第2話 時計塔


 飛ぶ速度を緩めて、時計塔の足元へ降り立つ。


 街から離れているだけあって、街のにぎやかしい明かりはここまで届かぬらしい。


 真っ暗な中に建つ時計塔を見上げれば、昼間よりも重厚感と存在感を増しているように感じられた。


 さいわい、私は夜目よめが効く。


 光がなくとも、目の前数メートルほどの範囲ならば、不自由なく視認することができる。


 このくらいの視界があるならば、狩りに特に支障はないだろう。


 予想通り、ここに人間はいなかった。人の気配もまったく感じられない。


 目立たずに狩りをするには好都合な場所を得られたようで、ひとまず安心だ。


『さて……』


 少しばかり思案する。


 街からさらってくるか、もしくは何か道具や魔法を使っておびき寄せるか……もしくは、このまま待つか。


 どれでもいいが、できれば街の人に知られにくい方法がいい。

 要らぬ騒ぎは起こしたくない。

 

 私が食糧として欲するのは、一人の人間に限られる。


 好みはあるが、差し迫った空腹を前に、それを語れるほど落ち着いてはいられない。


 身体が限界を訴えて、やかましく腹の音を響かせる。



 その時。



「あの……」


 背後から、声がした。

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吸収して 鈴乱 @sorazome

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