第25話 旧態依然 【side 梅】

 大山造園に押しかけ入社してからあっという間に5年が経った。

 

 見習いになってから半年が過ぎた頃『造園技能士』という資格があることを知った。

 すでに2級の資格を持っていた勇さんが、受験資格が実務経験7年以上必要な1級を取得しようとしていたことから、アタシも3級を受験しようと決めた。2級は実務経験2年以上が必要だったので3年前に取得した。1級にはあと2年必要だが、今から少しずつ準備しようと思っていたところに親方が、

「樹木医いう資格もあるど」

と教えてくれた。

 

 樹木医は木のお医者さんだ。痛んだり病気になった樹木の樹勢回復、予防に務めたり、後継樹繁殖などに尽力する。例えば伐採しなければならないお庭の木の子孫を何とか残してやりたいという施主さんの要望や、樹勢が弱くなって木が枯れてしまう前に後継樹を残して置きたいという場合なんかにも携われる専門家の資格。


「お前はそういうのんが向いとるんとちゃうか」

 親方はそう言って樹木医資格取得に役立つ通信教育のパンフレットをくれた。

「7年以上の実務経験がいるみたいやけどな(※令和5年からは実務経験5年以上に変更)」

 樹木医になるには、まず研修受講者選抜試験に合格して研修受講者にならなければいけない。そして樹木医研修を受講し、面接・資格審査に合格することが出来れば、樹木医として日本緑化センターに登録される。

「まあ、あと2年足らんけど今から勉強しといて損はないやろ」

 親方の言葉に力一杯頷いた。

 それから親方は顧客さんから預かった根腐れした盆栽の手入れや、病気になった庭の木の原因や対処の仕方、剪定の仕方などを意識的にたくさん見せてくれた。

 前に勇さんから聞いた、松の伐採の話しを思い出していた。親方が何十年も手を掛けて大切にしてきた松。せめてその松の後継樹を残すことが出来ていれば……その知識が欲しいと思った。

 

 この5年間は仕事仕事の毎日だった。なれない力仕事で家に帰ればバタンキュウ、目が覚めたらまた仕事。覚えることも学ぶことも山盛りだ。それは今も変わらない。でもコツを掴んだのか、身体はずいぶん楽になった。家に帰るなり死んだように眠る、なんてことはなくなった。

 働き出して3年ほどすると、やっと友達に会ったり、休みの日に買い物に行ったり出来るようになった。

 

 リュータは大学2年の時点で、もともといた仏教学部から心理学部に転部したらしい。リョータも何か資格を取るための勉強が忙しいようで、大学を卒業するまでほとんど会わなかったが、リョータが大学を卒業した去年からはちょこちょこ会うようになった。

 

 スーちゃんは今年のクリスマスイヴに野口と結婚する。卒業したら結婚しようとずいぶん前にプロポーズされていたらしい。

 スーちゃんは専門学校を卒業した後生花店で働いている。いつか自分の店を持ちたいと言っていた。野口と二人で何か計画しているようだ。

 

 みんなそれぞれの道を歩んでいる。 ずっと愛だの恋だの言っている場合ではなかった。リョータへの気持ちを考える暇もなかったのだ、去年までは…。

 再びリョータと会うようになると、リョータへの思いは再びその顔を頻繁に出し始めた。やらなければいけない事が目白押しなのに……

 そう思いながらも今日もこうして誘われればホイホイ出て来てしまう。リョータに関しては、アタシは全く進歩していない。

 ずっと同じ所をぐるぐる回っている、そんな気がした。

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