14 アメジストのダンジョン 4層

アメジストのダンジョン 中層


見覚えのある景色が戻ってきた。うっそうとして薄紫色に暗い。浅層より少しずつ、中央の紫水晶が大きくなっていっている。

ミランダも口を開かず、緊張感が伝わってくる。皮を踏みにじる様な足音に耳を傾け、岩陰からのぞき込む。

(リザードマンか。この部屋にはアイツしかいなさそうだな。)

両手剣を軽々と片腕で持っている。体長もミランダの倍ぐらいあり、筋骨隆々の人間の男の更に倍の筋力はある。

「2匹…どうしたものか…移動する気配はなさそうだね。」

(今のところ一本道だしな。迂回して通れる位置にいないし。)

しゃがんで2匹は寄り添うようにして座って休んでいる。つがいなのだろうか。

さしもの彼女も、多対一は気が引ける。勝てない相手ではないだろうが、一撃の重さは容易に想像が出来る。食らえば、終わりだ。

(弱点は?爬虫類は冬眠するし、やはり冷気か?)

「ご明察。だけど、ダメージはあっても凍傷の効きがちょいと遅い。十数秒は二対一を許すことになるね…。」

(最初から見て思っていたが、あの両手剣のフランベルジュっぽいの、売値は高いのか?)

「あんまり…アンロッテンのよりはまともに使えるけど、特殊な能力はないよ。使い捨てるにはもってこいだけどウチの筋力じゃ使えもしないし、持ち帰るのも一苦労さ。」

(強い割に実りが少ないヤツか。皮でも剥いで財布にしちまったらどうよ。)

「とりあえず、どうやって先手を取ろうか…」

(ふーむ…)

フェクトは少し考えた。

(さっき弓拾ってたな。使えるのか?)

「ちょっとぐらいならね。ただ、ボロいからそれほど強くは張れないと思う。」

(よし、氷魔法、試してみよう。なるべく詰め寄って、胸のあたりを狙ってくれ。)

「分かった。」

(2匹目は接近戦で対処しよう。)

「当たらなかったら?」

(逃げる!)

「よしきた。」

ミランダはこっそり近寄って低い姿勢のまま矢をつがえる。フェクトは彼女の姿勢に似せて、左手を矢尻に、右手を矢に添える。

左手の先に氷の茨の様なものを念じると、ビキビキと音を立てて矢尻に巻き付いた。矢羽根が風を纏い始める。

パキョンと音を立てて矢が放たれた。少し飛んでから、勢いをつけて加速する。


ダッ…


綺麗に右肩、鎖骨付近に命中した。痛みのショックでリザードマンが飛びあがった。風魔法の加速が続いているせいか、矢が折れて矢筈側だけがカランと音を立てて落ちる。

(よしっ!ブチ割れな!)

もう一匹が起きると同時に、フェクトは左手を握りこんで氷魔法が発動した。のたうちまわっていたのが一瞬で止まると、右肩が砕け落ちて絶命している。

「来る…!」

ミランダは弓と矢筒を捨てて剣を持った。逸る心を抑え、間合いをじっと見つめる。フェクトから見ると、より大きく見える。体長およそ2.2メートル、筋骨隆々としたヤツの両手持ちの助走のある攻撃なんて当たればまず死ぬ。

(おおおぁああやべえ!)

余りの迫力に焦った彼は一瞬早く物理障壁を出した。

クロスガードした両手を更に前へと押し出して壁を前に押し出した。大剣を振りかぶった瞬間に胸に障壁が当たり、リザードマンは態勢を崩す。

図らずもシールドバッシュで姿勢を崩した形になる。ミランダは隙を逃さず、地面を強く踏んだ。

「チャンス!」

ミランダは距離を詰めて、剣を横に薙いで膝を滑らせる様に切る。ふらついたところをタックルして仰向けに押し倒し、心臓に一突き。

刀身が半分まで深く突き刺さるが、途中で止まった。骨の手ごたえではない。胸筋の繊維が縮んで止められている。心臓まであと少しだが、暴れて剣ごと体が持ちあげられる。

「凍らせろフェクト!」

(う…うおおおお!!!)

