22 合戦

合戦前の夜。教会にて。

「シトリン、アンタまたネコババしたね?」

「してません!」

銀貨が一枚減っているのを見て、ミランダはシトリンを問い詰めた。

「本当?」

「本当!」

「本当にホント?」

「本気と書いてマジ!」

(うーん…)

シトリンは泰然と、ニコニコした笑顔で答える。

(…中々口を割らないね。どうしたものか。)

(…よし、一発、技を試してみるか。)

フェクトが目を閉じて、ピンク色の様な光を放ち始めた。魔法のチャージをする。

「あ、アンタ何するつもりだい?!」

(ヒュプノシスレイ!)

フェクトは目を見開くと催眠光線を放ち、シトリンはそれを見てしまうと、焦点が合わなくなる。眠たげな眼をして頭をふらふらさせ始めた。

「はれ?はにゃ?」

(出来た…?!)

「出来たじゃないよ!なんてことしてくれんだい!」

(大丈夫だって!多分!すぐに元に戻るから!)

ミランダはシトリンの肩を掴んで揺さぶった。

「シー?!大丈夫?!」

「んぇ~?んふふ。大丈夫大丈夫~。」

受け答えは出来るようだが、まるで酩酊状態だ。いつも以上に語尾を伸ばして、ふわふわした受け答えになっている。

「あのさ~ミランダ~。知ってるぅ~?」

「どしたんだい?!」

「カメのお〇ん〇んって、自分の頭より大きいんだって~!凄いよね!」

ミランダは少し顔を赤くして彼女の肩に掴みかかった。

「…どうしちまったんだいシトリン?!気をしっかり!」

「青い鳥は輪っかの大きなミルクで声ばっかりうるさいんだよ!許せない!」

支離滅裂なことを言い出している。

(全身麻酔を受けた手術前の患者みたいだ。)

「シトリン、ちょっと…」

肩に触れようとすると、シトリンはミランダに指を示した。

「ミランダ!お花踏んでる!」

「花…?」

「パンジーの花を踏んでる!食らえ!パァンジィィィラァァァァッシュ!!」

彼女は突然ミランダにラリアットをかました。不意を突かれて直撃を食らい、仰向けに転倒して派手な音を立てる。

「ぐぇっ…重っ…」

四つん這いになって咽ていると、シトリンは右往左往して叫びまわる。

「こちらキロ1-4よりぶちゅぶちゅまさしへ!街でコンバットパンツ履くな!」

「シトリン、そっちは壁だよ!」

壁に向かって怒り出し、前に進む。ミランダが羽交い絞めにして衝突しない様に押さえつけた。前後不覚に陥っている。

「アッハハハハ!ンョ゛ハー゛!」

羽交い絞めにしたまま1分ほど暴れまわるが、治りそうもない。質の悪い酔っ払いを相手にしている気分になってきた。

(ダメだこりゃ…全然治らないぞ。)

「お前がやったんだろ!何とかしろ!」

(猫だましだ!顔の前で手を叩け!それで治る!)

ミランダは顔の前で拍手するが、グローブのせいで上手く音がならない。

「あをによし 奈良の都は 咲く花の にほうがごとく 今盛りなり。」

「シトリン!しっかり!ちゃんとこの国の言葉喋って!」

(グローブ外せ!大きな音を立てるんだ!)

ふらふらする彼女は、手を叩こうとするミランダにもたれ掛かる。


パチィン!


「いったぁぁぁぁぁい!」


シトリンは正気を取り戻したが、ミランダの拍手の間に顔を入れてしまい、両頬が真っ赤になっていた。

「もー!次やったら本気で怒るからね!」

(はい。この度は誠に申し訳ありませんでした。)

触っていない彼女には声は聞こえていないが、目線を落として反省している。

「なんでウチが怒られる側になってんだい…」

フェクトはテーブルに乗せられ、ミランダは頬杖をついて不服の表情で貧乏ゆすりをする。

「ネコババしたことは謝ります!でも、女性に催眠光線を当てるなんてのは、ダメです!最低!スケベ!ゴミカス!」

(はい。私はスケベです。)

