12 アメジストのダンジョン 1層

ダンジョン入り口は近寄るほど岩が多くなっていき、草のないところも多くなっていく。降りる時には豊かな緑色の高原だったのに、また随分違った景色だ。

人工的にすら見えるそびえたつ巨大なアメジストの柱。その回りには、岩の混じった質の悪いものが多い。

(枝分かれして生えているような開き方に見えるな。モンスターが出現する時の生え方にも似てる。)

「やっぱり根本が本体なんだろうねぇ。段々伸びてるって話だよ。」

(解明には深層行きが必須だろうなぁ。)

歩きながら2人は話す。入り口で、腹ごしらえをしたキャンプ痕があった。まだ焚火も暖かい。

「ウチは勘弁だよ。中層終盤からは接近戦でも魔法は必須になる。」

(うへぇ…ミランダでも及び腰か。スケアリーウルフだっけか、あれはどれぐらいなんだ?)

「中層に慣れてる奴でも最大限警戒を要するね。デカくて早くてしつこくて群れる。それでもアンタよりはマシだよ。」

(俺って…インフェクテッドアーマーか。やっぱり深層モンスターなのか。)

「持ってる武具は上級冒険者のそれそのまま、高い防御力に任せて上級魔法を接近しながら連発してくる。膂力も人間の非じゃないし、人型なのに急所もない。下手に近づけば毒や酸の霧なんかも撒くし。倒して戦利品も使おうにも修理費の方が高くつくよ。」

ミランダは少し早口だ。冒険は彼女の得意な領分なのだろう。

(最悪じゃん…戦ったことあるのか?)

「以前の合戦の時に遠巻きに見てた。最後の一匹で苦戦してたから印象的だったよ。ウチと同じぐらいの実力のチームが3つ束になって半壊になりながらようやく。あれと同じ様なのが何匹もいると思うと、背筋が凍るね…。」

彼女は第一層に入った。既に武器を抜いている。

(深層に挑戦するパーティーか。こんな姿じゃなければ、顔ぐらいは見たかったものだが。)

「ウチは別に興味ないね。精々、私の為に頑張ってくんなって感じさ。」

ウェアラットがウェアラットの死体を食べている。隙だらけの姿を見て、ミランダは顎で示すと、フェクトは魔法を念じた。浅い層に居るうちに、魔法の練習をする。ミランダとはそういう打合せだ。

先ほどの話を聞いて、やはり上級モンスターに並べる様に鍛錬を積まねばならない。純粋な大魔法もそうだが、冒険する以上は燃費のいいものも必要だ。

(よくある異世界知識ってヤツ、試していかないとな。)

「ほーん?」

彼は大砲を思い出した。爆発の力で弾丸を飛ばすなら、魔法で何とか出来るのではないか。

(こう…か?土、風、炎の順で…)

土魔法で硬い石を出し、風魔法で石の回りに気流を作り、火炎魔法で爆発を起こす。フェクトの目前に現れた魔力の玉は黄色、緑、赤の順で回転を始めた。

「へぇ…複数の魔法を同時に。」

イメージは左腕に風をまとわせ、石を掌に浮かせる、それを右手で殴りつける様に爆発させる。

コブシ大の石を生成し、筒状の竜巻をまとわせて回転を始め、同じぐらいのサイズのファイアーボールを放ち、加速させながら竜巻の中で爆発させ、撃ち出す!

(これだ!爆裂礫!)

小規模な爆発を一方向に吹き飛ばす!タイヤのパンク音の様な破裂音と共に石が飛んだ。ウェアラットの胴体を貫通し、対面の壁に大きなクレーターが出来る。もがきながら悲痛な断末魔を上げ、すぐに動かなくなった。

肋骨を両側貫通しているのをみて、フェクトはガッツポーズした。

(おし、割かしいけるな。低級魔法も組み合わせれば上等な威力になる。)

「あ~…」

ミランダは、苦い顔をして周囲を見渡した。

(なんだよ苦い顔して。もうちょっと喜んでもいいだろ。)

「確かに威力はいいけどね。」

(あぁ、始めて使った風魔法に比べれば、全力右ストレートとデコピンぐらいの差だ。何発でも撃てそうだぞ。)

彼女はため息をついた。

「言ったはずだよ。ウチはうっさくて敵わんから銃砲は使わないって。」

(え?)