フェクトは無我夢中で氷魔法を唱えた。全身に氷を広げて暴れない様に固定する。

「っっぁありゃぁぁ!」

鍔本まで剣が深く突き刺さった!それでもまだ息がある。喉を鳴らす唸り声でミランダを睨みつけた。

(よし!引き抜け!)

「っんぁっ!」

彼女が剣を抜くと、氷の割れ目から噴水の様に血が吹き出た。バク転で距離を取ると、彼女のいた場所に悪あがきで力のない大剣の突きが空を斬る。

数秒もすると血液も凍り付き、じわじわと氷の奥で血痕が広がっていく。リザードマンは大の字になって動かなくなった。

「ふぅ、少し焦ったけど…」

(なんてことなかったな。)

「ウチよりビビってた癖によく言うよ。」

(いやぁ…思った以上に迫力が凄くて…。)

ミランダが思うより倍は早く片付いた。二回ほど剣を振るって血を払い退ける。刀身はもうガタボロで先端が曲がっている。投げて使うぐらいにしかならないだろう。

「やっぱり魔法があると違うね。にしても、どうやったんだいさっきの矢は。」

弓矢を拾いなおして、ミランダは首を傾げた。

(内側から血を凍り付かせたのさ。凍傷ってのはおっかねえぞ。刺さったところを見てみるんだ。)

彼女は矢で倒したリザードマンの死体に近寄った。右肩が凍って、倒れた拍子に自重で砕けている。

「へぇ…矢に吹雪のエンチャントを…矢羽根に風魔法をやってるのは見えたけど…器用なもんだね、アンタ。」

じっと観察していると、砕けた肩の血液が融け始め、脈動するようにごぼごぼと血が吹き出始めた。

「うわっ!まだ心臓が動いてる!?」

(タフなもんだ。だが死んでる。右の首筋も凍り付いているだろ。これだけ長い時間、頭に血が上っていないなら、もう蘇生は間に合わん。)

「へぇ~…こんなにも綺麗に殺せるもんなんだねぇ…まだ動き出しそうでおっかないよ…」

目を見開いたまま死んでいる。黒目は開き切っているから、瞳孔が開いている様だ。

(迫力あるよな。)

ミランダは念を押して恐る恐る頸動脈を切った。彼女を見てフェクトはくすりと笑った。

(血を凍らせるのも蛇の出血毒と同様に血流を瞬時に止めるから致命的だが…凍傷が怖いのは、この砕けた肩の方だ。)

彼女は砕けた肩を触ってみる。押すと、砂袋の様な感触でへこむ。

(血液も水と大差ない。氷ると体積が増える。つまり元のサイズより大きく広がるんだ。凍結膨張っていう自然現象でね。こうなったらもう、腕は二度と動かないよ。)

「魔法でもなんでもない自然現象なのかい…」

(その通り。こうなっちまうと、細胞膜や血管は更に押し広げられて破断し、体を構成するあらゆる組織が壊死する。例え暖かい部屋に戻して、形を保ったまま溶かしたとしても、中身は微塵切りにされた玉ねぎみたいにズタズタで戻らない。)

ミランダは息を呑んだ。この魔法技は見たことがないし、とても強力だ。矢が通じる相手なら、深層の敵にも通じるだろう。

(更に急冷も生き物の体には条件が悪い。液体が瞬時に凍結すると、気泡を含んでシャーベット状になる。泡の分、膨張する体積が余計増えてスカスカになるから、瞬時に血管が千切れて即死するリスクが跳ね上がる。)

「付与魔法は定番だけど、こんな致命的なのは始めてみるよ。名前もない技とはね…。」

(命名するなら、凝固作用の出血毒のフロストバイトに倣って、シャーベットバイトってところだな。)

「…これを食らって、もし生きていたとしたら?」

(手足の先端だったら、まだ動けるだろうけど、そうなっちまった部位は切断する以外にない。壊死した部位に血を流しても腐る。腐った血がまた体に循環して有害だ。)

彼女は立ち上がった。

「へぇ~…なんだい、前世はお医者さんかい?」

(そう…だったような気もする。それより、トカゲの死体乗っ取れないか試してみていいか?)

