第2話:ENDの中の俺—――気づき

 《END》—―――エターナル・ニュー・デイ。

 略して《END》と愛称されるMMORPG。



 設定された全てに人工知能AIが搭載されている。

 それは、俺にもだ。

 名前は、《製作者プロデューサー》を文字って、プロ=玄人をさらに弄り、《クロウ》と名付けられた。

 種族は彼の生まれ故郷である人族—――黄色人種モンゴロイド。プレイヤーキャラであると同時に、この世界の住人である俺には寿命がある……。


 俺はどうして、この世に生まれたのか知っている。

 現実の俺が、この世界を作り、その全てを賭けて、この世界を治していたのだから。

 その行為は尊く、慈善的で、だ。

 多大な労力を掛けて、この世界を正そうと、影の功労者として支え続けたのだから。


 その主は突如、世界への干渉を止めた。

 十年間こんなことはなかった。

 彼は全てを、この世界で過ごしたと言っても過言ではないのだ。

 だから、今までの彼の行動からして、あり得ない事だった。何か不測の事態が起こったに違いない。

 それが、現実世界での《死》であることを、俺だからこそ理解した。

 

 俺は俺の成したかった事をなさねばならない……と、心に決め動き出す。

 

 

 まずは――――。

『ステータスオープン』


 ステータス

 名:クロウ 十歳 称号;製作者 レベル:∞

 力:∞ 耐久:∞ 敏捷:∞ 器用:∞ 魔力:∞ 幸運:∞

 《スキル》

 ・《全》


 あらゆる事が出来る。

 俺は全ての事に干渉する力を持っている。

 何人が出来る全ての事が出来る。

 この世のオリジナルとして生み出された全てを俺は理解できる。例えば魔法然り、体術然り、知恵、鍛冶技術然り、言い出したらキリがない。

 

 その俺が次に何をすべきか、分からない。

 魔族を裏から操る―――裏ボス、黒龍と戦うのか。

 魔法体型、剣術、槍術、槌…防具鍛冶、武器鍛冶の技術体系の見直しをするべきか。

 国同士のには干渉しない。これはプレイヤーが干渉することであって、の俺は、何処かに肩入れしてはいけない存在だ。

 するなら、レベルをなければならない。

 チート能力を持つ俺は、そうしてやっと世界の国同士の問題イベントに干渉することが出来る。


 ※実際には、そのような縛りはない。ただ、現実世界の俺がいつもやっていたスタイルを完全踏襲する人工知能AIにとっては、そう考えても可笑しくないことだった。

 言ってしまえばこれも《バグ》かもしれない。


 本来、縛り=制限など、何も課せられていないにも関わらず、そう思ってしまうのだから。


 何をするにしても、先ずは《リオネル山脈》の近辺にある《コルチェダン村》へ、だ。


 《END》世界は地球を模倣している。

 「ユーラシア大陸」「アフリカ大陸」「北アメリカ大陸」「南アメリカ大陸」「オーストラリア大陸」「南極大陸」の六大陸からなる。

 一年12カ月。365日。一日は24時間。

 そこら辺は、まるきり同じだ。

 

 

 この《リオネル山脈》は、現実世界でいうユーラシア大陸のウラル山脈に当たる。ここは鉱物資源が豊富な山脈だ。

 気候は――――、1月の平均気温は北部で-23~-20℃,南部で-17~-15℃。7月はそれぞれ9~10℃,19~20℃。

 各種の鉱物資源に富む地域で、石炭,石油,鉄,マンガン,ニッケル,クロム,銅,アルミニウム,金,銀,白金,岩塩,滑石,長石,アスベスト,黒鉛,リン鉱,重晶石,雲母,宝石類などを産する。これらの資源により、有数の重工業地帯となっている中部から南部にかけての山地・山麓一帯は寒さに強い獣族とドワーフ種が治める—――《大亜人連邦》が所有している。


 俺は此処に何をしにきていたのだろうか。

 分からないなら考えればいい。

 《リオネル山脈》は鉱物が豊富だという土地柄だということだ、—――つまり鍛冶スキル。

 俺は鍛冶スキルの全てを見直しメンテナンスすることにした。

 鎚を握り、即席の溶鉱炉を作り上げる。


 即席溶鉱炉の材料は、勿論魔物だ。

 斃したのは近場の魔物――――氷龍だ。

 鱗は耐熱・耐寒、物理、魔法耐久全てにおいて最高クラス。

 即席溶鉱炉とは?と言いたくなるほど、豪華である。

 ドワーフの鍛冶職人がこの場にいたのなら、垂涎の的だったろう。

 氷龍が根城にしていた洞穴にそれは建てられた。

 そして、《メンテナンス》が始まる。

 《初級》から始まり《中級》、《上級》、《ユニーク》、《エピック》と呼ばれる最高の御業を氷龍と、この場で取れる鉱石や、氷龍が収拾していた宝石で―――――。

 