「罰として!フェクトにはまたお手伝いしてもらいますからね!またあのトカゲマンになってきなさい!」

彼女は顔を寄せて、フェクトの目の上を人差し指で突っついた。彼はゴトゴトと前後に揺れる。

(また右手首詰めろってのか。可愛い顔して鬼だね。)

「一晩で治るだろがい…まぁ、それなりに面白いもん見れたし、チャラにしたるよ。」

「私なんて言ってたの?」

開口一番に下ネタだったことに、フェクトは目をそらした。ミランダはむふふと笑った後に、口元に人差し指を当てた。

「秘密!」

「えー!ずるい!教えてよ!」

「ずるいもなにも、アンタが言ったんじゃないか。アハハハ!」

彼女は逃げる様に寝室へ行き、シトリンが追いかける。

(ミランダが笑うのも珍しい。本当に仲いいんだな。)



・・・


合戦の予想日がやってきた。1層の殆どの部屋がネスト化して、最早入れないほどのザコモンスターに覆われているとの情報があった。

招集は朝早く。ミランダの指示された配置は、旧市街区の建設中の出城からすぐ左。ルイーディアの家に向かう際にいつも通過する検問だ。

今回は壁外から川下りの避難誘導は出来ず、シトリン達、旧市街区の住民は、教会の裏や商店街の隅で待機している。壁門が破られた場合、一目散に中央街方面へ逃げて貰う手筈だ。

指示された場所に向かう前に、門に登って配置を見る。出城の建設は進み、10メートル近い門が半分に切り崩されている。その防壁を中心に、平地にも陣地が構築されている。

(今回は運がいいね。今まで通りだったら、突っ立ってみてるだけで終わる場所だ。)

(だといいが。今回は今までとちょっと違うんだろ。)

(配置だけね。不安になること言うんじゃないよ。)

前線で衛兵が掘り進んだ空堀の後ろには、大砲や投石器。その裏に冒険者達がいる。詰め寄られて空堀が突破されたら、衛兵たちは武器を引き下げて退却し、壁内へ入場するまでの時間を冒険者達が接近戦で稼ぐ。

そこでどれだけモンスターを多く倒せるか、活躍を見せつけられるかが冒険者の見せどころだ。

ミランダは門を降りて、持ち場につく。前線よりは緊張の糸は緩んでいる。祭りの裏側の様なざわつきようだ。

(知ってる顔はいないな。)

(そりゃねぇ。冒険者なんていっぱいいるさ。)

同行するパーティーは6つ。総勢20名程度。装備は貧相だ。いいところで、ウィザードレイスの持っている粗宝玉の杖。1つ当たり2~4人の小規模で中層に挑んだことがあるかないかといった低練度の連中。

(装備を見るに、評価順で追いやられた感じか?)

最近は評判も良くなったこともあって、腕の立つパーティーと組まれたりと考えたが、そうでもない様だ。

(まぁね。ウチはギルドに顔出さず、依頼も受けないで稼いでいるし。実績で見れば、ぺーぺー扱いされても文句はいえないねえ。)

高位の神職や魔術師が居ないとなれば、フェクトの気配や念話も聴かれないし、隠れる分には都合がいい。戦力は心もとないが、運がいいともいえる。

(君は前線は出たことあるのか?)

(何度かやったことある。大砲が足りなかったりすると、ルーキーだろうと嫌でも配属されるね。今は衛兵も大砲も増やしてるって話だし、今回は余裕だろうさ。)

分解していた弓を組み立てて張っていると、後ろから声をかけられる。

「ミランダ!」

「ルーイ、来てたのかい。」

「今までと違って家が近いからね…一人で自宅を守るより安全だろうし、アンタと組むわ。」

「そりゃ助かるよ。」

(冒険者じゃないから、ただ働きになるんじゃ?)

フェクトが聴くと、ルイーディアは引き攣った笑顔でミランダの胸元に顔を寄せる。

「そうよ。誰のせい?」

(はい。俺です。すんません。)

「また家の増築して貰うからね。」

(ぐえー。シトリンに続いてキミもかよ。)

「リザードマンの体を取ってくるなら、ウチにもお礼が無いとねぇ。あのカタナっての、今度こそ使うからさ、また作ってくれないかい。」

(え~?評価が着いたならこの際、売り払っちまったほうが儲かるぞ。)

「掌返しやがったコイツ。頼むよ~。」

気怠そうにフェクトは態度を変える。

(お前すぐ武器投げるし~。武器でガードしまくるから寿命もガンガン減るし~。)

「弓買ってからは敵の武器しか投げてないだろがい!」

(弓矢だって俺の付与魔法がメイン火力じゃねえかよ!冒険に関しちゃ俺がお礼貰うべきだ!)

