パートナーは誰?

「「お疲れ様でしたー」」


 生徒会の会合を終え、サラとダンリーが仲良く帰っていく。


「私達も帰りましょう。送っていきますよ」


 アンソニーがクラリスににっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 あの事件以来、クラリスの周囲の男性陣プラス、アリスはますます過保護になっていた。全員が全員とも、一瞬たりともクラリスを一人にしない!と心に決めているようで、最初は抵抗していたクラリスも、今では素直に好意に甘えることにしていた。




 公爵家の馬車に並んで座りながら、アンソニーは一ヶ月後のパーティーのことを考えていた。

 

 (ウィル様とアリス嬢はクラリス嬢も招待すると話していたが、クラリス嬢はどうするつもりだろうか)


「クラリス嬢、ウィル様達の婚約披露パーティーには招待されましたか?」


「はい。アリス様からご招待いただきました。ですが、私のような平民が参加していいものか……お二人をお祝いしたい気持ちはもちろんありますが」


 (それに、そんなすごいパーティーに着ていけるようなドレスも持っていないし。アリス様には申し訳ないけど、お断りするしかないかも)


 クラリスが少し困ったような顔をしたのを見て、アンソニーは優しく言った。


「クラリス嬢、もしよろしければ……私のパートナーになっていただけないでしょうか?」


「⁈パ、パートナーですか⁈それは、何のパートナーでしょう⁈」


 (パートナーって、え、何、何、何⁈)


 動揺するクラリスにアンソニーは甘い笑顔を向ける。


「もちろん、パーティーのパートナーですよ。私にあなたをエスコートさせていただけないでしょうか」


「エ、エ、エスコート……?」


「はい。もしまだパートナーが決まっていなければ、ぜひ」


 アンソニーの笑顔にクラリスは顔を真っ赤にして俯いた。


「ですが、私なんかではアンソニー様に釣り合いません。王宮でのパーティーに一平民を連れているとなれば、アンソニー様のお名前に傷がついてしまいます。それに、私はパーティーに着て行く服もありませんし、今回は辞退しようかと……」


「トニーですよ、クラリス嬢。また私の名前を間違えましたね?これはお仕置きして欲しいということでしょうか」


 クラリスの言葉にかぶせるようにアンソニーが言うのを聞いて、クラリスは焦った。


「す、すみません!つい……!」


 あわあわと頭を下げるクラリスの顔にアンソニーの手が伸びた。


「顔をあげてください。すみません、少し意地悪してしまいましたね」


 意外にゴツゴツした大きな手が、クラリスの頬に当てられた。


「ドレスのことは心配いりません。私のパートナーになっていただくのですから、私が贈るのは当然です」


「で、ですが、やはり、公爵家のア、トニー様と私では身分の差が大き過ぎて、ご迷惑になってしまうと思います」


 顔を真っ赤にしながら、クラリスはなんとか断ろうと必死に言い募った。


「では、もし私が貴族でなくなれば、あなたは私の手を取ってくださいますか?」


「え?」


「私のこの身分が邪魔なのであれば、身分など必要ありません。平民でも王宮勤めはできますからね」


 にっこりと笑うアンソニーにクラリスは思わず大声を上げた。


「な、いけません!そんな簡単に身分を捨てるなどとおっしゃらないでください!トニー様のこれまでの努力が無駄になってしまいます!」


 ウィルの側近としてだけでなく、次期宰相候補として、公爵家嫡男として、アンソニーが寝る間も惜しんで必死の努力を続けていることは、短い付き合いの中でもひしひしと感じられた。


 自分のためにその努力を簡単になかったことにするのは、クラリスには到底受け入れられなかった。


「冗談でもそんなことおっしゃらないでください!」


 クラリスの剣幕にアンソニーは少し面食らったようだったが、すぐに破顔した。


「冗談などではなかったのですが。しかし、クラリス嬢は怒った顔も可愛いですね。本当に全てが可愛らしくて愛おしい」


 アンソニーはクラリスの頬を優しく撫でると、反対の頬にキスを落とした。


「!!!」


「ふふふ、怒ったり、真っ赤になったり、なんて表情豊かなんでしょうか。私のお姫様は」


「ト、トニー様!近すぎます!」


 クラリスは必死で距離を取ろうとするが、アンソニーの手がそれを許さない。


「そうですか?私はもっと近くてもいいんですが」


 アンソニーがそう言ってさらに距離を詰めようとした時、馬車はクラリスの家の前に止まった。


「残念ながら時間切れですね。クラリス嬢、パートナーの件の返事はまた明日にでも聞かせてください。急かせてしまい申し訳ないですが、ドレスを仕立てる時間が必要ですからね」


 にっこり笑って言うと、アンソニーは先に馬車を降り、クラリスの手を優しく握ると、クラリスを馬車から降ろした。




「あ!クラリス!アンソニー!今帰ったのか!」



と、そこにポールの大声が響いた。

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