディヤリさんの申し出はこちらとしても悪くはない。

 調査の確実性も上がるし、実際に配信する2人のこのダンジョンにならすことができる。

 この三人で初層の調査をすることにしよう。


ーーー


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