第6話 S級ダンジョン配信
「へえ、そういうことするんだぁ」
ダンプロから届いた保留の返事に、アメリカ最大手ダンジョン配信企業『エクスプレイ』のエルメス・G・キングスレイーー巷でメスガキCEOと有名な彼女は日本に向かう飛行機の中で嘲るような笑顔を浮かべる。
エクスプレイはダンプロに淳の引き抜きを持ちかけた企業の最先鋒であり、その命令を出したのはトップのエルメスだ。
若干14歳にして大企業の頂点に君臨する彼女はすぐに動き出せる決断力もさることながら、大胆さもあり、ダンプロの取引が失敗しようと成功しようと日本に向かうことにしていた。
失敗した場合にはダンプロを通さずに淳を確保するため、成功した場合はトップの自らの姿を見せることでダンプロ側の心象をよくするために。
そして、失敗したという事実が判明した今、彼女の日本での動きは決定した。
「多少強引な手段を使ってもホームに持ち帰ったあげるわ。待ってなさい、伊藤淳」
ーーー
「ヒカリさん、1層と2層の下見は終わったから行こうか」
「本当に5分で下見できるなんて……」
S級ダンジョン『破滅の扉』の下見から戻ると、ヒカリさんが驚いた顔で俺を見る。
事前に説明しといたが、昨日S級ダンジョンに入り、その洗礼を受けた彼女には、にわかには信じられないのだろう。
「今回は間引きも最小限しか行ってないし、まだ上層ってこともあって呪物もなかったからね。ほとんど素通りで中の様子を確認しただけだから」
「あんなモンスター相手に素通りできるんですね」
「ははは、俺は昔から腐るほどダンジョンに入ってるからその分、身体能力も強化されてるからその恩恵だよ。ヒカリさんは最強の雷魔法の使い手だし、お茶を啜りながらでもできるようになるよ」
ダンジョンに潜ることによって起こる体の変容は、使える魔法の強化にともならず、徐々にではあるが体も強化されていく。
俺の場合はS級ダンジョンの上層のモンスターならば、強化せずとも振り切れる程だ。
雷魔法でほとんどのモンスターに有利を取れるヒカリさんならば、途中で撤退などの事態にも陥りにくいため効率的にダンジョンに入れるから、2、3年ほどで今の俺を抜くだろう。
「そろそろ告知の時間にも近いし、ダンジョンの中に入ろうか」
---
ダンジョンの中に入ると、昨日の大広間から配信を開始することにする。
ここであと二体のモンスターを倒せれば、ヒカリさんのリベンジマッチのようにできるかと思ったが、下見の時までいた二体のモンスターの姿が消えている。
知性が高いので形成不利と悟り、場所を移したかもしれない。
「2体が消えてるから、大広間とかに出た時は気をつけた方がいいね。ヒカリさん、もうカメラONして大丈夫かな」
「大丈夫です」
「じゃあ入れるね」
ヒカリさんから許可をもらったので、ドローンのカメラのスイッチを入れる。
・ヒカリたそファンのものです
・ダンプロの公式配信と聞いて
・無修正版アスカマネが観れると聞いて
ダンプロの方で気を利かせて用意してくれた台本のセリフを思い出しながら自己紹介を始める。
「皆さん、こんにちは! ダンプロでアスカのマネージャをさせていただいてる伊藤です」
・モザイクが消えたマネさんきちゃ!
・性なる光の向こう側はこうなってたのか
・性なる光のせいで、ヤクザか、ヤリチンみたいな人かと思ってたけどちゃんとした堅気で草
・伊藤マネ、アスカちゃんと僕の真剣交際は許されますか?
・アスカガチ恋ニキここにも出現して草
・事故配信から配信業まで駆り出されてて、社畜の鏡すぎる
・イトゥーマネお疲れ様です
「アスカさんとの交際はNGです。うん? 何だか眩しいなあ。 眩し……あ、あなたは!! ダンプロNO,1配信者の最上ヒカリさん!!」
「コンピカ! 最上ヒカリです! 今日は伊藤さんと一緒にS級ダンジョンを攻略したいと思います」
・初手茶番草
・イトゥーマネの交際NGと茶番の温度差で草
・コンピカ
・コンピカ
・ヒカリたそきっちゃ!
・引き抜かれそうって聞いてたから実物見て安心した
・また同接一億行ってて草
・同接のインフレが止まらない……!
・ヒカリたそ、いつもコンピカ言ってないくせに公式でかまととぶってて草
・謎の逆光で草
・昭和のスタアの登場の仕方で草
・涅マユリかな
「心強いNO,1配信者のヒカリさんも来てくれたので早速S級ダンジョンの奥に進んでいきたいと思います」
台本にあったセリフ通りに自己紹介を終えると大広間の向こうにある薄暗い通路に光魔法で灯を作ってから進んでいく。
「あの赤い目、ラット系の魔物ですよね」
灯りのもとで毛がモコモコの大きなネズミが蠢くのが見えると、ヒカリさんが声を上げる。
「そうだね。あれはラット系で一番速いって噂のトップラットていうモンスターだね。素早い上に毛皮は斬撃を弾くし、群れで連携して動けるくらい知性が高い。見た目は可愛いし、個体として強さはそこまでだけど、群れの強さは昨日のテラスネークと同程度だから気をつけて対処してね」
・ためになるな
・詳しすぎだろ、マジで何者このマネさん
・S級ダンジョンで遊んでいるだけあって詳しいな
「ちょっとした作戦だけど、あいつらは魔法にはめっぽう弱いから俺が纏めて拘束している間に、俺ごと雷撃を加えてくれるかな」
「わかりました」
・?
・?
・?
・ちょっと待ってマネさんおかしいことを言ってるのにツッコミが入らない
・いやいやウォータースライダーで水魔法でノーダメはわかってるけど、雷魔法は流石に
・ヒカリたそ正気になって
・マネさんなら大丈夫だろ
・判断が早い!
・ワイらがおかしいんかこれ
俺はヒカリさんに簡単な作戦を説明すると、寄って集まっていたトップラットの横合いからタックルする要領で壁に押し付けて拘束する。
できれば雷撃など浴びたくはないが、こうしないと素早すぎて魔法がろくに当たらない。
「行きます!」
背中に雷撃が落ちる衝撃を受けると、「キィ!?」とトップラットの断末魔が聞こえて、腕の中で頽れていく。
立ち上がって見ると肩が軽くなってたので、肩を回して調子を確認しながら、トップラットの息の根が止まっているか確認する。
・ファーーーーWWW
・マジで雷落としたの草
・なんでイトゥは何事もなく立ちあがっとんねんw
・肩の調子良さそうで草
・たその雷には肩こりを治す効果があったのか
・今から俺S級ダンジョン行って来ます
・なるほど、1ヶ月缶詰で働ける秘訣はヒカリたその雷だったんですね
・S級ダンジョンのモンスターよりも、マネさんの方が未知の生物で草
・トップ攻略者の剣道ちゃんよりやばいだろこの人
若干俺に注目が集まりすぎな感もあるが、公式の配信でヒカリさんの枠でもないし、そこまで気にするようなものでもないか。
「進もうか」
トップラットの息の根が止まったことは確認できたので、先に進むことにする。
ーーー
よろしければ、フォロー、いいね、星お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます