パートナーは誰?(続)

「クラリス、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か?熱でもあるんじゃないのか?」


 ちょうど同じタイミングで食堂に到着したポールが、クラリスの顔を見て心配そうに声をかけた。


 熱を測ろうとクラリスの額に手を伸ばすが、アンソニーがそれを阻む。


「クラリス嬢は大丈夫ですよ」


「あっ、アンソニー、てめ、邪魔するなよっ」


 騒ぐポールを綺麗に無視して、アンソニーはクラリスの手にキスを落とした。


「クラリス嬢、大変名残り惜しいですが、私はこれで。ご家族の皆さんにもよろしくお伝えください」


「ひゃい……」


 こくこくと頷くクラリスに手を振り、アンソニーは颯爽と馬車に乗り込んだ。


「ポールもまた明日、学園で」


「けっ!帰れ帰れ!」


 ふんっと横を向いたままのポールを見て余裕の笑みを浮かべたアンソニーを乗せて馬車は去って行った。




「クラリス、お前、まさかアンソニーに何かされたのか?」


 ポールは真っ赤になって俯くクラリスに尋ねた。


「な、何かって、何もないよ!パーティーのパートナーになって欲しいって言われただけだから!」


「パーティー……ああ、ウィル達の婚約披露パーティーか」


「ポールお兄ちゃんも招待されてるでしょ?」


「ああ、ウィルから直々に招待状をもらったな」


 ポールとクラリスは食堂のドアを開けて中に入りながら話を続けた。



「あら、クラリス、ポール、おかえりなさい」


「おかえり」


 二人の姿にクラリスの両親が優しく声をかけた。


「ただいま!」


「ただいま」


「二人とも先に夕飯食べちゃって。まだ忙しい時間じゃないから」


 エリーが二人に声をかけた。


「ああ、そうさせてもらうよ。行こう、クラリス」


 ポールは迷わず頷くと、クラリスの鞄を持った。


「あ、ありがとう」


 まるで我が家のようにポールは先に立ってクラリスの部屋に向かい、鞄を置いた。 


「先にキッチンに行ってるな」


 クラリスの頭を軽く撫でると、ポールはクラリスの部屋を出た。




 メルカード家のキッチンには既に二人分の夕食が用意されていた。


 食堂を手伝ってくれている分の給金を支払うと、オーリーがいくら言ってもポールはがんとして首を縦に振らなかった。


 ならばせめて夕食ぐらいはと、オーリーとエリーは毎晩ポールの分の食事も用意していたのだ。




「さっきのクラリスの顔……」


 椅子に座り、クラリスが来るのを待ちながら、ポールは思わず呟いた。


 顔を真っ赤にしてもじもじと俯くクラリスは完全に恋する乙女に見えた。


「アンソニーにパートナーの申込をされたのか……」


 正直パーティーなんてめんどくさいもの参加したくなかった。ウィルから直接招待状を渡された時もすぐ断ろうかと思ったが、さすがにすぐはまずいかと思い直し、一旦はお礼を言って受け取ったのだ。


「もしクラリスが行くなら話は別だ」


 アンソニーのパートナーになれば、皆の注目を集めるのは間違いない。その視線はクラリスに対して好意的なものばかりではないだろう。むしろ、クラリスを傷つけるものがほとんどだと予想される。


 学園内、特にS階にいると、貴族と平民の壁を感じることはあまりないが、この王国には身分の差が厳然としてある。


 王太子と公爵家令嬢の婚約披露パーティーともなると、国内の貴族はもちろん、近隣諸国の王族や貴族も招待されるだろう。その中で平民のクラリスが公爵家嫡男のアンソニーにエスコートされて登場すれば、口さがない貴族達の格好の餌食になる。




「ポールお兄ちゃん、お待たせ!」


 そこまで考えた時、クラリスの可愛い声がして、キッチンに姿を見せた。学園用の服から動きやすい服に着替えている。



 クラリスが向かいの席に着くなり、ポールが直球を投げる。


「クラリス、お前、アンソニーと一緒にパーティーに行くつもりなのか?」


「……無理だよ。私みたいな平民と一緒になんて、アンソニー様にご迷惑になるわ」


 ポールの問いにしばらく押し黙った後、クラリスは少し悲しそうな顔で首を横に振った。


「……ほんとは行きたいのか?アンソニーと一緒に」


「……」


 無言で俯くクラリスの手を取り、ポールは優しく言った。


「なあ、クラリス、俺じゃダメか?」


「え?」


「俺と一緒なら誰かに何か言われることはない。万が一何か言ってくる奴がいても、俺が守ってやる。絶対にお前を傷つけさせない」


「ポールお兄ちゃん……」


「安心しろ。俺にだってお前にドレスを買ってやる金ぐらいある。だから、お前がパーティーに行くなら俺をパートナーにしてくれ。もちろんお前が行かないなら俺も行かない。ウィル達には後で違う形でお祝いすればいい」


 いつにないポールの真剣な眼差しに、クラリスは戸惑いを隠せなかった。


「アンソニーはいい奴だ。だが、あいつの立場はダメだ。お前を幸せにできるとは思えない」


 ポールはクラリスの手を両手で握りしめながら、真面目な顔で続けた。


「俺を選んでくれ、クラリス。絶対に幸せにする。泣かせたりしないと誓う」


 愛の告白とも取れるポールの言葉に、クラリスは返す言葉がなかった。

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