吸収して

鈴乱

第1話 狩場へ


 魂の渇きに、街を見下ろす。


 すでに日が沈んで、真っ暗な世界の中、街が放つ電灯の明かりだけが、空をぼんやり照らしていた。


 この街には、大勢の人間が住んでいる。


『餌場は……』


 街全体を眺める。

 今宵の食糧を、早いところ摂らねばならない。


 渇きを訴える身体を放っておけば、他者のエネルギーを吸い取る方向へ動いてしまう。


 しっかりした餌を摂り、魂が訴える渇きを少しでも癒さなければならない。


 私は、決して快楽で食糧を摂るわけではない。


 他者の大切なものを奪わぬために、食糧を摂らねばならないのだ。



『……あのあたりにするか』


 街の片隅。他の建物から距離を置かれるように、古びた時計塔が建っていた。


 時計塔のあたりなら、そう目立たずに狩りができるだろう。


 あまり大勢の人が来るような場所でもない。


 目立たず、静かに、食事を済ませられそうだ。


 身を縮めて、背から、羽を取り出す。闇夜に紛れるように蝙蝠こうもりを模した羽だ。


 二、三度、羽ばたいて、空へと飛び上がる。


 時計塔を見て、街を見る。


 街の方は、こちらに気付いたような気配はなさそうだ。


 そのまま、静かに羽ばたきを強め、街の外側を旋回するように、ぐるりと餌場へと飛んでいった。

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