「んぐぐぐ…なぁ頼むよ。(今度ルーイが寝てる時忍び込んでさ、アイツのオッパイ見させてやるから。)」

ミランダは念話を発することは出来ない。フェクトが接触している彼女の心を読んでいるからルイーディアには聞こえていない。フェクトはスッと態度を紳士的に変えた。

(オホンッ。まぁ仕方ない。業物を振らせる前にお預けするのもな。売る用と一緒に作ってやろう。)

「ぃやった。」

2人は意気投合した直後、ルイーディアを薄い目で見る。

「なんか…下卑た目で見られてる気がするわよ。」


午前を過ぎても合図はまだない。皆は昼食を取って、ちょっとした修学旅行の様な空気になっている。

(緊張感ねえな。)

「奴ら夜を待ってるのさ。」

「アンデッド主体の合戦になりそうね…厄介な…」

ルイーディアはため息をついた。フェクトも顔は無いが、苦い表情をする。

(暗黒戦士はもう勘弁だぜ。深層と同じ構成なら、装備の違うのが数体まとめて出てくるんだろ?もし来ちまったら、このメンツで対処できるのか?)

「無理。私だってミランダと同じかそれ以下の実力よ。奴らの防御を剥がせるレイブライトを使えるのがアンタぐらいしかいない。死霊剣士でも魔法は激しく使ってくる。」

神官は一人だけ居るが、見るからにまだ新人だ。個人差はあるが、ヒールライトが最も最初に覚える魔法で、その次にレイブライトになる。それまでは風や土魔法の習得もあり、覚えるのは初級の最後の方になる。

(派手に光るからミランダが使ったって絶対に分かるぞ。松明の光じゃダメなのか?)

「影がはっきり見えるぐらいに明るく出来れば火の光でも行けるだろうけど…」

「戦ってるうちに範囲外に出るか、掻き消されちまうか。どだい無理な話さね。」

(マジかよ。)

「うちらがやらないわけにいかないだろね。新人の連中だって将来もある。ま、そう簡単にここまでは来ないだろうけど。」

(閃光手榴弾でも作れればな…マグネシウムの抽出なんかとてもとても無理だが。)


日が傾き、夕日が雲に隠れた。まだ空は雲の白さと赤みが残るが、数分もすればあっという間に日が沈んで暗くなる。角笛の音が鳴った。モンスター出現と侵攻の合図だ。

「おっぱじまったね。ルーイ、前線じゃないからって油断すんじゃないよ。気合入れな。」

「分かってるって。」

「様子見てくるよ。」

彼女は壁の上から丘陵地帯の高原の様子を見る。2つの目の光がふらふらと、大量に歩いてくる。大半がアンロッテンだ。

北の壁沿いは衛兵たちが叫びながら、長大な投石器の列が焼けた石を投げ始める。大砲の待つ空堀より先へ着弾すると、爆裂する。

空堀の手前からは山なりに火矢も放たれ、魔法の光が大砲と人影を映していた。

太陽が沈み、日光が赤い一本筋の光になった時、大砲の砲声が始まった。赤い粒子状の光が放たれては消え、白煙と黒煙が風に乗って西へと流れていく。

(こりゃ戦争だわ。他のダンジョンがある街もこんな調子なのか?)

「あぁ。」

しばらくすると角笛の音が鳴る。砲声が止み、大砲が車輪に乗って後退し始めた。今度は冒険者達の雄たけびがすると、無数のレイブライトが球になってふわりと浮き上がり、前線が明るく照らされ出した。

砲声の音から、金属同士がぶつかる剣戟の音に変わる。

投石器は尚も石を投げ続ける。フェクトは眼下を見下ろした。

(…どういうこった?)

