悪役令嬢爆誕⁈

「そうよ!この時の傷のせいでお母様は熱を出して、そのまま…」


  クレアが亡くなった後、クレアを溺愛していた公爵は抜け殻のようになり、クレアの死の遠因となったアリスを遠ざけるようになる。三人の兄達も母を奪ったアリスを許せず、距離を置くようになり、孤独に苛まれたアリスは彼らの気を引こうと傍若無人な振る舞いを繰り返す。


「そして、そのまま高等部に進学して、誰からも愛される可憐なヒロインに嫉妬の炎を燃やすと…」


「うーん、悪役令嬢になるには理由があったのねえ…」



 アリスが一人しみじみしていると、ノックの音がする。


「アリスお嬢様、お目覚めですか?」


「ええ。先ほど目が覚めたところよ」


 アリスの言葉にカイシャがドアを開けて告げる。


「ラングドン様は先ほどお帰りになりました。奥様のお部屋には旦那様がいらっしゃいます」


「ありがとう、カイシャ。私をお母様の所に連れて行ってくれる?」


「は、はい、もちろん!」


 カイシャは手早くアリスの身だしなみを整え、クレアの部屋へとアリスを誘った。











 オストロー公爵に休んでいいと言われ、再び自室に戻ったアリスは、先ほどに引き続き記憶の整理をしていた。

 ノートなどの筆記用具を探したが、アリスは勉強をサボっていたらしく、ペンの一本も見当たらないため、仕方なく脳内の記憶を声に出して整理する。


「お母様が死んだことで家族が崩壊して、悪役令嬢が爆誕するのよね」


「じゃあ、お母様が死ななければ、悪役令嬢も誕生しないんじゃない?」


「あ、でも、お母様の死因は表向き、原因不明だったのよね…」


 ラングドン医師による公式見解は「原因不明の高熱」。だが、医師は公爵には「傷口から悪いものが入ったせいではないか」と話していた。


「そのせいでアリスが悪者にされちゃうのよ。こんな五歳にもならないような子の行動なんて、本人のせいじゃないわ。まあ、子育てはしたことないけど」




 前世ではバリバリのリケジョで喪女だったアリスには子育ての経験はなかったが、仲の良い友人が初めての子育てで疲弊していたのは覚えている。


 友人曰く、「子供の行動は予測不能。やってる本人もわかってやってるわけじゃない。だから周りの大人は目を離しちゃダメ」。


「小さい子ってエネルギーの塊だから。先回りして危険がないようにしてるんだけど、追いつかなくて」


「大変だねえ…」


「ほんと、子育てがこんなに大変だとは思わなかったよ~。でも、子供って未来の塊でしょ。未来を作ってるんだと思うと少しは救われるっていうか」


そう言ってニカッと笑う友人の顔とたわいない会話が蘇る。







「アリスのこれまでの行動は反省するとして。これから先の未来を何とかしなきゃ」


「傷口からの高熱…原因不明…」


 前世では医学部に進学し死ぬまで薬学の研究に明け暮れていたアリスは、持てる知識を総動員して、クレアの死の原因を探っていた。

 

「……!ある!いや、前世でも詳しいことはほとんど解明されていなかったけど…」


「人喰いバクテリア…!」 


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