21 武器屋
後日、ミランダはまた中央街区の精錬所の大きな武器屋に来た。合戦が目前に迫り、中央街区でうろついているのは冒険者だけだ。
ドアを開けると、人が多い。中央の立てかけている棚にはミランダと同じぐらいの身なりの冒険者が何人もいる。
人の居ない角には、籠にむき出しの刀身ごと雑多におかれた数打ちの剣がある。冒険者は命を預ける武器だからか、少しでも質が良く高いものを買う傾向にある。
集団を避けて、弓矢の置いてある棚へ向かう。店主と客の集団が騒ぐカウンターの横に辿り着いた。なんの騒ぎかと目をやると、同じ野次馬なのか後ろから騒ぎの様子を聞いている青年がひとり。
ばったりと目が合った。いつかダンジョンで出会った弓使いだ。
「あっ…」
「あっ。」
目を合わすなり、爛々と目を輝かせて近づいてくる。
「ミランダさん。また会いましたね!」
「チッ。あ~…。はいはい。」
「そんな面倒くさそうな顔しないでくださいよ~。」
(合戦もあと数日。みんな武器の調達やらで準備してるんだな。)
店内の入れ替わりが激しく、装備も千差万別だ。カウンターで清算している売り子の女の子達もガラガラ声で息を切らし、店長と何やら揉めているグループもいる。
「アンタも矢の調達かい?」
「まぁそんなとこです。あっ、その弓買ったんですね!新型のリカーブボウってどうなんです?」
「そこそこじゃない?不具合はないよ。手ごたえは専門じゃないから知らん。自分で買え。」
雑に返しても笑顔で引っ付いてくる。
「あ、そういえば鑑定屋の賢者と一緒に食事したって聞きましたよ。なんの話してたんですか?」
遊んで欲しい柴犬みたいな奴だ。ミランダは鬱陶しくて額に人差し指を突きつける。多少騒いでも、別にどうということはない。他は自分の事で忙しい。
「うーーーるさいね!5層で拾った武器鑑定して貰ってただけだよ!」
(ちゃんと答えてあげるんだ…)
誤解のないように言っただけだが、彼は感動と驚きが混じった顔をする。
「え、とうとう5層行ったんですか!凄いっすね!単身で5層!」
「うぅるさいってんのが、わっかんないのかい!自慢話しにきてんじゃないんだよ!」
鼻頭を指で強く押す。
「あはは、すみません…。」
「まったく。声が大きいヤツだね。パーティーが居ないのは恥なんだよ。そんぐらい知ってんだろ。」
「そうですね。あはは…。」
ため息をつきながら、店のカウンターに目をやると、波が引く様に集団が退店していった。落ち込んだ様子で金を懐に入れて帰ったのを見るに、商談が不成立だった様だ。
すると店内はいきなりがらんとする。店主がやっと帰ったかと言わんばかりの表情でため息をつくと、テーブルには見覚えのある柄拵えの折れたサーベルが置いてあった。ぎょっとしてミランダは変な声を出す。
「えぅっ…!?」
「どうしました?」
ミランダはカウンターの前に来て、置いてあるカタナ見た。先ほど騒いでいたのはこの折れた剣を巡っての話の様だ。
両手持ちがしやすい少しばかり長い柄、木を重ね、皮紐を二重に交差しながら巻いた、カタナを模した貧乏くさい握り。鍔はひし形で、自転車のブレーキの様に柄頭にまで直角に曲がる一本のナックルガードが伸びている。
(見間違えるわけねえ、俺が作ったカタナじゃねえか。見事な折れっぷりだこと…。)
フェクトが急ごしらえで作った、日本刀をベースにしたサーベルだ。
「あぁらら…こいつは…」
ミランダが世間の狭さに絶句していると、弓使いも隣にやってきた。
「さっきのグループが騒いでたヤツっすね。修理できないかどうとかって、揉めてたらしいですよ。」
「どういうこったい?」
「愛刀っぽいくちぶりでしたけどね。にしても変わったサーベルっすね。刀身は模様つきでやたら綺麗な割に、柄は安っぽくて貧乏くさいし。その癖、サイズ感はやけに纏まってて自然っていうか。」
