第13話 深層
「配信については受けてくださるとは。剣道さん、ありがとうございます。あれですが、アスカさんに直接会って求婚するというのはNGで」
「心配の必要はない。求婚は願望ではなく、ただの愛情表現だ。私は推しには接触しないと心に誓っている。アスカちゃんは人の手に触れられないような神々しい存在という自分の中のイメージを崩したくないんだ」
ファンとしてそこの線引きはかなり厳密に行われているみたいだ。
神々しい存在になぜセクハラするのかと思わないでもないのだが、仮にも異性に性的なこと聞くのは憚れるので飲み込む。
「もしアスカちゃんに誰かの手がかかりそうになったら、私に一報くれないだろうか。私がそいつをこの世から抹殺する」
「個人情報漏洩の以前に、犯罪に加担することになるのでそれは」
断りを入れる剣道さんは肩を両手に置いて、躙り寄る。
顔が整っているので、真剣な顔でよられると迫力がある。
「あの時は交際に関してNGという回答をもらったはずなのだが、伊藤殿は守る気がないのか。いやもしや……、伊藤殿がマネージャーという地位を利用してすでにアスカちゃんを毒牙にかけたというのか」
とんでもないことに気づいてしまったという感じで、目を見開く。
妄想がどんどん加速していく。
「硬すぎるので物理的に抹殺するのは無理な以上、ハニートラップで社会的に抹殺するしかーー」
「剣道さん、落ち着いてください。一応こちらからは交際はNGとは言ってるんですが、罰則するだけでアスカさん本人の行動制限したり、プライベートを嗅ぎ回ることなんてできませんので、我々はアスカさんの一存に任せるしかないんです」
「私のアスカちゃんが寝取られるのを指を咥えて見ていろと言うのか!!」
「アスカさんがそう望むのであれば」
「グゥゥゥ、クソ! アスカちゃぁぁん、結婚してくれぇ!!」
俺の肩から地面に崩れ落ち、男泣きしながら剣道さんは諦めたように求婚する。
それから10秒も立たない内に急にスイッチが切り替わったのか、すくと立ち上がる。
「取り乱してすまない。さて、進もうか。今回は時間制限もある。深層に入れるのはこの機会を逃せば10年もしくは一生ないかもしれないからな」
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一層5分もかからない容量で中層の最下層までを攻略し、階段をおりれば深層の一層に到着する。
中層の最下層は中ボスが出てくるので、流石に空気圧だけでは仕留めきれなかったが、そこを抜群の速さと威力を持つ雷魔法で剣道さんがしとめてくれたのでもう一手間かける必要がなくなって助かった。
深層でも魔法が通用すれば、モンスターが痺れてくれるので攻略も楽になるのだが。
「伊藤殿、魔力の濃さが数段強化されたものが階段の出口から漏れ出て見えるが、この下に一体何があるんだ?」
「今までのモンスターより段違いに強く、タフなモンスターと変わった呪物がいます。足を踏み入れた瞬間に振るいにかけられるので注意してください。俺の方でも手を尽くしますが完全には安全を保証できません」
「気遣い感謝するが、手心を入れてもらわずともいい。君よりは実力はないかもしれないがこれでも攻略者のトップであるという自負が私にはあるんだ」
確実に剣道さんは後悔すると思うが、彼女の意思をおざなりにすることはできないし、これからもS級ダンジョンの深層に挑むのならば悪いことではない。
それに初めての試みなので、もしかすれば失敗してしまう可能性も捨て切れない。
「ところで気になるのだが、下の階に降りるほどに伊藤殿の体の魔力が膨れ上がっている気がするのだが気のせいだろうか?」
「いえ気のせいじゃありません」
階段を越えて深層の一層に到着すると、振るいにかけられ始めたことを剣道さんが気づく始めた。
「剣道さんの魔力もどんどんと上がり始めています」
「何を言って!? ガハ!」
剣道さんが吐血した。
やはりまだ魔力による体の変容がこの高濃度の魔力を受け入れるほどに進んでいなかったようだ。
初めて深層に降りた当時俺もそうだったのでここから始まるこの高濃度の魔力に無理やり体を変容させられる地獄を思い出して、若干頰が引きつる。
死ぬほど痛いし苦しいし、魔力も一時的に使えなくなるのだ。
タフさだけには自信があったが当時の俺は体を引きずって、攻略済みの安全圏に戻ることしかできなかった。
「こ、これは!?」
「高濃度の魔力を体がそのまま制限せず受けとってしまって、体の中の魔力がオーバーフローしてるんです。苦痛と引き換えにこの濃さの魔力に耐えられるレベルまで魔力による体の変容が進みます。苦しいですが、深層である程度活動できるところまで強制的にレベルアップするようなものなので、耐えていただければ」
この状態でモンスターに襲われたらひとたまりもないので、光魔法の結界を剣道さんの周りにかけると、この層の魔物を倒すために奥へ進む。
呪物の黒いもやが立ち込めており、それなりに強力な呪物があることは間違いなさそうだ。
視界いっぱいに黒いもやは魔力を帯びており、魔力でモンスターを識別するのは封じられているので、目視でモンスターを見つけるしかない。
牽制のために虚空を殴って空気圧をぶつけると、視界確保と目眩しのために光球を発生させる。
「グアアアア!」「ボアアアアアア!」
周りが見えるようになると、目の前にモンスターの報告にあがっていない巨大なライオンの体と蛇の尾と蝙蝠の翼を持ったキメラのような魔物と、多数の足のついた棺桶ーー歩く呪物であるウォーキングデッドがいるのが見えた。
ーーー
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