二人の姿
とある病室の、真ん中。
――少年と少女は抱き合っていた。
「あっ…!」
発見した看護師が、急いで彼らをベッドに寝かせる。どうやら二人とも眠っていたようだ。
ふと――何かが看護師の目に留まる。
「涙…?」
二人の目元には…キラキラと輝く透明の粒。
ここで一体、何があったのだろう?
「院長、あの…」
「ええ。二人のことね…」
茶髪の女性――院長と呼ばれた女性は、静かに口を開く。
「あの二人は、双子…一卵性双生児なんだけど」
そう言いながら、彼女は二つのカルテを取り出した。
「どういった症状で、ここに…?」
看護師が問い、重々しい空気が流れる。
「車の事故で、記憶を失ったの。それも、二人とも…」
「え……記憶を失った、って?」
「…全生活史健忘よ」
看護師は息を呑んだ。
「それじゃ、お互い…双子だったことも忘れてるってことですか?」
「――ええ」
院長が続ける。
「それに加えて……彼らは、ここが病院だとも気付いていない」
「…どういう、ことですか?」
「二人とも、自分の精神世界――それぞれの幸せな空間を作り出し、浸っているの」
活発だった弟――彼は、学校の世界に。
引きこもりがちだった姉――彼女は、自分の
部屋という世界に。
「そして不思議なことに――彼らは別々の世界で生きているのに、お互いが同じ部屋にいないと…パニックを起こしてしまった」
二人が、重なり合って、
螺旋のように続く世界を生きている。
まさに――二重螺旋構造。
DNA。
同じDNAを分け合った二つの命は。
今、再びDNAとして一つになろうとしているのかもしれない――院長はそう語った。
「…親御さんも早くに亡くなられたんだそう。お互い支え合う部分も多かったんでしょうね」
「……」
病室に、人の姿が二つ。
――ひとつは、楽しそうな顔で眠る少年。
――ひとつは、凛とした表情で眠る少女。
彼らの本当の世界は、
彼らの中にだけあるのかもしれない。
Deep-Neuron-Apoptosis ShiotoSato @sv2u6k3gw7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます