第29話 自分で蒔いた種 【side 梅】

 なんで?なんで?なんでー?

 走りながら疑問符がずっと頭の中を飛び回る。

 やってしまった!桃に唆された!

 違う、誰かのせいじゃない、自分がやりたくてやったんや……

 そのままリョータから逃げ出して、桜の車で家に帰ってきた。自分の部屋に戻って二次会の為に着替えをしながら思い出す。

 

 リョータの顔。目がまん丸になってた。びっくりし過ぎて声が出てなかった。いきなりあんなことされたら、そらびっくりして声も出えへんわな……あーあ どうしよー。でももうしゃあない。やってしまった事はなかった事には出来ない。

 リョータに謝ろう。それしかない。今日の二次会にリョータが来れない事がせめてもの救いだった。流石に今日はまともにリョータの顔を見れそうにない。


 二次会の間もずっとそのことばかり考えていた。

 となりでキョロキョロする弟の動きにイライラして八つ当たりでつねってやった。

 今日ウチに泊まるスーちゃんの後輩が挨拶に来たときもろくすっぽ顔も見なかった。名前も覚えてない。頭の中はさっきの自分のハレンチな行いでいっぱい。唇、タコみたいになってたんちゃうかな、リョータは至近距離でそれを見てた……あー もう死にたい。 

 ぐいぐいお酒を飲んだ。一瞬でも良いから忘れさせてくれーと二次会からガンガンに飛ばしまくった。

 お陰様で三次会の記憶はほとんどない。気がついたら次の日になっていた。今日はクリスマスか…


 二日酔いどころか三日酔いコースやな、頭痛ぁ……

とにかく風呂に入った。ムクムクの顔。血走った腫れぼったい目。ぐちゃぐちゃの髪。あー こんなんにキスされたら泣いてしまう、最悪や。リョータごめん。

 

 風呂から上がって、やっと家に自分独りなのに気がついた。みんなお出かけか。クリスマスやもんな……何だか涙が出そうで慌てて顔を擦った時、インターフォンの音がした。


「はい……」

 オッサンのような低い不機嫌さ爆発の声で出た。

「あ、僕高木と言います。梅さんの友達です。梅さんご在宅ですか」

 リョータ?!なんで?!ヤバっ!

「あー 梅は仕事に行っておりますぅ」

 慌てて作り声を出す。

「梅やろっ?俺。開けて、話しあんねん」

 バレてた…そらそうか。

 どうしよう…逃げたい…でも今謝らんと一生顔見られへんかも知れん。覚悟を決めろ。自分が蒔いた種やろが。

 鏡を見に行く。

 まだ髪が濡れたまま。目も腫れてる。酒臭さMAX。最悪。でもしゃあない。

 ノロノロと玄関に向かった。

 

 玄関のドアを開けると門の前にリョータが立っていた。顔が見れない。下を向いたまま門の錠を外す。

「中入って」

リョータに背を向けたままそう言って玄関を開けた。

「お邪魔します」

 リョータが靴を脱いでいる。リビングに入るとリョータも後を付いて這入ってきた。

「あ、これ。先に渡しとく」

 リョータの声に振り向いた。顔はやっぱり見れない。リョータが差し出したのはスーちゃんのブーケ。アタシに似合うように作ってくれたブーケだ。

 両手で受け取って顔を埋める。水に浸けてくれていたのか持ち手が濡れていた。急いで花瓶を持ってくる。持ち手を剥がして花を水に浸した。せっかくのブーケやのに……

 ホンマにアタシは何をしてんねん。情けない。

 

 背後に気配を感じた。リョータが後ろに立ってる。  

 どうしよう…

 肩を掴まれた。そのままリョータの方に身体を反転させられる。俯いた顔をリョータが両手で上に持ち上げた。思わず目をつぶる。アカン顔見られへんっ。

 唇に柔らかいものが触れた。

 思わず目を開けるともの凄く近くにリョータの顔。

「これでおあいこな」

 リョータはそう言った。

 何も言えない。声が出ない。

「ほんでこれは俺がしたいからするやつ」

 リョータはそう言うともう一度、今度はもっと強く唇を押しつけた。何が起こっているのかわからない。リョータの口づけがもっと深くなった。リョータの舌が……アカンっ!!

 

 アタシはリョータを突き飛ばした。

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