第18話 夏祭り 宵篝
今年も恒例の肝試し大会をする事になった。もう受験生なのにみんな大丈夫なのかと思ったが、野口もスーちゃんもこれが無ければ夏じゃないと言い切った。
肝試し大会といっても要は夏祭りだ。
例のごとく水風船釣りや屋台、そしてかき氷。紙芝居の代わりに本堂で「耳なし芳一」や「船幽霊」などのちょっとこわい絵本を読んで涼を取り、夕方には線香花火などの可愛らしい花火大会を開催する。
肝試し大会はお祭りの後、墓地の見回りに行くことだ。お盆の時期なのでお墓にはお供物が多い。それを狙ってイタチや狸が荒らしに来るのだ。
ホームレスのおじさんがお供えのカップ酒を飲んでいた事もあった。スーちゃんの叫び声に驚いたおじさんに、正体がわかって恐怖がおさまったスーちゃんは、
「暑いところに置きっぱなしやったのに、お腹壊したらどーするんですかっ!!」
とおじさんを本気で心配して叱った。スーちゃんらしいエピソードだ。
今年の夏祭りには梅も参戦した。
綿菓子のリベンジとばかりにかき氷にチャレンジしたが、相変わらず氷の量がマチマチでまたまたブーイングの嵐だった。でも子供達とわーわー言い合いながらも梅はずっと笑顔だった。
境内には、野口と梅と三人で分けた種が咲かせたひまわりの子孫たちが、今年も太陽に向かって笑っていた。
お祭りの後片付けも終わり、いよいよ肝試し大会の時間になった。今年は四人いるので、野口とスーちゃん、俺と梅でペアを組んで手分けして墓場の見回りに行く事にした。
梅は懐中電灯を持ってどんどん先に歩いて行く。怖がってないから!と言わんばかりで何だか可愛い。
向こうの野口チームから「うわぁぁああ」と言うスーちゃんの悲鳴と言うのか雄叫びが聞こえている。
急に梅が立ち止まった。
「どーしたん?」
と後ろから声を掛けると、
「何か…動いたような……」
と言った途端足元を何かが通り過ぎる。
梅は「ひゃっ!」と懐中電灯を落として俺にしがみついた。柔らかくて甘い感触。
思わず抱きしめると壊れそうなほど繊細で……梅のシャンプーの香りがする。どちらの心臓の音なのかわからないほど胸が高鳴っていた。
一瞬の事だったのに一晩中思い出すほど強烈な瞬間だった。
梅は慌てた様に身体を離すと「ゴメン…」と囁いた。
「……多分イタチやと思う。細長かったから……」
どうでも良いことを口にしながら顔が火照っているのがわかって、暗闇に感謝した。
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