第14話 攻略隊への勧誘の答え
キメラもどきの頭のライオンの目を光魔法の光球のフラッシュでつぶしたのだが、蛇の尾の方は熱感知ーーピット器官があるのか、こちらを見つめている。
ウォーキングデッドはこの黒いもやが厄介なのと、棺桶に収納しようとしてくるのが面倒な程度なので、キメラもどきから先に倒した方がいいだろう。
跳躍するとライオンの頭を殴る。
骨が折れた音がするとライオンの首があらぬ方向に曲がるが、体は倒れず、蛇の尾がライオンの首がある位置に移動する。
「やっぱりタフだな」
空中で結界を発動させると、それを踏み台にして蛇の頭を蹴ると、背骨に踵下ろしをする。
そこまでしてやっと動かなくなった。
手間がかかるな。
強化の出力を少しあげてもう少しペースアップしたほうが良さそうだ。
呪物は魔法でしか破壊できないので、光魔法で唯一の放出系である回復をかける。
「グオオおおおお!」
回復を掛けると苦しむようにのたうち回り、黒いもやが薄れていく。
呪物には回復が唯一攻撃として機能するので、ちょっとした感動を覚える。
しばらくしてウォーキングデッドが絶命すると青い炎が燃え上がり、荼毘になって消えっていく。
呪物はこれのみだったようで黒いもやが晴れていくと薄暗闇に瞳の光がいくつも見えた。
複数の目と目が合うとこちらに向けて殺到し始めた。
浅い層のモンスターのように同類が倒されようと全く怯まない。
むしろ我先と襲いかかってくる。
普通なら画面がモンスターでぐちゃぐちゃになって、辟易するところだが今回は早く攻略したいので都合がいい。
ーーー
体が魔力で変容される激痛で体が動かせない剣道絢香は光で構築された壁越しに人外の戦闘を見つめた。
未だ発見されておらず、攻略法も弱点さえもわかっていない深層のモンスターたちを、雑魚と同じように屠っていく。
あれでも、もはや顔を合わせる前に倒されていた先ほどの中層までのモンスターと比べれば善戦しているのだから、ここで起きていることはどう考えても異常である。
どこまで行けば伊藤とまともに戦うことができるモンスターが出てくるのか、絢香にはまるで想像がつかない。
「流石にトップ攻略者の方は変容にあまり時間がかからないですね」
伊藤は虹色のゴーレムを拳をめり込ませ、体内にあるコアを潰すとこの層にある最後のモンスターを倒したようで戻ってきた。
周りにあった光の膜が消えると伊藤が右手を差しできたことで、絢香は体の魔力の変容が終わったことを悟り、その手を取った。
ここ最近は実力の高さと物怖じない性格から攻略部隊のまとめ役を任せられることが多く、人をリードすることはあっても自分がリードされることはなかったので、少しこそばゆい気持ちになりつつも立ち上がった。
手を取ると同時に光魔法の回復をかけられていたようで、苦痛によって失われてしんどかった気分が楽になり、なんとか自分の足で立てる状態になった。
「ありがとう。素晴らしい戦いぶりだった。今の様子からやはり君は攻略隊に必要な人間だと確信したよ。先日の答えを聞かせてくれるか?」
「すいませんが、攻略隊に参加するというのは流石にマネージャー業とは両立できないので。時間が空いた時に参加させていただくという形なら」
「そうか。欲を言えば攻略隊参加が一番だったが、それでも十分だ」
絢香は返事に対してマネージャーを職を辞職して、攻略をしてもらうというのは現実的ではないと考えていたため特に不安はない。
唯一の不安な点を言えば、昔人気ダンジョン配信者を目指してダンジョンを潜っていただけで、攻略者として死力を今現在尽くしている絢香よりもダンジョン攻略において高みにいることだ。
「すまいないがひとつ質問をいいだろうか?」
「どうぞ」
「昔、配信者をやっていたと先刻聞いたがそれだけでこれほどの実力をつけられるとはにわかに信じがたい。本当のところどうなんだ?」
「いえ、本当にそれだけですよ。どうにかして知名度を上げたくて多少の無理をしましたが」
「多少の無理?」
「普通の配信者のように攻略されている層を攻略するだけなく、未攻略の層もどんどん攻略していたんです。恥ずかしい話ですが、当時の俺には同接一桁である自分が見られるようになるにはそういう過激な方にシフトしていくしかないと思っていたんです」
「それでS級ダンジョンを素手で攻略するような破天荒な攻略スタイルに?」
攻略者として武器を持たないというのはあり得ないことであり、ましてや攻撃魔法が一切使えない光魔法使いである伊藤が武器に頼らないというのを不思議に思っていた絢香がそう尋ねると、伊藤は苦笑した。
「いや、素手で攻略しているのはそういう意図があったわけではないんです。最初は武器を持って攻略をしていたんですが、強化が使えるようになってから武器を使って攻撃すると武器が壊れてしまって。持っていくだけで初層で壊れてしまう無駄なものになってしまって、それで素手のみの今のスタイルになったんです」
「そ、それはすごいな。武器が破損するとは。確かに伊藤殿ならあり得ないことではないのだが、にわかには信じられん」
「試してみますか?」
「やめろ」
伊藤が冗談で試し斬りを持ちかけてきたので、急いで伊藤から大剣と太刀の二つの武器を背中に隠す。
武器が使えないというのは元から使っていたものからすると、あるものが失われてしまうようできついものがあるということを、怪我で攻略から手を引いた攻略者から聞いており、試し斬りをしたいというのはあながち嘘ではないと感じたからだ。
「素手で攻略するというのなら目立つはずだ。それなりには人気があったのだろう?」
「いえ、全然。一応本邦初のS級ダンジョンの配信までやったんですが、同接は大体1桁でしたね」
「厳しい世界なんだな、配信は」
「俺が難易度の高いダンジョンを攻略すればいいと思って、見る視聴者が高速で動く俺の動きが見えているのかとか、一瞬でその層にいるモンスターを倒してしまうのはつまらないということを考えずに脳死で配信していたのも悪かったんでしよね。当時はそういうことを考える余裕がなくてまだ過激さが足りないとか思ってたんですが」
「命の危機に挑み続けても君はそう考えれたのか。凄まじいな。その情熱から攻略者にならずにダンジョン配信業界に進んだのも納得したよ。ダンジョン配信事務所で仕事するのは楽しいかい?」
「ええ、楽しいですね。俺が六年掛けて手に入れることができなかった1分1秒を生きる人たちのサポートができるし、彼らには俺の苦しんだ六年があるからこそ、彼らが大きな価値を持つ人間だと深くわかるから、俺がやっていることがとても価値のあることだと思える。それにもう2度と挑戦できることはない配信のチャンスをまたもらえたんだから楽しくないわけがない。これからどんどん楽しくなると確信してますよ」
伊藤の言葉で彼が愚直に生きて、苦しみ、今に希望を見出していることを絢香は感じた。
絢香は愚直な人間が好きだ。
報われずとわからずとも腐らずに挑戦することは勇気のいることだと知っているからこそ、好意を持たずにはいられない。
心の底から友人になりたいと思った。
「伊藤殿、私の友人になってくれないか?」
「剣道さんのような方と友人になれるなんて思いもよらないことです。もちろん」
「ありがとう。これからは個人としても君に力添えすることを約束するよ。時間をとらせてしまってすまない。進もう」
絢香はそう言うと、友人と共に深層の奥に潜っていた。
ーーー
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