Sクラスは地雷原⁈

「お、おはようございます!」


お腹の底から声を出して、覚悟を決めて教室に足を踏み入れる。


と。あちらこちらからキラキラした空気を纏った「おはよう」が返ってくる。


 な、なに、このキラキラは…!眩しい…!


「おはよう。私はエラリー。今日からクラスメイトとしてよろしく頼む」


中でも一番キラキラを撒き散らしている茶髪のイケメンが右手を差し出してきたので、慌ててその手を握り、挨拶をする。


「私はクラリス・メルカードと申します!よろしくお願いいたします!」


握手しながら深々と頭を下げるクラリスに目の前のイケメンは堪らず吹き出した。


「プフッ、随分と腰の低い特待生だな」


 …あ!そうだった!ここは前世でいえば欧米風の価値観の世界だった!握手しながらお辞儀なんて、日本人しかしないわ!


「恐れ入ります…」


つい、前世の癖で最敬礼を披露してしまったクラリスは更に「ザ・日本人」な言葉を呟きながら、手を離して自分の席につこうとした。


が。なぜか、目の前のイケメンが手を握ったまま離してくれない。


「あ、あの、エラリー様…?」


困惑したクラリスがエラリーと名乗るイケメンに目を向けると、その濃いブラウンの瞳が興味深げにクラリスの手を見つめていた。


「女性にしては、少し手が荒れ過ぎなんじゃないか」


その言葉にクラリスの顔にさーっと朱が登る。

毎日のように店の手伝いをし、家の中でも率先して家事を担当しているクラリスの手は年中荒れていた。ハンドクリームなどは贅沢品で、クラリスのような平民が簡単に手に入れられるものではない。


「お目汚し失礼いたしました!」


「…あっ」


クラリスは怒りに任せて、エラリーの手の中から自分の手を取り戻すと、プンプンしたまま席についた。


 何よ。水仕事なんてしたこともない貴族のおぼっちゃまが。悪かったわね、汚い手で!こちとら日々の生活にいっぱいいっぱいなんだから!


怒りでいっぱいのクラリスは、クラス中の視線を集めていることに気づかないままだった。






一時限目が終わり、10分間の休み時間になると、早速クラリスのもとにクラスメイトが集まってきた。


「私はイメルダよ。クラリスさん、よろしくね」


「俺はダンリーだ。よろしく」


「私はサラ。あなた、進学試験で三位だったクラリスさんでしょ?ぜひお友達になりたいと思っていたの!」


クラリスに声をかけようと、クラスメイトの輪の外からエラリーが隙を伺っているが、クラスメイト一人一人の顔と名前を覚えるのにいっぱいいっぱいのクラリスはそれに気づかない。


「…くっ」


「ふふ、珍しいね、エラリーがそんなに女の子のことを気にするなんて」


「ウィル…!」


そんなエラリーに廊下から声をかけたのは、またしてもキラキラまぶしいイケメンだった。

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