悪役令嬢爆誕⁈(続)
「劇症型溶血性レンサ球菌か…厄介な相手だわ…」
前世でも「人喰いバクテリア」として恐れられていたこの細菌は、常在菌として身近にあるもので、通常は命に関わるほど重篤な症状を引き起こすことはない。だが、何かの拍子に傷口などから侵入すると、致死率30%という恐ろしい菌となるのだ。
「この菌にはペニシリン系の抗生物質が効くと言われていたわね。でも、この世界に抗生物質なんて存在するのかしら…」
もしお母様の死因が人喰いバクテリアであったならば、あまり時間はない。
「悩んでいても仕方ないわ。お父様のお友達のドットールー侯爵なら最新のお薬の情報を持っているはず!お父様にお願いして、侯爵様にお会いしなきゃ!」
オストロー公爵家からの早馬を受けて、ドットールー侯爵は急ぎ公爵家に向かっていた。
こんな深夜に急いで来て欲しいという遣いを寄越すなど、およそオストロー公爵らしからぬ行為だ。
だからこそ、事の深刻さが伺える。
「この薬が効いてくれたらいいのだが…」
気のいい侯爵は友人を思い、夫人の無事を天に祈った。
「デーヴィッド!来てくれたか!」
「あなたがこんな時間に呼び出すんですから、緊急事態に違いないでしょう?それで、ご夫人の容体は?」
「それが…高熱が続いていて、手足がパンパンに腫れているんだ。今、ラングドン医師が側についてくれてはいるが、正直お手上げのようだ」
「そうですか…ひとまず、ありったけの解熱剤を持ってきました。ラングドン医師に見てもらいましょう」
「ありがとう。一緒に来てくれ」
クレアの部屋に入ると挨拶もそこそこに、テーブルの上に持ってきた薬を全部出し、ラングドン医師に説明する。
「これらが、これまでに効能が確認できている解熱剤です」
「この薬は?私は初めて見るものです」
「そちらは、オストロー公爵令嬢に頼まれて探し出した新薬です。まだ効能が確認できていないのですが、令嬢が『絶対に必要になるから!』と強くおっしゃったので、全ての取引先に問い合わせて、つい先ほど入手したものです」
「アリスがそんなことを?」
「ええ、三日ほど前に令嬢が私を訪ねて来られた時に。あまりに真剣にお願いされたので、子供の言う事として片付けられず、手配したのです。先ほど公爵からの早馬を受けた際に、そのことを思い出して、念のためお持ちしました」
「そんなことが…うちの娘が手間を取らせてしまい、申し訳なかった」
「いえいえ。お気になさることはありません。それより、ラングドン医師、この薬は使えそうですか?」
「そうですね…正直に申し上げますと、ドットールー侯爵様にお持ちいただいたこれらの薬は既に投与してみたものばかりです。残念ながらどれも今のところ効果がありません。この新しい薬は解熱剤なんでしょうか」
「恐らくは。公爵令嬢は『抗生物質と言って、傷口から悪い物が入って熱を出した時に効く薬』だとおっしゃっていましたが」
「抗生物質とは初めて聞く薬ですな。ですが、お嬢様のおっしゃる症状は、夫人の症状に合致します。オストロー公爵様、今は一刻を争います。アリスお嬢様を信じてこの薬を試してみるのはいかがでしょうか」
「…まだ効能のはっきりしない新薬か…だが、他に手がないならやむを得ん。その薬を試してみよう…!」
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