それぞれの放課後(図書館ではお静かに・続)
「何だか愉快なことになっているねー」
そんなカオス化した空間に、ジャンの楽しそうな声が響いた。
「すまない、フルーツを選んでいたら、遅くなっ……!」
その後ろから慌ててついてきたエラリーは、いつもとは違う食卓の様子に、トレーを落としそうになった。
「なっ、なっ、なぜっ、クラリス嬢の隣に…!」
「ん?クラリスのクラスメイトか?俺は今日からこの学園に通うポールだ。よろしくな!」
ジャンとイメルダはいつもの席に座ると、屈託のない様子で自己紹介をするポールに笑顔を向けた。
「僕はジャン。一年生だよ」
「イメルダと申します。よろしくお願いいたします」
「…エラリーだ。クラリス嬢とは同じクラスで親しくしている」
無言でクラリスの隣の席にトレーを置いたエラリーが、ポールを睨みつける様に真っ直ぐ見た。
「クラリスと親しく…?ふーん?」
ポールの目がキラッと光る。
「あ、あの、皆様!こちらは私の幼馴染のポールお兄ちゃんです!私がまだ幼い頃、家族ぐるみで親しくしていたんです!」
険悪なムードになりそうなのを見てとって、慌ててクラリスはポールと自分の関係を説明した。
(そう、私達は幼馴染なの!それ以上でもそれ以下でもないのよ!)
そんな思いをこめて、クラリスは精一杯の笑顔を浮かべる。
「ところで皆さん、早く食べないとお昼休みが終わってしまいますよ」
そんなクラリスの思いが通じたのか、それまで静観していたアンソニーが、ごく常識的な忠告をしたことで、この場はひとまず収まったかの様に見えた。
「クラリス嬢、今日の果物はバナナとみかんとりんごだ」
「まあ、エラリー様、いつもありがとうございます。ですが、毎回申し上げているように、こんなにたくさんは食べられません」
一緒に昼食を取るようになってから、エラリーはクラリスのために毎回デザートを購入していた。
初日はクラリスの好みがわからず、スイーツ全種類をトレーに載せてきてクラリスを困惑させていたが、クラリスは果物などさっぱりしたものを好むと知り、毎回フルーツを少しずつ、何種類か載せてくるようになった。
「クラリスが好きな果物は、いちごと桃だ。それから、クラリスは少食だから、こんなに沢山は食べられないぜ」
クラリスに礼を言われて嬉しそうにしているエラリーを見て、ポールが面白くなさそうに呟く。
「…!大丈夫、クラリス嬢、食べられる分だけ食べてもらえれば。後は私が全部食べるから、気にしないでくれ」
クラリスを挟んで、火花を散らす二人にアリスはイライラとした視線を向けながら、ふと不思議に思った。
(あれ?ゲームのポールはこんなキャラじゃなかったような気がする。ウィルを呼び捨てにしたり、このポールって貴族に対しても遠慮がないわよね?)
思考に耽るアリスを隣からニコニコと見つめながら、ウィルが声をかけた。
「アリス嬢、今日は授業が終わり次第、私の馬車で一緒に王宮に向かおう」
(!忘れてた!お茶会だった!)
「いえ、私は公爵家の馬車で向かいますわ。待たせている御者にも申し訳ないですし。あ、そうでしたわ、クラリスさん、今日は一緒に帰ることができないんですの。ごめんなさい」
ウィルの提案をバッサリ切り捨てると、アリスは心底残念そうにクラリスに告げた。
「いえ、アリス様、私のことはお気になさらないでください。それに私も今日は図書館で勉強する予定でしたし」
「そうだ、私達と一緒にな」
クラリスの言葉を受け、ドヤ顔でポールを見るエラリーは、目の前で「あちゃー、言っちゃった」という顔をしているジャンとイメルダには気づかない。
「へえ、図書館で勉強かあ」
ポールの唇が綺麗な弧を描いた。
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