「手早く頼むよ。脅威はこいつらだけじゃないからね。」

(分かった。)

ミランダはリザードマンの死体の上にフェクトを置いた。触手が伸びて耳の中へ入っていく。その間に彼女は刀身を踏んで曲がりを戻していた。

(やはりな…爬虫類だけあって、大脳が小さい…これならいけるか?)

右手を伸ばし、ぐりぐりと後頭部から押し込んでいく。人差し指の先から、左腕の感覚が繋がった。奇妙な感覚だ指先の爪が蕩けて、一体化していく感じがする。

(お!これは!)

ブチンという感触と共に腕が繋がった。直後、フェクトは血の味を感じた一瞬、意識が遠のく感覚に襲われる。

(………。)

ほんの3秒程度だったが、とても長い時間に感じた。自分の中の何かが一つになった様な、しっくりくる違和感だった。

直後、ミランダがフェクトを掴んで引っ張り出し、姿勢を低くしたまま走り出した。

(お、おい?!)

(時間切れだよ!スケアリーウルフの群れだ!一旦離れるよ!)

脳が耳から引きずり出て、千切れ、零れ落ちる。脳味噌を握りつぶすと、鞘の中にするっと触手が戻っていく。奥の一本道の部屋からスケアリーウルフが3匹、リザードマンの血の匂いを嗅ぎつけてやってきたようだ。

(チッ、まあいい。コツは掴めた。)

ミランダは彼を装備すると、すぐさま一つ上層へと駆け上がって行った。


自分が倒したアンロッテンの死体の山の前で、別のパーティーと出くわす。典型的な4人パーティーだ。戦士、弓使い、魔法使い、神官。

魔法使いと神官の姿を見て、フェクトは目を閉じて触手を戻し、鎧になりきった。彼らは深層へ挑むグループではない。


「む!」

息を切らすミランダを見て、他のパーティーは武器を抜くが、彼女が手を前に出して荒れた息でうなだれると鞘に収める。

「…なんだ最近話題の盗賊の。」

「へっ、息巻いて逃げてきてやんの。」

彼女は壁にもたれ掛かってしゃがみこんで息を整える。

「ハァ…ハァ…行きなよ。別に邪魔しないからさ。」

頭を振るって先を示した。

「ふん…」

彼らはミランダを通り過ぎて歩き出す。パーティーのひとり、弓使いが彼女に話しかけた。

「なぁ、貧困街を復興させてるのって、本当なのか?」

「は?何?」

「いや、噂だよ。君が主導で復興させようと活動してるって…」

「アンタには関係ないでしょ。」

彼女はドスの聞いた声で睨んだ。

「あ…あぁ…そうだけど…」

先行したパーティーから怒鳴り声が聞こえる。今行くと彼が前を見て歩きだすと、ミランダは素早く立ち上がって肩を叩いて、まだ呼吸が整ってないまま耳打ちする。

「スケアリーウルフが3匹と水晶の魔物が近い。今回の4層は一本道だ。戦闘は避けらんないよ。」

背中を押したら彼女は再びしゃがみ込む。

「せいぜい気をつけなね。」

「え?いや、あぁ…ありがとう。」

弓使いは一度振り返った後、小走りで坂の下へ消えていった。

(おい、例のボス野郎まで居たなんて聞いてないぞ。)

「でなきゃ気づかれてないスケアリーウルフ相手に全力で走らないよ。アンタがあの矢を使えば、オオカミ3匹程度、屁でもない。」

(奴の前で戦闘するのはヤバいってことか。)

「そういうこと。見つかったらアンタのよりドブットい閃熱光線で消し炭にされるよ。」

(マジか…)

ミランダの呼吸がもとに戻ると、彼女は立ち上がった。歩いてパーティーの後を追う。

(にしてもお前、結構優しいんだな?)