確かに彼は出城の建設場所に寄ってくると予想はしていた。だが、全ての魔物の群れが出城に一点に向かってやってきている。空堀から溢れたグループは、正門からくるはずだ。

ミランダ達から見て、右に行く魔物が一切いない。

「フェクト!あれ!」

モンスターの群れの一部が溢れ、空堀の左端から森に入っていく。あそこは起伏が激しい丘陵地帯の上にヤブの深い森。

(人が立ち入って陣地構築も出来ない場所へ?何故だ…?もっと楽な正門側に来るだろう普通は…。)

流れを見るに、奴らは旧市街区を覆う様に進撃してきている。フェクトの想定と違う。

「モンスターには関係のない話さ。戻るよ!」

ミランダは急いで持ち場に戻る。急な角度のついている壁を滑り降りて、着地すると前転を3回ほどして止まった。

衛兵やルーキー冒険者は彼女を見てどよめく。

(ミランダ、衛兵に銀貨1枚渡して、松明を大量に持ってこさせる様に言うんだ!)

彼女は頷いて、衛兵に話しかける。彼は旧市街区には来ないだろうと高をくくって油断しきっていた。追加でもう1枚を衛兵に渡して急ぐ様に言う。

新人冒険者達もモンスターなど辿り着かないと油断しきっている様子だ。

「くそ!こんな奴に銀貨2枚もとは、癪だねぇ!」

(勝利の為だ!)

ルイーディアの下に戻ると、2人は警戒する。彼女の対応に冒険者達は半信半疑だ。

数分して緊張の糸がほころんできたところに、ミランダの目が細まる。

「来たね…!」

ゆっくりと膝丈ほどの生き物がこちらにやってくる。ミランダは松明を投げて敵を照らした。

顔が爛れ落ちているゴブリンだ。ゾンビ化して、目に刺さったヤブの枝を払いもせず、投げられた松明の炎を気にする気配もなく真っ直ぐ検問へやってくる。

ミランダの矢が脳天に突き刺さり、倒れた。大量にゾンビ化したゴブリン達がやってくる。

「ほ、本当に来やがった!」

(まだ足の速い斥候のザコだな。ルーイはまだ温存!弓矢で終わらせよう。)

「弓矢を撃て!近寄らせるな!」

ミランダの合図で弓矢と鉄砲の攻撃が始まった。あっという間にゴブリン達は倒れていく。

「次が来てるわ!」

光っている目の背丈が高くなった。

「アンロッテンか!」

(まだ松明は来ないのか…適当に投げて地面に置いておくだけでも、視認出来れば飛び道具が効く。余り詰め寄られたくないんだが。)

後列の冒険者達は矢を放たなくなった。ミランダの投げた松明にアンロッテンの姿が映ると、松明の炎を踏んで足を燃やしながらこちらに歩いてくる。冒険者達はどよめいた。

「チッ…狼狽えるんじゃないよお前ら!」

ミランダは武器を抜いた。ルイーディアも魔女の帽子をかぶり直し、杖を持つ。

「さてフェクト、どうする?」

(俺に聴くのかよ。)

「アタシもう冒険者じゃないし。なんだかんだ頭いいアンタを頼りにしてるからね。」

すっかりリーダーの様な扱いを受けてしまっている。彼はミランダを見た。

(やれやれ…ミランダ、アンロッテンの対処で面倒なのは、弓矢と魔法使い、だろ?)

「あぁ。ルーイ、初手に広雷撃を頼む。私が突貫して、弓兵と魔術師を取る。」

「雷撃?アンデッドには炎じゃ…」

(撃てばわかるさ。やるぜ!防御障壁、展開!)

ミランダは彼女の前に陣取り、武器を構える。フェクトが防護壁を展開すると、ルイーディアは杖を地面につけ、先端の宝玉に手を添えて集中する。

弓矢が飛んでくる。彼の物理障壁が矢の衝突で光り輝きながら弓矢を止め、ミランダは目を凝らして弓兵と魔術師の位置を探る。前列には戦士タイプがいるから、わずかな距離の差と歩いて頭が揺れ動いていないのを見極める。

(相手の魔法の予兆が見えたら、だ!)

暗闇で杖の先端が光った。

「撃って!」

「行くわよ!広雷撃!」

電撃が飛んだ先で、円形に雷撃が広がった。明後日の方向に矢が飛び、足をピンと伸ばして一列に目の光が並ぶ。

「行くよフェクト!」

(任せろ!)