柄側に残っている刀身は残り三分の一。これでは先端を研ぎ落しても使えないだろう。
「あのグループが言うには、リザードマンを一刀で真っ二つにしたって話ッすよ。こんな細い刀身じゃ、とてもそうは見えないですけどね。」
(聞こえてんぞガキンチョ~。)
弓使いはミランダに耳打ちする。
「へぇ…そりゃ惜しいことをしたね。」
「惜しい?」
「気にすんない、こっちの話。」
彼女は気になっていた断面を見る。何度か光を照らして反射の違いを見ると、確かにフェクトが言ったように、色が違う3層の構造になっている。
(まぁ武器も結局は消耗品だ。伝説の剣でもない限りな。)
刀身の波紋はより平べったく、薄くなっている。かなりの数の敵を切った様で、刃こぼれも酷い。
店主が顔を洗って戻ってくると、珍しそうにしているミランダを見て言う。
「悪いが、そいつは直せないよ。」
「え、おやっさんでも無理なんですか?」
「どうして?」
2人は驚いた様に聞く。ここらで一番大きな武器屋の店主だ。腕前も知れ渡っている。
「そいつはサーベルじゃねえ。カタナだ。東のシルクロードからたまに来るヤツだよ。街に居るイェニチェリ達よりも、更に東のな。」
「へぇ。これがカタナか。」
弓使いは許可を取ると、興味津々に折れたカタナを握る。
「だが、俺の知ってるカタナは、こんな地元風なナックルガードは付いてない。刀身ももっと薄くて軽くて長い。刃の製法も商人が持ってくるヤツと違うんだ。それが不思議でな。」
ため息交じりに店主は愚痴る。
「一体誰がどうして、そんな気になって何べんも折り重ねて打ったのか…気が遠くなるような作品だよ。」
(あんたは一晩で終わらせたような…)
(製法を知ってるのと、元から出来てるフランベルジェを打ち直したからな。リザードマンの筋力のおかげで金槌打つのも楽だった。途中から始めたようなもんさ。)
(前世の記憶かい?)
(その通りでごぜーます。)
店主は柄を指さして言う。
「妙なのが柄に巻いてある皮ヒモだ。それ、向かいの店で買えるヤツだぞ?このカタナ打ったヤツ、実は近くに居るんじゃないか?」
(ギクッ!勘がいいなこの人!)
(ボロが出てるよフェクト。)
(売ったのはお前だろ!)
ミランダは愛想笑いをして目線が左を向く。誤魔化す様に聞き返した。
「こいつをアンタが作ったら、いくらぐらいになる?」
「完全にオーダーメイドになる。工程考えると、最低でも銀60だな。」
「いー?!そんなに…!」
弓使いは息を呑んで持っていたカタナをそっと戻した。店主はもう折れてるから気にしなくていいと笑う。
「それでも同じ性能を出せる保証はない。他の仕事や納期もあるからな。納品できる保証がないから受けられねえんだ。チャレンジはしてみたいけどな。」
「製法さえわかれば、やれはするのかい?」
ミランダは興味本位で聞いてみる。買える様になればフェクトの手を煩わせることもなくなる。
「あぁ。設備自体は多分、俺らと大差ないはずだ。興味あるのか?」
「少しね。」
弓使いも頷く。彼も同じ軽装の冒険者だ。機動力の為に重たい物を持てないから、サーベル系の軽い刀剣には拘りがある。
「あぁ、そうだな。俺もさっきの連中が言い訳を聞いてくれなくてよ、モヤモヤしてたんだ。」
彼は折れたカタナの刃を手に取って内側を見せる。
(フェクト、彼の腕前が未来人のお前から見てどんなもんか、答え合わせしてみようじゃんか。)
(いいね。)
フェクトも乗り気で店主の説明に付き合う。
「よく斬れるとは言っていたが、曲がらずに真っ二つに折れるってことは、恐らくこいつは『突き』を主に想定されて硬くなるように打たれてるだろう。刺さる時に曲がりくねらない様にな。」
(んむ。正解。)
「その為には密度と硬さが必要だ。まず、見ろよこの刀身の重ね。こいつ、3枚の鉄板を重ね合わせてる。」
(これはフェクトも言ってたね。複合弓と同じ、合板の剣なんだっけ?)
