祝宴の始まり

「天使だ、天使がいる……!」


「え……妖精か……?」


「……女神だ……」



 ウィルとジャンの腹黒コンビに嵌められたクラリスとポールは、パーティー当日は早朝から王宮に連れて来られ、支度をさせられていた。


 先に支度を終え、クラリスのいる客室を訪れたエラリー、ポール、アンソニーの三人は、ドアの向こうのクラリスの姿に息を呑んだ。




 クラリスは、学園ではいつも三つ編みのおさげにしている淡い金髪をハーフアップにして、ゆるくふわふわと巻いていた。


 プリンセスラインのドレスは、クラリスの瞳の色と同じ淡いブルーで、その装飾には質のいいオニキスが効果的に使用されていた。アリスのドレスのデザインと同じく、上半身は身体にぴったりとフィットしているため、クラリスの細腰がより強調されている。


 そして、一目で上質だとわかるブルートルマリンをあしらった、控えめだが品のいいアクセサリーが、クラリスの無垢な美しさをさらに引き立てていた。



「あ、ポールお兄ちゃ…えっ?!かっこいい!すごく似合ってる!」

 

 そんなクラリスは、振り返って一番先頭にいたポールを見て歓声を上げた。


 ウィルが用意してくれた亜麻色の盛装と、いつもと違い、綺麗に後ろに撫でつけて整えた髪が、ポールの持ち前の精悍さを更に引き立て、うっとりするような男の色気を醸し出していた。


「お、おう!クラリスには負けるけどな!」


 クラリスに褒められたのと、クラリスに見惚れたのとで、顔を赤くしながらポールが答えた。



「クラリス嬢。私もいますよ」


 そんなポールをさらっと押しのけて、アンソニーがクラリスの手を取る。


 ニコニコとクラリスを見つめるアンソニーも、今日は公爵令息として盛装していた。


 全体的に黒を基本とした落ち着いた感じだが、自身の赤毛とクラリスの金髪を意識した赤と黄色を効果的にあしらっていた。


 細い金縁のフレームの眼鏡がその美貌を際立たせており、胸元のハンカチーフと長髪を結ぶリボンは、クラリスの瞳の色に近いスカイブルーだ。


「いつものあなたも可愛らしいですが、今日はまた女神のように美しい」


「あ、ありがとうございます!」


 アンソニーの甘い笑顔と甘い言葉に、クラリスは途端に真っ赤になった。


「アンソ、トニー様もエラリー様も、皆さん、素敵です!」


 クラリスの言葉に、エラリーもクラリスの反対側の手を取る。


 エラリーは、落ち着いた焦茶色をメインに、所々に琥珀色と金色で装飾を施した盛装で、これまた爽やかな色男っぷりだった。アンソニー同様、その胸元には空色のハンカチーフが覗いている。


「本当に、天使かと思った。この世のものとは思えない美しさだ」


 エラリーの手放しの賛辞にさらに顔を赤くしたクラリスを、その広い背中で隠すようにポールが三人の間に立ちはだかった。


「お前ら、いつまで手を握ってるんだ!ほら、離す、離す!全く、油断も隙もないな」

 

「クラリス嬢、今日はエスコートできないのが本当に残念ですが、パーティーの間はずっと側にいますからね」


「俺も絶対に側から離れないから、安心してパーティーを楽しんでくれ」


「ふふ。お二人ともありがとうございます」


 クラリスがポールの背中から顔だけ出してお礼を言うと、そのあまりの可愛さに三人は揃って顔を手で覆うと横を向いた。




 コンコン。


「二人とも準備はできたかな?」


 ノックの音がして、そばに控えていたミミがドアを開けた。


 そこには、アリスの両親であるオストロー公爵夫妻の姿があった。 


「公爵様!き、今日はよろしくお願いいたします!」


「よろしくお願いします」


 クラリスとポールが頭を下げる。


 今日のパーティーでは、クラリスはオストロー公爵と、ポールはオストロー公爵夫人と一緒に入場することになっていた。


 クラリスとポールが筆頭公爵家の保護下にあることを示すことで、二人に手出しができないようにするための、ウィルとアリスの考えた策だった。


 もちろん、クラリスのエスコートを巡る争いがいつまで経っても決着がつかなかったことも理由の一つではあったのだが。


 アンソニーとエラリーの元にはパートナーになって欲しいという申し出が山のように来ていたが、二人はその全てに断りの返事を返していた。


 クラリスのエスコートができないなら、一人で入場した方がましだというのが、二人の共通認識だったのだ。



「用意ができたならそろそろ行きましょうか?」



 アリスによく似た美しい顔でクレアが微笑んだ。

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