第12話 かつて人気ダンジョン配信者を志したダンジョン配信者マネージャー

8話にグーグル翻訳を使って英語表記をつけました

よろしければ一読のほどを!


ーーー


「急に黙って、どうかしたのか、伊藤殿?」


「いえ、特には何も」


まさかトップ攻略者が自分の担当配信者にセクハラを繰り返すリスナーだったとは。

スカウトするには若干抱えている問題が大きすぎるような気が。

はっきりと配信をしてほしいと言ってないのでまだ引き返せるのだが、彼女を制御できれば、何も問題ないのではと俺の中のマネージャーとしての本能が囁いてくる。

それに一度だけ、アスカさんと鉢合わせしないように調整すればいいだけなのだ。

微々たる手間。

賽はは投げられたのだし、このまま進むべきだろう。

とりあえず地雷だとわかったので剣道さんにはアスカの話題はなるべく振らないようにしよう。


「思えばアスカちゃんが有名配信者になるのは、初配信の時から確定していた。内容はE級ダンジョン『ゴブリンの巣』でゴブリンを一体倒すというありふれたものだったが、アスカちゃんが配信することによって至高の芸術に昇華され、神々の祝福が与えられた。特にゴブリンを倒すときにアスカちゃんのスカートが揺れて、下着が見えそうで見えなかったあの瞬間はよかった。あの時に私の中の叡智の扉が開かれたんだ。スカートが見えるか、見えないか、ただそれだけの瞬間にあれほど魅力的だと感じるとは思いもしなかった。人によってはエチエチなどと下劣な言葉でーーー」


話が切れたと思ったのだが、再び剣道さんはアスカさんの話をし始めた。

一度スイッチが入るとどうやら喋り続けてしまうようだ。


「剣道さん、進みましょう」


「ああ、すまない。どうしてもアスカちゃんのことを考えると他のことをする手が止まってしまうんだ」


ーーー


アスカさんの話題がぶり返しつつも、落ち着くのを待って、剣道さんに合わせて雑談を交えつつ攻略途中の中層まで進む。

攻略中の50層に辿り着くころになると言葉少なになり、落ち着いたかと思うと、剣道さんは荒い息を吐きつつ、顔から玉のような汗を浮かべていた。


「ハアハア、すまない、少し休んでいいだろうか」


「剣道さん、大丈夫ですか?」


「少し休めば大丈夫だ。君のおかげで自分が思いの外軟弱だと気付かされたよ」


しまったな。

剣道さんのペースが体力が減っていくごとに落ちていくだろうことを考慮せずにずっと同じペースで走っていた。

ペースを合わせていたつもりだったが、逆にいつまで経ってもペースダウンしない俺に彼女を付き合わせてしまったようだ。


「すいません、俺に合わせさせちゃったみたいですね。回復かけますね」


回復をかけると荒かった息が穏やかになっていき、膝に手をついた状態から身を正した。


「ありがとう。体力も戻ったし、足の感覚が若干なくなっていたんだが、元に戻った。回復の方も大した腕前のようだね」


「そこまで無理を。本当にすいません」


「気にしないでくれ。私が勝手にやっただけだ」


安心させるためか、快活にそういうと剣道さんはそう言う。

配信の約束を取り付けたら未攻略層をいくつか攻略したら、切り上げようと思っていたが、罪滅ぼしのためにも剣道さんが攻略したい層まで攻略してもいいかもしれない。


「剣道さんは今日はどちらの層を目標に攻略をしているんですか?」


「もちろん最深層だよ」


最深層か。

夜からはアスカの企画の打ち合わせや宣伝のSNSの更新があるから、あまり時間はないし、急いだ方がいいな。

中層には時間はかけられないし、間引きのようにモンスターを敢えて残す必要もない。

強化を右腕に集中させて、振りかぶる。


「冗談だ。今が中層なのにそんなこと……。伊藤殿、それは何をしているんだ?」


そのまま虚空に向けて拳を放った。

空気が弾ける音が聞こえると、モンスター倒れる音が遅れて聞こえてきた。

モンスターに流れる魔力は静止している。

取り逃がしはないだろう。


「こ、拳を放った空気圧だけでこの層にいるモンスター全てを倒したのか!? そんな馬鹿な……。 伊藤殿、君は一体何者なんだ?」


いきなりのことで驚かせてしまったらしい。

何者とまで聞かれるまでとは。

最弱な故に攻略者や配信者に使い手が現存していない光魔法使いゆえの弊害だ。

情報が共有されていて戦い方が共有されていればこんなに驚かれることはないんだろうが。


「かつて人気ダンジョン配信者を志したダンジョン配信者マネージャーです」


マネージャーとただ答えるのも気恥ずかしかったので、過去の失敗を準えてそう答えた。



ーーー


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