(んむ。)
店主は顎元を摩りながら、目を細めて破断面の光の反射を注視する。
「1枚につき…最低でも5回以上は折り重ねては叩いてる。それを3枚重ねだ。」
(あってる?)
(悪くない。折り重ね鍛錬は外側の皮鉄15回、中の芯鉄8回だ。用途次第では回数を変える。鉄は2枚、外側の皮鉄はUの字にして、芯鉄を間に挟んで打ち延ばす。甲伏せ作りって言う。)
(3枚って言ってるけど?)
(3枚重ねに見えるのは実は失敗してるからだ。間違えて刀身の途中から、峰側の皮鉄を繋げちまったんだよ。形を整えてる間に刀身の背中側が折り重なってるから3枚に見える。)
(失敗作なのに使わせようとしたんかい?)
(突く分には多少は硬くてもいいかなって…)
(意外と雑だねアンタ…)
(考えあっての匙加減だよ。)
念話で会話する2人をよそに、店主は熱く語り出した。いつの間にか、店主の講座に店員や弟子たちも集まってきている。
「それで、一番意味わからねえのが、この刀身に波打っている模様!どうやったのか知らんが焼き入れの時に熱の入り方を調整した痕だ。これがとんでもねえ。」
弓使いは首を傾げながら生返事で聴く。
「焼き入れってのはどの武器でもされてる。アンタの弓矢の矢尻だってそうだ。冷やす時に温度が高すぎる剣は折れやすく、逆は曲がりやすい。程よい熱の調整は、それだけでも熟練の技だ。これが出来なきゃ一生素人、ナマクラ打ちのまま。」
弟子たちは苦い顔をした。店主は折れた刃を摘まみながら頭を抱えた。
「部分的に焼き入れをできないか、冷める順番をコントロールできないか。そう考えたことは何度もあるが、どうすればいいのかサッパリだ。だってのに、こいつは刃だけが特に固くなる様に作られてるんだよ。」
(こればっかりは日本刀にしかない技術だな。こうなるの分かってたから売って欲しくなかったんですけどねぇー?)
(いいじゃないかい、街一番の鍛冶屋が分かってないんだから。で、どうやるんだい?)
(レンガ、木炭、砥石の粉を混ぜた粘土を被せて覆うだけ。粘土の薄いところが刃。冷えやすくて一番固くなる。以上。)
(思ったより単純だねぇ…。)
(理屈も原理も単純だが、問題は粘土の配合かな。刀身を焼いた時にぼそぼそに砕け落ちたり、水につけた瞬間剥がれ落ちてバランスが破綻したり。口で教えたとしても試行錯誤は絶対必要になる。)
フェクトはチラ見して鍛冶屋たちを見る。
(まだまだ伸びるぞ、この店は。街一番になっても、調べ、考えることを忘れてない。技術屋は、死ぬまで悩み続けて成長するもんだ。)
ミランダは頭を抱える店主を見る。悩むことがいいことなど、彼女には想像もつかなかったことだ。
「お前らも、今のうちによく見とけよ。」
「研ぎ方も水を弾くほど凄まじい。」「見た目より重くないか?」「まるで曲がらねえ。」「柄の長さや重心バランスも絶妙だ。」
ぞろぞろと弟子たちが集まってきた。ミランダ達はいつの間にかカウンターの前から追いやられてしまい、弓使いと顔を合わせて苦笑いした。
「同じ構造でスキアヴォーナとかが作れれば、確実に金貨1枚はいく。できればの話、誰が買うのかっちゅー話だがな。ハハハ!」
店主は豪快に笑い飛ばした。ミランダは思い出した様に聞く。
「そうだ、こいつの持ち主、さっきの集団はどこのパーティーだい?」
(おっと、そうだ。それメッチャ大事。どっから流通したやら。)
「穿鑿隊のメンバーの剣士だよ。随分と好評だったみたいだぜ。いくら金積まれても、治せねえものは治せねえって断ったんだ。」
先ほどの集団は、ミランダがダンジョンに入る際に後を追う深層へ挑戦する上級冒険者のグループだった様だ。
(深層に挑戦してるとこに回ったのかよ。光栄なこった…。)
フェクトと店主はため息をついた。
「おやっさんでも治せないなんてなぁ。」
「分かってねえなぁボウズ。こうなっちまったらどの剣でも、炉に入れて真っ赤にして1から打ち直しだぜ。そうなりゃまたぺにゃぺにゃの柔い鉄に逆戻りさ。また研ぎ直すからもっと短くなっちまう。」
彼は嘆息しながら続けた。
「愛着があるのは良いことなんだけどよ。このことは上級の冒険者でも、何回言っても理解してくれねえんだ。」
「だからそんなに滅入ってたんすね。」
「お前達は覚えて帰ってくれよ?折れたら、1から打ち直し!買い換える方が早いってな。」
断る理由がしっかりしていて、フェクトは無い腕を組んで関心した。彼は技術者の鑑だ。商品の性能を保証する責任能力をしっかり持っている。
「ふーん…(フェクト、本当かい?)」
(本当だ。剣としてはもう確実に無理。このカタナはそうだな。短く折って削って、矢尻にでもしたらどうだ?)
