Sクラスは地雷原⁈(続)

「ウィル!」


ウィルと呼ばれた銀髪翠眼の超絶美形が教室に入ってくると、クラリスの周りを囲んでいた生徒達がサッと後ろに退けた。


「やあ。君が噂の特待生だね。私はウィル。高等部三年生だよ。この学園の生徒会長も勤めている。よろしくね」


エラリーも霞むぐらいのキラキラオーラを撒き散らしながら、ウィルはクラリスに右手を差し出した。



 うわー!出た!何このイケメン・オブ・イケメンは!これ、絶対攻略対象でしょ!



あまりのキラキラオーラに圧倒されたクラリスがボーっと固まっていると、ウィルと名乗ったイケメンが、ニコッと笑って握手を促す。

 その仕草に慌ててクラリスも右手を出し、遠慮がちにウィルの手を握った。


「クラリス・メルカードと申します!どうぞよろしくお願いします!」


「クラリスちゃんだね。何かわからないことがあればいつでも聞いてね。あ、そうそう、この学園では自己紹介する時は名前だけ名乗るのが慣習になってるんだ。苗字を名乗ると立場の差が明確になってしまうからね」


「そうなんですね!すみません、私、何も知らなくて。教えていただき、ありがとうございます」


素直に頭を下げるクラリスの耳に聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。


「ウィル様、私の友人に何をしていらっしゃるのかしら」


「アリス」


「アリス様!」


「何をしているって、挨拶しただけだよ?」


「ではなぜクラリスさんがそのように頭を下げて小さくなっているのかしら。まさか何かひどいことをおっしゃったわけではありませんよね」


アリスはクラリスを庇うようにその前に立つと、背の高いウィルをキッと睨むように見上げた。


「あ、アリス様、違うんです、ウィル様は私にこの学園のことを教えてくださったんです。それでお礼を申し上げていただけなんです」


クラリスが慌ててアリスの誤解を解くと、アリスは強張らせていた肩の力を抜いた。


「そうでしたか。早とちりで失礼いたしました」


ウィルに軽く頭を下げると、アリスを振り返り、ニコッと笑う。



途端に、周囲で空気になっていた生徒達がざわめく。


「み、みたか、オストロー嬢が笑ったぞ…!」


「何てお美しい…」


「貴重なものを…ありがたや、ありがたや」


中には手を合わせて拝み始める者までいる。



そんな生徒達を綺麗にスルーして、アリスは先ほどウィルと握手していたクラリスの右手を取り、両手で握りしめた。


「クラリスさん、何かわからないことがあれば、いつでも私に聞いてくださいな。わざわざ一番遠い教室まで行くことはなくってよ」


「は、はい!ありがとうございます!」



 なんか、私、アリス様には「はい」と「ありがとうございます」しか言っていない気がする…語彙力…




アリスの推しの強さに、語彙力のない残念な子になってしまっている自分に気づいたが、自分よりもはるかに立場が上の人間からの好意を断ることもできず、せめて足りない語彙力をカバーしようと、アリスに微笑み返す。



と、その笑顔を間近で見たアリスはもちろん、周りで見ていたエラリーやその他大勢の生徒達がみんな一斉に顔を赤らめて別の所を向いてしまったその時、休み時間の終わりを告げる鐘がなり、みんな慌てて自分の教室や席に戻ったのだった。

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