それぞれの放課後(図書館ではお静かに)
(っしゅ、集中できない!)
学園の敷地内にある、Sクラス専用の図書館の一角で、クラリスの右側にはポールが、左側にはエラリーが座り、彼女を挟んでバチバチに火花を散らしていた。
「クラリス嬢、この問題の解き方を教えてくれないか」
「あ、それはで…」
「その問題の解き方なら、教科書の21ページ目に載ってるぞ」
「っ、俺はクラリス嬢に聞いている」
「遠慮するなよ、優しい先輩が優しく教えてやるから」
全く優しくない笑顔を浮かべながら、ポールがエラリーをできるだけクラリスから遠ざけようとする。
「確かに学年は上だが、貴殿は今日初めて王立学園に来られたのだろう。それで先輩風を吹かすのは少々図々しいのでは?」
エラリーは必死に感情を押し殺しながらポールを向こうに追いやろうとする。
(はあ、何でこんなことに…)
クラリスは深いため息をついた。
始まりはお昼休みだった。
いつものように、アリスに連れられて食堂に向かおうとしていたクラリスの元に、足早にやってきたのはポールだった。
「クラリス!一緒に昼食を取ろう!」
「…ポール様、クラリスさんはお昼はいつも私と一緒ですの」
「そうなのか。じゃあ、今日から俺も一緒ってことで、よろしくな!」
(全くよろしくない!)
鬼の形相を見せるアリスを気遣いながらも、クラリスは編入してきたばかりの幼馴染を思い遣った。
「あの、アリス様、もしご迷惑でなければ、ポールお兄ちゃんも一緒で構いませんか?今日初めて学園に来て、心細いんだと思います」
目の前のガサツそうな男にそんな細やかな神経が備わっているとは、アリスには到底思えなかったが、アリスを見上げるクラリスの上目遣いに負け、渋々頷いた。
「っ、なんで今日もまた…!」
食堂に着くと、ウィルとアンソニーがいつもと同じ席に座り、二人を待っていた。ニコニコと手を振るウィルを見て、アリスはギリギリと歯を食いしばる。
そう、アリスは初日にクラリスの隣の席を奪われて以来、一度も隣に座ることができていなかった。
(毎日、毎日!どんなに早く教室を出ても、必ず先回りされているんだから!)
ウィルとアンソニーが先に向かい合わせで座っているため、必然的にウィルの隣には婚約者であるアリスが座ることになる。
そのため、クラリスはアンソニーの隣に座ることになり、反対側のクラリスの隣の席には、少し緊張した顔のエラリーが座るのが恒例となっていた。
そして、アリスの隣には少し申し訳なさそうなイメルダが座り、その隣には嬉しそうなジャン、と、食堂での席順はすっかり固定されていた。
…この男が来るまでは。
「お。ウィルとアンソニーも先に来てたのか!」
「ポ、ポールお兄ちゃん、ウィル様はこの国の王太子殿下よ!」
王族とその側近をいきなり呼び捨てにするポールを、クラリスは慌ててたしなめる。
「え、だって、この学園では身分差を気にしなくていいからって、ウィルが」
「だーかーらー!」
「はは、クラリス嬢、いいよ、ポールの言う通りだよ。呼び捨てでいいって言ったのは私だ」
自分の横の椅子を引き、ひきつり笑いを浮かべるアリスを座らせながら、ウィルはにこやかに告げた。
「な!言っただろ!」
そう言うポールは、満面の笑みを浮かべながら、アンソニーの隣の席に座ると、自分の隣の椅子を引き、クラリスに座る様に促した。
「あ、ありがとう…」
(な、なぜかしら、斜め前から冷気が…)
アリスは目が合う者全てを凍らせそうな、絶対零度の視線をポールに向けているが、当のポールはクラリスしか目に入っていないようで、目の前の雪女化しているアリスには気づかず、ニコニコしている。
そのアリスの隣のウィルは、笑いが堪えられない様子で、手で口を抑えつつも、くすくす笑いが止まらない。それをジト目で見つめるアンソニー。
(うわあ、この雰囲気の中で食事しなきゃいけないの…⁈)
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