 氷龍装備一式を作り上げた。

 近接武器防具から、弓や銃といった遠距離武器、魔法職に欠かせない魔力増幅器である杖まで。

 

「—―――よし、問題ないみたいだ。」

 

 《メンテナンス》をし終えると、《コルチェダン村》へ。

 

 住民は、獣族が多い。次いで、ドワーフ種。

 獣族は狼人と熊人、鹿人もいる。

 言語は固有の物もあるが、俺には関係ない。

 全てを理解することが出来る。


 ステータスにある、称号効果…《製作者》の一つだ。

 

 共通言語は存在するが、仲良くなるためには、各々の種族に対する理解が大切だ。

 俺のようなでも、相手の懐に踏み込んで、一気に仲良くなる方法が、言語の理解だ。



『どうも、こんにちは。』

『おお、人族なのに狼人の言葉が話せるのか?』

 俺が話し掛けたのは青年の狼人。月の影響を受け、獰猛な性格になりやすい彼等だが、別にそれでみながみな荒くれものみたくなるわけではない。

『ああ、俺はクロウ。たまに此処にくるんだけど……最後に来たのはいつだっけか。8年くらい前かな?』

『クロウ……?もしかして、パゼルダっていう狼人を知ってたりするか?』

『ああ、パゼルダさんか。女性狼人で、ドルディアって名前の青年狼人と付き合ってたっけ?』

 俺が、過去知り合った《コルチェダン村》の情報網を引き出して、知っている事を軽く話した。


『わぉ、それ、おれの父ちゃんと母ちゃんだぜ?……まじか、本当に現れるなんて!二人を呼んでくるから待っててくれよ!』


 青年狼人は走って、村の建物へ入って行く。

 まさか、結婚まで行ったのか。嬉しい限りだ。

 NPCは生きている。それは《死》もあるということだ。

 何かしらの不幸な事故や事件に巻き込まれて、死ぬ事はままある。それが、生きていて、且つ新たな生命を育んでいたとは。

 ふと思った。

 知り合いとしては祝儀を上げないのはどうなんだ?

 これは何を渡すべきか。

 手持ちで一番のおニューな商品価値のあるものは……先程製作した氷龍一式の装備くらいだ。

 

『おお!クロウ!!お前さんは、変わらないな?8年ぶりか!?人族ってのはドワーフといい小さい生きもんだな!もっと良く食べて、よく寝ろよな――――ぃでぇ?!』

『ばっかだね、アンタ。獣族みたいに人族がなれるわけないだろ!何でもかんでも獣族基準—―――とりわけ狼人の基準で比べんじゃないよ!!8年ぶりの友達との再会でクロウちゃんが侮辱されたと思ったらどうすんだい?!』

 男の成年狼—――ドルディアの頭からバコンっと良い音がなった。叩いたのは、お嫁さんである成年狼パセルダさんだ。

 二人とも、二メートルを優に超える。

 かくいう、俺は160センチしかない。

 見た目は15歳ほどだ。

 人族の中でもとりわけ小さい方だ。

 だから、ドルディアの指摘は間違ってないが、パセルダはコンプレックスに思ってるかもしれないと思ってドルディアを引っ叩いたのだろう。


『俺は、何とも思ってないよ。まさか二人が、結婚するとはね。これは旧友への結婚祝いの贈与プレゼントだ。持ち合わせの物ですまないね。気に入ってくれたら嬉しいんだけど。』

