断れない!

「はあ、どうしたらいいの……」


 クラリスはベッドに入ったが、全く眠れそうになかった。


「まさか、アンソニー様とポールお兄ちゃんの二人からパーティーのパートナーにって言われるなんて」




 キッチンで、返事ができずに固まっているクラリスに、ポールはフッと笑って、握りしめていた手を離すと明るく言った。


「悪い、悪い。いきなりこんな風に言われたら困ってしまうよな。とりあえずさっさと食べちまおうぜ。大丈夫、返事は急がないからさ」




「……ポールお兄ちゃんには返事は急がないって言われたけど。アンソニー様は明日にでもっておっしゃっていたし、明日には結論を出さなきゃだよね……」



 アンソニーからあんな風に言ってもらえて正直嬉しかった。


 でも、やっぱりアンソニーの手を取ることはできない。


 今は学園にいるから学生同士ということで気軽な付き合いができているが、一歩学園を出れば、アンソニーの住む世界とクラリスの住む世界は全く違う。


 たとえ道ですれ違ったとしても、こちらからは声もかけられないような、雲の上の人なのだ。


「アンソニー様に憧れる気持ちはあるけど、この気持ちが憧れで済んでいるうちに、線を引かなきゃ……」


 そうしないと、ポールが言ったように、幸せになる道は見えない。



「それにしても、あんなポールお兄ちゃん初めて見た……知らない男の人みたいだったな……」


 今日のポールは、いつもの陽気なポールではなかった。クラリスのことを真剣に考えてくれているのが痛いほど伝わってきた。


「ふふ。ポールお兄ちゃん、パーティーなんて興味ないくせに」


 クラリスを守るためだけに、一緒に出席してくれるというポールの気持ちが嬉しかった。


 王国に戻ってきてからずっと、本当にずっと、ポールはクラリスの側にいてくれている。毎日一緒に登校し、帰りもほとんど一緒だ。食堂の手伝いもしてくれて、夕食も毎日一緒に取る。


 クラリス達家族にとって、ポールのいない生活は既に考えられなくなっていた。


「うん、やっぱりパーティーの出席はお断りしよう」


 そうすれば、誰をパートナーに、なんて悩まなくていいし、ポールに無理をさせる必要もなくなる。


「それに、一回しか着ないドレスにお金をかけるなんてもったいないもんね」


 断ると決めてしまうと、気持ちが楽になる。


 クラリスはようやく瞳を閉じて、眠りについた。



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「アリス様、申し訳ございません。パーティーには参加できません」


「ウィル、悪い、俺も欠席だ」


 昼休み、いつものようにいつものメンバーで昼食を取りながら、クラリスとポールは頭を下げた。


「アン……ト、トニー様すみません。せっかくお声がけいただきましたが、やっぱり私はパーティーの参加は辞退させていただきますので、パートナーの件も……」


本当に申し訳なさそうに頭を下げるクラリスとポールに、ウィルが優しく微笑みながら聞いた。


「理由を聞いてもいいかな?」


「やっぱり俺達平民には王宮のパーティーなんて荷が重すぎる」


「はい。私はマナーなども何も知りませんし、アリス様やウィル様のお顔に泥を塗ってしまいます」


「確かに君達は貴族ではないが、私とアリスの大切な友人だよ。それに、ポール。君は先日騎士爵を賜ったじゃないか」




立て籠もり事件の解決に大きく貢献したとして、ポールとエラリーの二人は騎士爵を叙爵していた。


ポールは必要ないと固辞したが、エラリーが、ポールが辞退するなら自分も辞退すると言ってきかなかったため、結局二人揃っての叙爵となったのだった。




「騎士爵もらったところで、俺が平民なのは変わらないよ。今から衣装を準備したりして金がかかるのもごめんだしな」


ウィルの言葉に、ポールはわざときつく返す。



「だけどさ、アリス、もうクラリス嬢の衣装も準備できてるって言ってなかった?」


 ジャンが口を挟んだ。


「そうなんですの……クラリスさんのドレスも既に仕立て済みで、後はフィッティングだけですわ……」


 クラリスに断られたショックが隠せないまま、アリスが答えた。


「ちなみに、ポールの衣装も用意できてるよ」


「はあっ⁈」


 ウィルの言葉にポールが声を上げる。


「私とアリスで相談して、君達の衣装はこちらで用意させてもらったんだよ。君達のために作らせたものだから、二人が出席しないとなると、無駄になってしまうな」


 ウィルがわざとらしくため息をつく。


「で、ですが、私にはやっぱり無理で……」


「大丈夫だよー。僕達と一緒にいれば変な輩は寄ってこないよ。エラリーもいるしさ。ね」


 ジャンの言葉に、それまで蚊帳の外だったエラリーが勢い込んで言った。


「そうだ!クラリス嬢は俺が守るから安心してくれ!」


「こほん。クラリス嬢のエスコートは私ですよ」


「ダメだ、ダメだ!クラリスがパーティーに行くならパートナーは俺だ!」


 ジャンの言葉にアンソニーとポールが参戦してきた。



「クラリス嬢のパートナーについては後でゆっくり相談するとして。ひとまず二人ともパーティーには出席してもらえるということでいいかな?」  


 ウィルがとてもいい顔で笑った。

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