爆誕フラグ回避

「カイシャ、今日はやけに朝からみんなバタバタしてるみたいだけど、何かあったの?」


 朝食を摂りながら、アリスはカイシャに訪ねる。


「そうだね。お父様もエリック兄様もいらっしゃらないしね」


 公爵家の三男でアリスと五つ違いの兄のカイルもアリスの疑問に頷く。


「朝食を終えたらお父様のお部屋に行ってみるか!」


 これは公爵家次男のマイクだ。


 いつもなら朝食の席には公爵夫妻と三人兄弟とアリスと家族全員が揃うはずなのだが、今日は夫妻も長兄のエリックもいない。

 母のクレアは傷が治るまでは安静に!という父の過保護な指示により、あの日以来自室で食事を取っていたので、今ここにいないことは不思議ではないのだが。


「さあ、私は何も聞いておりませんが…」


 カイシャは困ったように俯いた。

 その様子にアリスは何かあるな、と感じ、急いで朝食を済ませるとクレアの部屋に向かって走り出した。


「あ!お嬢様!またそんなお行儀の悪い!」


「ごめんなさい!でも、お母様が気になるの!」


「アリスはお転婆だなあ」


「そういう所も可愛いけどな!」


 妹が可愛くて仕方ない兄達は、走るアリスを微笑ましく見つめながら、食事を終える。


「カイル、俺達も行こう」


「うん」


 さすがにアリスのように廊下を走ることはなく、二人はゆっくりと母の部屋に向かった。










「お母様!」


 先日完璧だった行儀作法はすっかり忘れて、アリスはノックもせずに母の部屋のドアを大きく開けた。


「!」


 そこには疲れた様子の父とラングドン医師、父の友人のドットールー侯爵が、ぐったりとソファに沈み込んでいた。

 母のベッドの側には兄のエリックが、少し離れたところに侍女のマイラが目をうるませて立っている。


「お母様は…?」


 一瞬で血の気がひく。

 アリスは慌てて母のそばに駆け寄った。


「アリスか。お母様は大丈夫だよ」


 エリックが優しくアリスに声をかける。その落ち着いた声にホッとした所に、父のオストロー公爵に手を引かれ、きつく抱き締められる。


「アリス!よくやった!母さんが助かったのはお前のおかげだ!」


「お、お父様、く、苦しい!」


「ああ、すまない、ちょっと力が入りすぎてしまった」


「アリス嬢。あなたのおっしゃっていた『抗生物質』が母上を救ったのです」


 少し疲れた様子のドットールー侯爵がニコリと微笑む。


「アリスお嬢様!どうしてこの新薬のことをご存知だったのですか⁈医師である私でも知らなかったのに!」


大人の男性三人に囲まれて、アリスが何と説明したものかワタワタしてると、マイクとカイルも部屋に入ってきた。


「父上、兄上、これはいったい…?」


「二人も来たか。ここで騒ぐと母さんが休めないな。全員リビングに移動しよう。ラングドン医師も別室で少し休んでくれ」


「ありがとうございます。ですが、私はまだ奥様の病状が気になりますので、こちらでお側におります。侍女の方もできればご一緒にお願いいたします」


「もちろんです!私も奥様のそばにおります!」


「二人ともありがとう。では、すまないが、クレアを頼む。クレア、少しだけ離れるが、またすぐに戻ってくるからな」


眠るクレアの頬をひと撫でして、オストロー公爵はみんなをリビングへと促した。

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