武器を収め、マントをめくりあげて数歩後ずさる。フェクトの視界が広がると、正面と来た道両方からウェアラットやゴブリンの群れが襲ってくる。

「付き合ってやるから、全部アンタが仕留めな!何発でも行けるんだろ!」

(あ、あー!そういうことかよ!)

ミランダはとにかく走る。時折横へステップを踏んで、ゴブリンが投げてくる短刀を避け、ネズミの噛み付きを蹴って踏み台にしてスピードを稼ぎながら防ぐ。

「ほら、早くしないとウチが死んじまうよ!」

(ちょ、ちょっと待ってくれ!動かれると当てらんないだろ!)

「バカかアンタ!止まったら一瞬でフクロだよ!後ろに揃えるから、背面に撃て!」

(えー!?)

どうやってやればいいのかわからない。前を向いたまま後ろに魔法を放つなんて想定していなかった。とにかくアドリブを利かせるしかない。

両手を交差し、肩に着けて掌を後ろに向ける。

(真空波!)

ミランダの両の肩紐から緑色の玉が2つ浮き出すと、彼女の背面に真空波が飛ぶ。ウェアラットが真っ二つになって2匹吹き飛んだ。

「よし、二匹やった!」

振り返りながらミランダは走る。

(二匹だけかよ!ざっと15はいたぞ!)

「だからそれを自分で何とかしなよ!さっきのオリジナル魔法とかでさ!」

(後ろに向けては無理だ!狙いも全然定まらない!一瞬でいいから前向けたり出来ないのか!)

「付き合ってやってんのに世話が焼けるね!壁使うからそのタイミングで撃ちな!」

(クソ、集中だ!範囲を広く!でも縦に長く!)

目前に壁が迫ると、彼女は横に走り勢いをつけて壁を走る。両手に魔法を集中している間にも、ミランダは体を翻している。

(ダメだ、複数の魔法を構成している暇がねえ!コレだ!)

数歩踏み込むと、壁を跳躍して敵の方を見た。

真正面に敵の集団が来た瞬間を狙い、彼は両掌を合わせて前に出す。

(魔閃光!!!)

放射状に拡散レーザーを放った。熱線はモンスターの体を貫いて壁に到達するまで貫通する。

「!!」

ミランダは敵の集団を見据えながら着地した。

(今の、水晶の悪魔が吐いてくる魔法と同じ…。)

集団の中央は消し炭に、周辺の敵は火花が散った様な熱線の飛沫で、無数の焦げた孔が体の奥深くまで貫いて死んでいる。

(ぜぇ…ぜぇ…なんとかなったか!)

ミランダは腕を組んでため息をつく。無理して一発で全部倒せとも言っていない。状態異常や地形破壊など、足止め系の魔法であれば、もっと楽に打開できる。

焦りで判断能力が一辺倒になっている点も踏まえると、フェクトは冒険者として経験が浅いのが手に取る様に分かる。浅層で消耗していては仕方がない。

彼が居れば、ゆくゆくは深層まで辿りつけると思っているが、まだ先になりそうだ。

「アンタの熱線、強力だけど使わない方がいい。命そのものを使ってる様に見えるよ。」

(前世の偉人達が使っていた技だからな…これでも燃費がいい方のはずなんだが…。)

「凄いねぇアンタの居た国…このダンジョンより魔窟なんじゃない?」

(そうかな…そうかも。多分そう。部分的にそう。)

ふたりは息を整え、彼女はマントを着なおして位置を戻す。

「次からは気を付けなね。スケアリーウルフはウチが背中を見せて走ったって追いつかれるんだから。」

(あぁ…正直、浮かれてたよ。了解だ、先輩。)

ミランダはゴブリンが持っていた短剣を更に拾い、手の上で回しながら次の層へと向かう。

「上級の魔術師では別々の魔法を同時に唱えることは出来るらしいけど、合体魔法を使ったっていうのは聞かないね。」

(きっと秘密の奥の手にしてるんだろ。爆裂礫だって、ルーイの前で思いついてたけど、あえてやらなかったからな。)

「そうなんかね…静かなヤツだったら、是非考えてくんな。」

(そうだな~。炎系はダメだな。雷だったらいけるかも。)

「あ、明るすぎるのもダメだからね。こっちが目眩むから。」

(じゃあ風と水と岩か…)

「それと、毒とか麻痺もね。」

(状態異常か…それも大事だな…即座に使えるなら、凍結なんかが良いか?)

「アンタ回復魔法は出来ないのかい?」

(注文が多い!検討します!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る