「残りは矢尻にでもしたらどうだい?」
「…はは、そりゃいい。ドラゴンの鱗だって貫けそうだ。アンタら、それを作ったヤツの名前を知ったら教えてくれ。銀貨1枚払うぞ。」
「お、いいっすね!」
(言うなよ!)
(言いたくなっちまうねぇ~。むふふ。)
ミランダは愛想笑いで返すと、安物の剣がまとめて籠に置いてある角へ向かう。襲撃が予想されるだけあって、数打ちものがかなり入荷している様だ。
銅貨25枚、定食屋3~4回分ぐらいの剣まである。現代の相場で言えば、2000円とか15から20ドル。歪んでいたり、色合いやサビのある不良品が置いてある。
彼女の要求を満たすものがないか、いくつも籠から引き抜いて探してみる。突きが出来、60から70センチ程度の短剣で、分厚いもの。
洋式の拵えのサーベルでは湾曲が強く薄くて突きが弱い。ファルシオンは重すぎるし先端が扁平で突けないなど、ニーズに合ったものがなかなかない。
いくつか見るうちに、また弓使いが寄ってきた。ミランダは苦い顔をする。
「剣っすか?」
「あぁ。ファルシオン持ちの死霊剣士とやり合った時に真っ二つにされちまってね。銀貨2枚のだったんだけどさ。」
「そりゃ災難でしたね。」
「ま、そんな程度あるあるだから、いちいち落ち込んでもね。」
弓使いの彼もうんうんと頷いた。銀貨一枚の損失はルーキーの冒険者には高い買い物でしばらく泣き寝入りするものだ。2人の様に、慣れてくると必要経費と割り切るようになる。
ミランダは彼が5層へ入っていったことを思い出す。
「そうだアンタ、ワープしてくる死霊剣士と戦ったことあるかい?マントを付けてるヤツ。」
「ワープ…?マント?死霊剣士はしませんよ。精々使ってくる魔法は攻撃魔法っすから。それでもかなり厄介っすけど。」
彼は首を傾げながら聞いた。
「ワープしてくる剣士のモンスター、話には聞いたことあります。深層の暗黒戦士ですよね。5層にも出るとは噂されてましたけど。」
答えたあとにぎょっとした表情で身を乗り出した。
「まさか、アレとタイマンしたんっすか!?姉さんスゲー度胸っすね!っていうか勝ったんですか!?」
彼女は耳を塞ぐ。彼は気が付いた様に口元に手を添える。ミランダは彼に近づいて小声で聴いた。
「5層、にも?」
「暗黒戦士は本来、9層の深層で出てくるらしいっすよ。アンロッテンみたいに複数の武器種で2~3体で来るって話っすけど。」
「道理でやたら強かったわけだ…。」
(アレが対処法違いで同時に3体かよ。深層ヤバすぎんだろ…。)
フェクトが頭を悩ませていると、ミランダは弓使いから両手で手を握られる。
「いや凄いっすね姉さん…マジ尊敬します。」
「パーティーは組まないからね。」
「そこをなんとか…」
「イ~ヤ!」
彼はがっくりとして肩を落とした。
「たはは。ま、仕方ないっすよね。単独での活動、頑張ってください。俺だったらなんかあれば、相談乗るんで!」
「…アンタもね。くれぐれも、闇属性のエンチャントを見つけても、使わんようにね。」
「闇属性?」
「なんだ、知らないのかい?これの色違いで、真っ黒いヤツだよ。」
ミランダはスティレットを見せてエンチャントの模様を見せる。暗黒戦士が持っていたことや、異常ならざる反応速度。賢者とのやり取りを教えると、彼は聞き入った。
鑑定屋を介するより直に領主や衛兵に売りに行く方が高くなる。使えば強力な分、正常な判断が出来なくなる。最悪は奥の手として取っておくのもありだと、そのことを聞いて、彼は仲間にも教えると頷いた。