ミランダは両足に風を纏った。敵集団に一気に駆け寄る。

「あ、足に風魔法の付与…?!魔法を装備した…?!」

暴風と共に帽子が飛ぶ。尋常ならざる速度で走るミランダを見て、ルイーディアは驚愕した。

先頭の剣持ちを突き、切り捨てて松明を拾い上げ、山なりに投げる。その松明の明りに追従するように彼女は近接の集団の外側を迂回して後列へと入った。

矢をつがえ直しているアンロッテンの群れと対面する。

(ミランダ、真空波だ!)

「せぇの!」

(真空裂刃!)

体に纏っていた風魔法を剣に集中して、彼女は回転斬りをする。前方の敵をいっぺんになぎ倒すと、彼女の風魔法が解けた。雷魔法のチャージを始める

ミランダは弓兵をサーベルでバッタバッタとなぎ倒していく。

(広雷撃!)

フェクトが動きを止めては彼女が切り開いて進む。弓兵を仕留め終わると、更に後列に居る魔術師たちの光る目と視線を合わせた。

「フェクト丁度いい。この辺は暗いし見えない位置だ。手足の動き合わせてやるから、アンタの複合魔法をぶっ放しちまえ。」

(いいねそれ。久々にやっちまうか。見てやがれよ。)

ミランダは剣を地面に突き立てて、左手を添えた。石を出して竜巻の筒を作る。不思議と2人の息は合っていた。見えないはずのフェクトの体の動きが、彼女にも伝わってくる。

(不思議だ。以前よりも遥かに魔法のコントロールがしやすく感じる。)

最初にやった時よりも、竜巻は長く、そしてバコっと石が薄く、とがった円盤形状に砕け。ミランダの右手の甲に赤く火炎魔法の光の玉が浮かび上がる。

ミランダは石を殴り飛ばした。

(食らいヤァァァ!爆裂礫・フレシェット!)

ボンっという音と共に、石礫が吹き飛ぶ。後ろの木々の幹を抉る様な威力の石が無数に飛び散った。

「はは!いいねえこれは!」

(もいっぱぁぁぁつ!更にもいっぱぁぁぁつ!)

あっという間に魔術師たちは倒れた。後ろから近づいてくる両手剣のアンロッテンの攻撃をミランダは剣を抜きながらステップで躱す。

腕を斬り、武器を奪って投げつけながら離れる。繰り返し戦闘を続けているうちに、検問が見えて来た。

「ミランダ!」

「ふん、今更こんなザコに遅れは取らないよ。」

背後から最後のアンロッテンを両断して、彼女は剣を振るって埃を払う。フェクトは目を閉じて鎧に擬態し、ミランダはマントを着なおした。

「油断すんな。まだ終わっちゃいないんだかんね。」

冒険者達は彼女の姿にざわめく。40体は居たアンロッテンがあっという間にいなくなった。


しばらく休んでいると、また光る目がやってくる。今度は3体だ。

「…新手のお出ましよ。またアンロッテン?」

「いや…神様ってのも、酷いことするじゃないか…」

暗黒戦士が3体だ。直剣と大盾、サーベルの二刀流、宝玉が着いた金属の杖の魔法使い。全ての武器にエンチャントの光る模様が施されている。

(この間は1匹で精いっぱいだったってのにかよ…バカにしやがって。)

ルイーディアは姿を見て全身から冷や汗を流す。衛兵に至っては腰が抜けてしまった。

「フェクト、対策思いつかない?」

(もう魔法バレとか四の五の言ってらんないな…一応、考えては居たさ。ルーイ、でかめの氷柱を立てることは出来るか?)

「えぇ…それぐらいなら…」

(時間を稼ぐ。間隔を開けて氷柱を3本立ててくれ。なるべく透明度の高いヤツで、三角形の面を奴らに向けろ。こんなヤツだ。)

フェクトは形を頭に念じてルイーディアに語りかけた。人間の身長と同じぐらいの鋭角の三角錐を送り付ける。

「分かった。透明度が高いのはちょっと時間かかるわ。」

(分かってる。頼むぞ!)

ミランダは立ち上がり、再び足に風を纏わせた。

「やるよフェクト!旧市街区には…」

(一歩も通さん!)

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