それぞれの放課後(図書館ではお静かに・続々)
授業が終わり、図書館に向かおうとしていた四人の前にポールが現れたのは、当然と言えば当然だった。
「図書館に行くなら俺も一緒に行くよ。もともと、クラリスと一緒に帰るつもりだったしな」
当たり前のようにクラリスの鞄をひょいと奪い取ると、ポールはクラリスに並んで歩き始める。
「えーっと。でも、今日の勉強は授業でやった所の復習だから、ポールお兄ちゃんには退屈じゃないかな」
クラリスが困ったように告げる。
「クラリスの隣にいて退屈することなんてないさ」
「だが、一年生の勉強会に三年生が参加するのは、どうかと思うが?」
クラリスの言葉に勢いづいたエラリーが、ポールを牽制する。
「上級生が下級生の面倒を見るのは当たり前だろ?まあ、俺が世話を焼きたいのはクラリスだけだけど」
抜け抜けと言い放つポールを止めることは誰もできず、結局五人でSクラス専用図書館の自習室に来ることになってしまった。
(はあ、あの時にもっときつくダメって言っておけば良かった…これじゃ、全然勉強に集中できないわ。家に帰って一人で勉強した方が良さそう)
クラリスがいい加減諦めて帰ろうかとした時、見かねたジャンが深いため息を一つつくと、大人気ない二人を諌める。
「はああ。二人とも、いい加減にしなよ。クラリス嬢が困っているじゃないか。そもそも今日は授業の復習のために集まったんだから、やる気がないなら帰ってよ」
「クラリス様、クラリス様はどうぞ私のお隣にいらしてください」
「イメルダ様…!ありがとうございます!」
イメルダが助け舟を出すと、クラリスはホッとしたように微笑み、急いで席を移動した。
「あっ、クラリス!」
「クラリス嬢!」
「「しーっ」」
思わず声をあげた二人をジャンとイメルダが諫める。
「図書館の中ではお静かに」
「「はい…」」
いつもは控えめなイメルダにたしなめられ、途端に小さくなる、飼い主大好きな大型犬のような二人に、ジャンは呆れたように告げた。
「ポール殿は少し離れた所で待っていていただけませんか。今日、エラリーと僕はクラリス嬢から授業ノートを見せてもらう約束になっているんです。今日の授業の内容は今日の内に理解しておかないと、明日からの授業についていけなくなってしまいますから」
「「はい…」」
「クラリス嬢もそれでいいかな?」
ジャンはクラリスを気遣うことも忘れない。
「はい。もちろん!ポールお兄ちゃん、勉強が終わったら一緒に帰るから、少しだけ待っててくれる?」
「…わかったよ。クラリスがそう言うなら、おとなしく待ってるよ」
さすがのポールもここで折れ、四人は予定通り授業の復習をすることができたのだった。
その日、S階の職員室では、今日は生徒達がザワザワして落ち着きがなかったことが話題になっていた。
「いやあ、新年度の猶予期間も終わりに近づいてきたせいか、どうも生徒達が集中力に欠けていますな」
「おっしゃる通りです。新しい環境に慣れて、甘えが出てきましたかね」
「これは、もう少し課題を増やした方がいいかもしれませんな」
その翌日から、猶予期間中にも関わらず、Sクラスだけやけに課題が多くなった背景に、ポールの存在があったことに誰も気付かなかった。
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