フェクトはその様子を見て微笑ましく思う。冒険者同士の健全な情報交換だ。ミランダも、モンスターの情報の代わりに教えたのだろう。
少しずつだが、彼女を見直し、聴く耳を持つ人が増えている。この調子なら、復興のスピードも今以上に加速する。
弓使いは笑顔を残して、矢と替えの弦を買うと武器屋を出て行った。
(次は俺達だな。)
「あぁ、随分と話こんじまった。」
(なんだかんだ優しいよな、お前。)
ミランダは少し顔を赤くして籠から適当な剣を探すが、やはり中々見つからない。
「おう、あんた。旧市街区の盗賊の姉ちゃんだろ。まだ居たのか。」
見かねた店主がミランダに話しかける。
「あぁおやっさん。」
「さっきの焼きの話が気になっちまったか?ははは。その籠にあるのがそうさ。」
「はは。まぁ、そんなとこさね。」
「どんなのが欲しい?」
ミランダは自分の欲しいものを伝えた。安い、厚い、突ける、振れる。店主は、いくつかあのカタナに共通するところがあるなどと思いながら、そういえばと言って、店の奥の在庫から出してくれた。
大量に出て来たのは、刀身も柄もナックルガードも全てが繋がった一枚の鉄で作られているサーベル型の剣。最低限、剣としてのなりを整え、金槌の痕を消す程度に形を整え、研いである。
「なんだいこりゃ…」
「こいつはテサックだ。一応、うちの新製品なんだよ。」
値段は銅貨30枚。見た目なりの安物の剣だ。ごく最近に採用されたもので、銃を使うようになった防壁警護の衛兵用に開発されたもの。領主の意向で今後衛兵が増えることを見越して作られた。
シンプルな形状の安上りな曲剣という点は、兵卒用に用いられる幅の広いラングメッサーやファルシオンと同じだが、限界まで材料費を節約する為に形状はサーベルに似る。鎬や峰はただ平坦に整えられただけで、素材なりに厚い。
反りが小さく突きがしやすいものでさえあれば、彼女の要求にぴったりだ。
「ひたすら見た目が悪いからな。衛兵用に納入することもあって店頭には置いてなかったんだ。」
「うーん…」
当のミランダも、余りに粗悪な見た目に唸る。
(安い作りとはいえ、衛兵に納入するだけあって品質の担保は必要だ。籠の安物の失敗作よりは耐久力に期待できる。形も理想だぞ。)
(そうかぁ?あ~でもそうかも…。)
ミランダが手を伸ばして取ろうとすると、向こうから一本手渡してくれた。
「さっきのお礼だ。安いし、特別に一本やるよ。」
「さっき?」
「愚痴に付き合ってくれた礼だよ。同じのが欲しくなったら声をかけてくれな。次はお代は貰うけど。」
ミランダはきょとんとした顔で退店した。誰かにお礼を言われてモノを貰うなんて始めてだ。
(よかったじゃねえの。)
「…あぁ。」
彼女は中央街を後にして、貧困街区の商店街で煙突に振り返った。
(…案外、中央の連中も捨てたもんじゃないのかもね。)
ふと剣を握ってみる。1枚の鉄板で作られた曲剣は、まるでブーメランにも見える。
(…すっげー投げやすそう。)
常日頃からゴブリンやアンロッテンから奪った武器を投げているイメージがそのまま手元に沸いて来る。すると彼女は途端にテサックが気に入ってきた。
程よい重さと湾曲。そして使い捨てれる安さ。フェクトの風魔法を乗せて投げたら、とてもよく飛びそうだ。
(昼飯5回分を簡単に投げるな!)
(うーん…投げてくださいって見た目してるんだよコイツ…。)
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