第17話 喧嘩するほど

 春休み。

 梅は3月末に開催した桜祭りを手伝いに来た。

 桜祭りと言ってもウチの境内に桜は咲いていない。ただ子供達が喜ぶ催し物として毎年やっているだけだ。

 今年はたこ焼きの屋台と水風船釣り、綿菓子と紙芝居。

 たこ焼きはスーちゃんが、水風船釣りは野口が、今まで散々色んなイベントを手伝ってきたスキルを発揮して、テキパキとこなしていたため、それならと梅は綿菓子に挑戦した。

 結果は歪なサイズ違いの綿菓子に子供達から大ブーイングを浴びてむくれることになった。それでもせっせと作り続けだいぶ形がキレイになって来た頃にお祭りは終了した。

「せっかくコツ掴んで来たのに……」

 悔しそうに梅が呟く。顔にも頭にも綿菓子が付いている。それを取ろうと手を伸ばしかけて止めた。

 また手を振り払われるかも…いや、それは良いが梅を恥ずかしがらせてしまうだろうと思った。

「頭も顔も綿菓子だらけやし、手もベタベタやん、洗ってきぃや」

 そう言うと、

「エラそうに……」

 梅は俺を睨みつけながら母屋の方へ走って行った。その後ろ姿をぼんやり眺めていると、

「顔に付いたやつとか、そっと取ったったらエエやん。一日中必死で割箸ぐるぐる回し続けてたのに」

 スーちゃんが非難する。

「疲れたやろ、ありがとうな。とか言うたれやー」

 野口も俺を責めてくる。

「何で俺がそんな気ぃ遣わなアカンねん、梅ごときに……」

 俺も膨れっ面になる。そんな事言うたら梅がテレてまた悪態付かれるだけやし。

「リョータごときにそんな上から感謝されたないわ。何やねん、あの紙芝居。ド下手くそ」

 帰って来た梅がやっぱり悪態を付いた。

 何言うてもどうせ悪態付くんやもんなー 梅やから。そう、結局梅は梅やねん。

「また…何笑ってんねん。気持ち悪いなっ!」

 梅が俺を小突いた。

「はい、また暴力ー」

「ちょっと撫ぜただけやん」

 あー 楽しい。梅がいる。またここに梅がいてくれる。

「だーかーらー ニヤニヤすんな!」

 梅は俺の背中を思い切りどついた。痛いはずなのに俺はニヤニヤ笑いが止まらなかった。

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