第5話 バズった結果


 S級ダンジョンから出て、同接を確認すると瞬間の同接が1億を越していた。

 今までに配信で見たこともない数字に自分の目を疑う。

 しかも、配信サイトのライブチューブに俺がウォータースライダー中に、ヒカリさんたちと遭遇する切り抜きが大量に上がっている。

「テーマパークに来たみたいだぜ。 テンション上がるなぁ〜」という捏造されたセリフのサムネイル付きでだ。

 フェイクニュースはこうして生み出されてしまうということを身を持って知らされる。


「これが人気配信者が経験している日常か。とりあえず社長と今後の対応について相談するために移動するから、俺が運転してる間、大火は後ろでヒカリさんを見守ってもらえるか」


「日常じゃありませんよ。先輩が人間辞めてるせいです。わかりました」


 俺が背負っていた気絶したままのヒカリさんを後部座席に座らせると、後部荷物スペースに武器を雑に詰めて、後部座席に乗る。

 運転席に乗り込むとエンジンをかけてすぐに車を出発させる。

 所属している配信者がデカいポカをした時は身柄を押さえた後に迅速に動くのが大事だ。

 身柄を抑えるのが遅れた場合、感情的に何かをして被害が爆発的に広がり、迅速に動かなかった場合は迷惑を掛けた関係各所の機嫌が破滅的に最悪になる。

 例外として、迅速に動いたとしても破滅的に悪い場合もあるが。



 ーーー


「これがどういうことがわかってますか?」


 ダンプロの社長ーー神崎アリサの部屋に入り、応接セットの椅子に座らせると、アリサの冷え切った声が俺たちに投げかけられる。

 大学から縁がありかれこれ8年以上の付き合いがある俺にはアリサが激怒していることがわかった。

 学生時代にアリサに借りた彼女の新車を事故って、廃車にした時以来だ。

 あの時の生きた心地がしなかった記憶がリフレインする。


「わかってます」


「わかった上でやったということですか。正気じゃないですね」


「全部私の至らなかったせいです。社長申し訳ありません」


「謝罪など聞いていません」


 ヒカリさんが答えると、吐き捨てるように彼女の判断を批判し、大火が平謝りすると取り付く島もなく突っぱねる。

 正直に言ってもだめ、謝ってもだめ、こうなったら何をやってもアリサは怒る。

 俺が内心でデストロイモードと呼んでいる状態だ。


「そう釣れない態度をとるなよ。ギスギスしたって関係各所に係る迷惑が増えるだけだし」


「淳、黙りなさい。それくらいわかってるけど、それを理由に手心を加えてもらえるだろうと思われるのは嫌なのよ。それにあんたも休めって言ったのに、よりにもよってS級ダンジョンで仕事してるから同罪よ。むしろ海外の大企業から提携してやるから淳を寄越せみたいな話が大量に来ててそっちの方が大変なんだから一番罪が重いと言っても過言ではないわ」


「なんで俺が!?」


「あの配信解析されてあんたが全部やったてわかったからね。あんたがいればS級ダンジョン配信を安全に配信できるし、攻略者たちが攻略するのを淳にやらせて、S級ダンジョンの配信権を独占することができるんだから、大手は喉から手が出るほど欲しいでしょ。それに前者に関しては死亡者を出したせいでかなり厳しいらしいから」


「そういう事情があるのならあっちも相当本気ってことだろ。断っても大丈夫なのかそれ?」


「断ってないから大丈夫よ。全部保留にしといたわ。S級ダンジョンの配信成功させた今なら実績重ねて手を引かせることだって可能だし」


「相変わらず逞しいな」


 普通の経営者ならここで睨まれないように割を食っても従うのだが、まさかこの不足の事態にそれを蹴って、状況を利用して成り上がろうするとは。

 だがこの選択は俺として嬉しい。

 この会社はこいつとゼロから立ち上げた思い入れのある場所で、大企業の都合でここを捨てるなど考えられないし、それを受け入れることは社会人になってから積み上げた全ての時間を否定することと等しいからだ。


「ライバル企業を実績で黙らるのが私のスタイルだからね。私から逃げられるとは思わないことね、淳。そのために早速仕事をやってもらうことになるけどいいかしら」


「いいぞ。S級ダンジョン配信の調整ももうないしな」


「じゃあ決定ね。明日から淳にはS級ダンジョンの配信をやってもらいます」


「大丈夫か。ダンジョン協会は許しても日本の他の企業が黙ってないと思うが」


「大丈夫よ。今回の件で騙し討ちみたいな形になったし、今更気遣ったところでもう意味はないから。それに他のところの力を借りなくても、今回のことで案件がパンクするくらいには殺到するくらいの自力はついたし。もはや他の有象無象など気にせずに進むしかないわ」


「大丈夫ならいいが」


 人選にマネージャーということも少し不安が残るがS級ダンジョンをこれ以上続けて配信するには、事務所の配信者で一番攻略能力が高いヒカリさんが無理な以上、俺しか選択肢はない以上それしかない。

 今なら今回の配信の熱が残ってるので、未知のS級ダンジョンの魅力に惹かれて、人気配信者でない俺でも十分見てもらえる可能性が高い。

 でしゃばった真似をすることになるので、それで炎上する可能性もあるが、今回のことの尻拭いの面もあるのでそこはもう腹を括るしかないだろう。


「なんだかんだで今回のことは事務所の繁栄につながったし、かえってよかった感じですね」


 俺が決心すると、大火が罪から逃れるために余計なことを言った。


「大火さん。明日から淳と同じスケジュールで働いてもらうから」


「私に死ねというんですか、社長!」


「死になさい。あとヒカリさんは明日から淳と一緒にS級ダンジョンを回ってもらうから死なないように頑張って」


「私最初の層でやばかったんですけど」


「知りません」


 最初からそういう予定だったのか、急遽決めたことはわからないが、大火の言葉が起点となり、断罪の言葉が2人に告げられた。




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