「見逃してくれたお礼さね。ダンジョンに来るのも、ああいう正規でお利巧な冒険者ばっかりじゃないよ。冒険者ギルド未登録のヤツとか、山賊や盗掘家のパーティーとか。領地外の無法地帯だから略奪もよく起きる。」

(お前も以前はネコババしてたって。)

「まだウチがぺーぺーの頃の話だよ。1年半前ぐらい。斥候役の特権だって宝箱くすねててね。アマちゃんだったのさ。」

(…それも貧困街区のためなんだろ。)

「そうだったけど、まだ酸性雨で切羽詰まる前の話さ。冒険が楽しくもあったよ。」

隠れてリザードマンを倒した部屋を見ると、スケアリーウルフと戦っている。矢が尻に一本刺さっているのが一匹がいるが、まだひとつも倒せていない様だ。

(ったく言わんこっちゃない。時間をかけると面倒なことになるよ。)

以前フェクトと出会った時は、小さな通路の行き止まりで一本道だった。追い込まれている分、広範囲の魔法なら一掃できる利点もある。不幸中の幸いだ。

だが彼らは逆だ。広めの部屋で、攻撃を避けられて苦戦している様だ。円陣を組んで取り囲まれている。

ちゃんと弓使いに教えたことは仲間にも伝えている様だ。水晶の魔物を警戒して大きな音がする様な魔法が使えず、頼みの魔法使いが円陣の中心にいる。

杖の先には赤い炎の光が待機している。水晶とオオカミを交互に見て、もどかしい顔をしていた。フェクトが水晶の中を見ると、確かに姿は見えないが、上の方で、黒い影が通り過ぎる魚影の様に何度もチラ映りしている。

(どうする?)

(勿論、助太刀するよ。先に進んで貰わないとね。おこぼれに預かりたい。)

彼女は弓を構えて矢をつがえた。

(オオカミの弱点は?)

(ある程度は全部通じる。氷が毛皮に阻まれて効かないけど、シャーベットバイトなら効くはず。弓で後ろから狙うよ。)

(いや、当てるなら横からだ。ケツは後ろ足の筋肉の塊で固い。例えアレでも即死させられないぞ。)

(分かった、でも、距離が遠い。コントロールは任せた。)

(よっしゃ。振動や光源を出すのはヤバそうだ。注文通り、氷で行く。)

フェクトの目と矢尻に同じ水色の光が発生した。弦を引くと、ミシミシと弓から音がする。限界が近い。

一番近いオオカミは唸りながら、最後列の神官にジグザグに近寄っている。静かに構えて、横腹を見せた瞬間に放った。同時に弓が甲高い音を立てて折れると、オオカミ達はこちらを振り返る。

「チッ!」

(んぬん!)

風魔法で放った矢は空中で加速し、フェクトは右手を右回しにひねった。僅かに狙いが逸れているのを彼が修正する。

オオカミの横腹のやや背中側に刺さると同時にビキビキと音を立てて、オオカミはそのままの姿勢で横に倒れた。

(くそっ、次から弓矢は持参するかな!)

ミランダはベルトで止めていた剣を抜く。挟み撃ちではあるが、ミランダは孤立している状態だ。スケアリーウルフ2体は真っ先に彼女を狙い、飛び出した。

「スケアリーウルフが一撃…?!」

魔導士は目の前で口を開けたまま死んだオオカミと目があった。

「今だ!あっちに行かせるな!」

弓使いもミランダを見ているオオカミに矢を放つ。横腹に当てると、怯んで大きく飛びのいた。

「真空波!」

神官が放った魔法が、残りの1匹の足にカス当たりした。攻勢に転じられた途端、オオカミ達は踵を返して逃げていく。

ミランダが紫水晶を見ると、一斉にパーティー全員も視線を向けて構えた。先ほどからチラ映りしていた影は消えている。更に上に行ったか、それとも対角から下層に消えたかは定かではない。

