第28話 推し
エボリューションのリスナーが彼が血を流す様子を気にして、ダンジョンのエキスパートである剣道にコメントを送り、彼女が魔力の体の変容によるもので大事に至るものでないと答える様子を見て、アスカは内心で胸を撫で下ろす。
たかだか懸念だけで今見れているこの光景が一番日の目の当たる場所から追放するのは勿体なかった。
アスカにとっては一番好きなタイプの配信スタイルで、笑顔を絶やさないタイプの配信スタイルである彼女には絶対にできないスタイルだからだ。
彼女にとってそれを見るのは心地が良かった。
それに何よりもエボリューリョンが血反吐を吐きながら懸命に戦う配信スタイルはアスカがリスナー時代によく見ていた配信者ーー伊藤の配信スタイルによく似ていた。
アスカは伊藤が配信していた時に彼の活躍を見ていた数少ないリスナーの一人だった。
四年前に個人配信者が動画サイトから追放された時に、伊藤のチャンネルも消され、ダンジョン配信企業の動画を探ってみたがどこにも見つからず、アスカは絶望したこともあり、配信者としてデビューするに当たり、初めてマネージャーとして顔を合わせをした時には驚愕した。
できれば、伊藤にまたあの時のように配信をしてもらいたいが、もはやS級ダンジョンですら現在の彼に血を流させることが困難であることを前回知ってしまったために、もう叶わないだろうことを悟ってしまった。
だからこそ今の光景が遮られてしまうのは、当時彼女が焦がれた伊藤の配信を否定されるようで嫌だった。
それにアスカはそんな単純なことではないとはわかっているが、自分の過去の配信を失敗談のように自分に話す彼が少しでもエボリューションの配信を見て肯定してくれるようになることを望んでいた。
伊藤に憧れていたアスカにとって、彼女が好きだった彼の配信を本人から否定されるのは胸が引き裂かれるよう気分にさせられるのだ。
伊藤が自らの過去を否定するようなことを言うこともあってアスカは、初対面から短くない期間が経っているというのに、未だに伊藤にリスナーだったことを言い出せていなかったこともあって、その思いは一入だった。
どんな小さなきっかけでも伊藤が彼自身の配信を肯定するきっかけが欲しかった。
彼女にとってこれは逃せないチャンスだった。
「さあ、行くよ!」
エボリューションにさらに勢いをつけるために、彼の負けん気を煽るような派手な炎の嵐をモンスターたちに向けて巻き起こした。
ーーー
よろしければ、フォロー、いいね、星お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます