第22話 門を叩く 【side 梅】
「弟子て。嬢ちゃん…本気で言うてんのか?」
おじいさんはびっくりした顔のまま聞いた。
「はいっ!お願いします」
もう一度頭を下げる。
「いや、こらどうも、困ったのう」
おじいさんは若いお兄さんを見て頭を掻いた。
「若い子やったらもっとハイカラなんあるやろ、フラワーなんやらゆうやつ」
「フラワーアレンジメントっすか?」
お兄さんが答える。
「せや。何や知らんけど、そんなやつの方がエエんとちゃうか」
おじいさんがお兄さんと顔を見合わせて、なぁ、と二人でうなづき合う。
「アカンかったんです。そういう学校の体験入学にも行ってみたけど……花束作っても要らん花とか葉っぱ千切るんが出来ひんくて……」
「何でや?」
おじいさんが聞く。
「……キレイに仕上げる為には必要やってわかってるけど、でも出来なくて……」
「植木やったら千切れるんか?」
おじいさんが呆れた様にこっちを見ている。
「植木かておんなしやど。自然のまんま生えてる木やったらそのまま伸ばしとく芽も枝も切ってまう。見栄えようする為だけにや。そのフラワーなんやらと何が違う?」
どう言おうかと考えた。そう同じだけど、でも。
「木は死なへんから。芽を摘んでも枝を切ってもそのままそこに生えてくれてる。
わかってるんです。花かってもう切って花束用に持ってこられてるんやから、ちょっとでもキレイにして皆んなを喜ばすしか無いって。でもやっぱり出来ひん。
この木かってどっかから持ってこられて植えられたんでしょ?そしたらやっぱり自然のまんまじゃ無くキレイにしたらんと来た意味が無い。此処にある限り手入れしたらなアカンと思う。それが勝手に持って来た者の責任やから。この木はずっと此処にいてくれる。アタシが芽を摘んでも枝を切っても、それでもいててくれるから……だから……」
何を言ってるのかわからなくなってきた。説明出来ない。でもこの仕事をやってみたい。
「もうエエ。わかった。いや、ようわからんけどもや…そこまで言うんやったらやってみたらエエ」
おじいさんの言葉に飛び付くようにそばまで駆け寄る。
「ホンマですかっ!」
「おおっ、何や」
おじいさんはちょっと後退りした。
「その代わり見習いの見習いっちゅうとこやど。ど素人相手に仕事教えるらこっちが金払ろて欲しいぐらいや」
「ナンボ払ったら良いですかっ!」
「冗談やがな、声大きいなぁ。最初は雑用ばっかりやど。体力いるし虫もようけ出るど。きゃあきゃあ言うとったら仕事にならん、嬢ちゃん大丈夫かいな」
「大丈夫になりますっ!」
はぁ、とおじいさんはため息を付いた。
「お父ちゃんお母ちゃんにちゃんと言うてからやど。勝手に働かして後からカチ込まれたらかなわんよって。エエな」
「はいっ!!」
「せやから声大きい言うとるやないか」
満面の笑みでおじいさんの両手を握りしめた。
おじいさんはもう一度深ぁぁいため息を付いた。
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