 俺はそう言って、インベントリから氷龍の装備一式をドルディア達に渡す。


『こ、これは氷龍の装備か?!こんな上物……そこらの国王でも持ってないぞ……。』

 眼を丸くして、狼ではなく子犬みたいな顔をしてら。

 可愛いなぁ。

『パセルダさんも、こんなもんで良かったかい?気に入らなければ、もっとちゃんとしたものを用意するよ?』

『いやいやいや!これよりも良い物なんて、もう怖いわ!!この《プレゼント》一つ取ってみても、結婚の御祝儀に貰うには過分すぎるものだってのに。』

 パセルダはそう言って、手に取ったアイテムを嬉しそうにして装備してみせてくれる。

 彼女の愛用武器は拳。—――つまり、装備アイテムはグローブだ。

 氷龍の骨と皮と鱗、そして、《エンチャント》に宝石を埋め込んだ《氷龍のグローブ》はクロウ作という事もあって、《エピック》等級の装備品だ。

 これは、最上級品だ。等級には、《初級》、《中級》、《上級》、《ユニーク》、《エピック》と分かれており、材料と鍛冶師の腕次第で、品質が分けられる。

 その全てが完璧にして至高であるクロウの実力をもってすれば、《エピック》の武器を生み出すのは朝飯前なのだ。


 だから、彼は大して《氷龍の装備一式》に興味がない。—――というよりかは価値が低いものとしてみてしまいがちなのだ。


『それは、気に入ってくれたってことかい?パセルダにドルディア。』

『もちろんだ。』

『そうよ、ありがとう!あ、アンタ挨拶したのかい?!これ、ウチの倅のデドルだ。』

『あ、デドルです…。ドルディア族長の息子です。俺とも仲良くしてください。…まさかこんなに凄い装備をくれる人だったなんて…。』

 俺があげた《プレゼント》は息子であるデドルくんにも効果覿面だったらしい。

 喜んでくれて何よりだが、敬語になるとか、少し恐縮し過ぎではないか?それにしても、ドルディアのやつ、族長なんてやってたのか。族長という事は、ここでは狼人をまとめ上げているってことだ。やるじゃないか。

 俺が、ドルディアをみやると、照れて頬を掻いている。

 こいつの癖みたいなものだ。恥ずかしくなったり、照れると頬をかく仕草をする。ま、言及するのは野暮ってやつだ。

 

『それで、今日はどうしたんだい?8年も顔を出してなかったのに、ふらっと現れてさ。』


 俺の用を聞いてきたのはパセルダさんだ。


『氷龍の根城にしていた洞穴で、鍛冶をしたから寄ってみたんだ。や、なんかはなかったかい?』

 

 俺は自分の近況報告と情報収集を始める。


『異変っていう程の事はないな。でも《困った事》ならあるぞ。』

 

 ドルディアは困った事があるらしい。


『ほお?旧友は一体何に頭を悩ませてるんだい?』


 俺は当たり前のように訊く。


『ああ、ここ最近亜人種連邦の動きと、東の国—――《エルフ》達を筆頭にした人族の《白色人種コーカソイド》の連中達との抗争がな……。』


『ああ、なるほど?』


 なんとなく、国同士の問題なのかな?と勘繰る。


『国同士の軽い揉め事の範疇で収まってくれりゃいいんだけどよ。俺達、庶民の生活が脅かされんのはな……。俺達、どうしようかって考えてたんだ。』


『どうしようかって?』


『そりゃ、故郷であるここ、《コルチェダン村》を出て―――都市部に移り住むか、避難して新天地に村を興すか―――将又、困ったときの為に、非難できる場所を用意しておくとかよ?』


 ああ、なるほど?

 具体的には決まってないけど、安全策の一つでも打ち出したいってことか。

 戦争とかが起きないように干渉してくれって話とか、戦ってくれって話だと無理だったが、その程度ならお安い御用だ。


『それなら、俺が鍛冶場にしていた洞穴を避難場所にしたらどうだ?《コルチェダン村》がなくなったり、旧友と会えないのは寂しいからな。氷龍が生息していただけあって、ここの村人くらいなら全員避難できるだけの土地だぞ?』

 

 俺が、避難場所を提案する。無論、俺が狩った場所なので、安全度は何処よりも高い。


『まじか?!そんなとこを教えてくれんのか?!』


『ああ、それで解決するならな。魔物の駆除はやってあるし、安全なのは間違いないぞ。』


『どうか、その場所を教えてくれないかい?』


 ダメ押しに頼み込んできたのは、パセルダさんだ。

 無論、そんなに強くお願いされなくても教えるぞ?


『ああ、勿論さ。パセルダ達が孫をみれるくらい、長生きしてくれたら嬉しいからな。』


 俺はそう言って、ワールドマップを開いて、場所にマーカーを設置してやった。

 これで、パセルダ達は元氷龍の住処を避難場所に使えるようになった。


 俺は、《コルチェダン村》の存続のため、無くなるかもしれなかった未来バグの修正を行った。

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世界一のゲーム製作者 @namatyu

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