「ふぅ…」

安全になると、一同は大きく深呼吸して肩の力を抜いた。

「あ、ありがとう。助かったよ。」

ミランダに弓使いが駆け寄ってくる。彼女はそれを意に介さず、不要になった矢を束ねたベルトから捨てている

「…そういう態度は止すんだね。お人よし君。」

「どうしてさ。やっぱり君は悪い人じゃないんだろ。良ければ一緒に…」

彼の背後から突き刺さる様な視線を見て、ミランダは弓使いの胸倉をつかんだ。

「これ以上はアンタのパーティーに亀裂が入るよ…!いっつもそんな観察力で仲間を差し置いて弓ひいてんのかい…!?」

怒りに溢れた顔つきでミランダは凄んだ。

「お、俺はそういうつもりで言ったんじゃ…」

「アンタは違うだろうけどね。ウチは!他から冷えた目で見られながら偵察なんてごめんだよ…!迂闊な言動は慎むんだね…!」

胸を押して突き放す。

「ここはダンジョンだ、自分を優先しな。」

「…分かった。あ、ついでに、これは貰っていくね。」

「勝手にしな。」

ミランダの捨てたアンロッテンの矢を彼は拾い上げた。通ってきた部屋から、岩が砕ける音がする。新しいモンスターが召喚された様だが、他は気づいていない。

「ウチはこの層で稼いでく。これ以上は後ろに続かないからね。」

「そっか、残念。」

小走りでパーティーに続いていく。今度は振り返らなかった。見送る彼女を見て、フェクトはため息をつく。

(俺がバレたらもっと騒ぎになるしな。クレアおばさんと同じで神官には気取られそうだ。リスクは取りたくない。)

「目的も違うからね…ウチはもう金にしか興味ないし…。」

段々と足音が離れていくと、振り返った。楽しそうに歩いていく4人の後ろ姿は、固い絆を感じる。やはり2人にも心細さがあった。

(そうとは分かっていても、やっぱ来るものがあるな…。)

(…アンタのせいってことにしとくよ。)

最後に振り返って、神官の女がミランダに向けてあっかんべーをして通路の先へ消えていく。

(キー!もう少し感謝しろよあんのメスガキャア!ナメナメするぞ!)

「思ってたより煽り耐性ないねアンタ…」


・・・


「で、あの盗賊はなんだって?」

戦士は弓使いに聞いた。

「ダメ出しされたよ。敵だけじゃなくて仲間の表情も見ろってさ。」

「はっ、正解なのがまた嫌味ったらしいな。」

背中をばんばんと叩かれ苦笑いする。

「でもな~アンロッテンの剣と弓矢を持ってたし、あれ全部あの盗賊さんひとりでやったんだろ?ひとりで9体、同じ場所でいっぺんに相手して全部一瞬で倒してる。凄い力量だと思うよ。誘いたかったなぁ…」

「どうせ先行パーティーが倒してたの拾ったんだろ。」

「バカにするな。お前こそちゃんと死体を見たのか?首の折り方や切り方が全部同じ、噂通り、あの人は単独だ。深層に挑むパーティーなら手早くそれぞれの武器で一殺ずつ。ウォーハンマーとかなら絶対違う痕になる。」

「…むぅ。」

神官が表情を怪訝にして言った。

「オオカミを射抜いた矢…魔法の矢だった。氷魔法の矢だけど…」

「だけど?」

「始めてみる魔法よ。風魔法で加速してたし、刺さった後にぼんって魔法が発動して、一撃だった…」

神官の女は、あの矢が自分に当たっていたらと思うと、背筋を振るわせる。

「ホラみろ。絶対あの人強いって。あ~~~惜しいことしたな。リザードマンもあの人だよ絶対。」

「まさか…盗賊が単独で、正面切ってリザードマンを単独でやるなんてあり得るか?片方は腕が取れてたんだぜ。」

「魔法使えるなら不思議じゃないだろ。あの人なら単独でも深層に挑めそうだ。断られたのは、本当は俺達4人でも足手まといだからかもな~。」

魔導士は神官と目を合わせ、距離を縮めて内緒話をする。

「…武器を使いながら異属性の付与魔法を同時にコントロール?」

「火と氷と雷は魔導士、光や土、風魔法は神官職が得意とする系統。上級職の賢者なら同時に使えるだろうけど…それでも付与しながら武器を使うのはちょっと…」

「そもそも盗賊職が魔法か…こいつは分からんぞ…」

「本当に関わらない方がいいかも…私達4人でかかっても、手に負える相手じゃない気がする。」

魔導士は頷いた。彼らは坂を少し下って、中層の5層目に突入する。

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