それぞれの放課後(アリスサイド)

(あ~、ミモザが綺麗だな~。今度、うちの庭にもミモザを植えてもらおうかな~)




ここはカリーラン王宮の庭園。


アリスは、授業が終わるとすぐにウィルとアンソニーに連れ(拉致)られ、同じ馬車で王宮まで来た。


鮮やかな萌黄色のドレスに着替え(させられ)、上品なシルバーのアクセサリーを見にまとい(わされ)、アリスはキラキラニコニコと微笑む王子様を目の前にして、現実逃避していた。


(あ、でも、ミモザって繁殖力が強いから、結構手入れが大変って聞いたことがあるな~。今度庭師のサムに聞いてみよっと)




「アリス嬢の黒髪と黒い瞳には、どんな色も似合うね。そのドレスは気にいってくれたかな」


「もちろんですわ。過分なお心遣い、いたみいります」



これまでもパーティーなどに婚約者として出席する度に、ウィルからアリスにドレスと装飾品が贈られてきた。だが、ここまでウィルの髪と瞳の色を意識した格好をさせられるのは初めてだった。



(なんでこの王子様は、自分の色を私に着せて喜んでいるのかしら。クラリスちゃんが手に入らない代わりかしら)


ウィルの行動のあまりの不審さに、油断するとすぐに中央に寄ってしまう眉頭の位置を動かさないように懸命にキープしているアリスを見て、ウィルは楽しそうに笑っていた。


「くくく、本当に…」


「?ウィル様?」


ウィルの呟きを聞いて、アリスが首を傾げる。少しだけ幼さを感じさせるその仕草に、ウィルは一つ咳払いをすると、雰囲気を一変させて、本題に入った。




「ところで、君のお父上のオストロー公爵とドットールー侯爵からの、コモノー男爵親子の不正に対しての申立だが、お二人が提出した証拠の確認が取れたよ。近いうちにあの親子は断罪されることが決まった」


ウィルが優雅にお茶を飲みながら、アリスが聞きたかったことを教えてくれた。


「まあ。こんなに早く処理していただけたんですね。ありがとうございます」





クラリスからコモノー男爵親子のことを聞き、ゲーム内での彼らの立ち位置を思い出したアリスは、早速翌日に父である公爵に、友人が困っているからどうにかしたい、という話をした。

すると、ちょうどコモノー男爵親子の悪事に関する証拠を集めていた所だと聞かされ、渡りに船と、一日でも早い断罪を!とお願いしたのだ。  


(投獄されてしまえば、あの親子もクラリスちゃん達に手は出せないし。早く捕まえて牢に繋いで欲しいわ。急いで動いてくれたウィル様には感謝ね)


アリスの考えを知ってか知らずか、ウィルはニコニコしながら、さらっと言う。


「他でもない、未来の義父からの頼みだからね、最優先で処理したよ。まあ、公爵達の揃えた証拠が完璧だったということが大きいけどね」


「……ありがとうございます。(なんか、聞きたくない言葉が聞こえた気がするけど、今は感謝よ、感謝!感謝するのよ、アリス!)

そう仰っていただけて、父も喜びますわ」


アリスも淑女の笑みを浮かべて応戦する。


「調べているうちに耳に入ってきたんだが、コモノー男爵親子は、君の友人のクラリス嬢の実家でも傍若無人な振る舞いをしていたようだね」


クラリスの名前に、それまで完璧な公爵令嬢に擬態していたアリスの眉がピクリと上がった。


「…はい。クラリスさんから直接聞いたんですが、彼女のご実家の食堂に頻繁にやって来ては、クラリスさんと彼女のお母様に失礼なことをしていたようです」


「ふむ。やはりそうか…」


「今回、父とドットールー侯爵が提出した証拠は、粗悪な医薬品を不正に売買していることに関してかと思いますが、コモノー男爵親子のせいで尊厳を傷つけられた女性はたくさんいるはずです。ですから、その件でも二人を裁いていただきたいのです」


「ああ。男爵家で働いていた使用人達の証言も集めているよ。だが、やはり、被害にあった女性本人からは、なかなか話を聞くことができなくてね」


「それはそうですよね…」  


同じ女性として、被害者達の気持ちは察するにあまりある。


「もし、クラリス嬢からまた何か話を聞くことがあったら、私にも教えて欲しい」


「かしこまりました」



(まあ、クラリスちゃんにはあれから公爵家の影をつけてるし、報告するようなことは何も起きないはずだけどね!)





「では、お話も済んだようですし、私はこれで失礼…」 


アリスが辞去しようと立ち上がると、すかさずウィルがその手を取り、立ち上がった。


「まだ時間も早いだろう?せっかく久しぶりに二人になれたんだし、散歩に付き合ってもらえないかな。ミモザも綺麗だが、今はバラも見頃なんだ」


(え。今、被せてきたわよね⁈またしても「はい」一択⁈てか、手!)


「え、ええ。喜んで…」

 

麗しい王子様スマイルに、やっぱり頷くしかないアリスだった。

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