第16話 梅日和 【side 梅】

「ごめんって。急に聞かれてとっさに言うてもうてん」

 スーちゃんが頭をかく。

「だからって…おできは…」

 うぅぅぅ…しかも鼻の下って…

「いや~ 自分が好きな人から逃げ出すとしたら何かなって考えたらそれしか思いつかへんかってん。ごめんな」

 スーちゃんが申し訳なさそうにうなだれる。

「……ううん。こっちこそごめん、そんな言い訳まで考えさせて……でも良かったんかも知れん。おできのおかげでリョータにいらんこと言わんで済んだもん。

そうや、良かった。ありがとうスーちゃん」

 そう、スーちゃんがとっさにそう言い訳してくれたおかげでリョータとまた話せた。リョータにまた会えた。これからも会える。

「ホンマありがとうな、スーちゃん」

 改めてスーちゃんの顔をちゃんと見てお礼を言った。

「いや、上手いこと言えんでごめんやで。でも良かったわ、これからはみんなで遊ぼう」

 スーちゃんがにっこり笑う。太陽みたいな、ひまわりみたいな明るくて大きな笑顔。

「うん」

 アタシも同じようににっこりした。


 リョータに会えないのに比べたら気持ちを隠すのなんか全然余裕や。また一緒に色んなことをしよう。一緒に笑って、一緒に泣いて、時々喧嘩して。またあの頃みたいに、友達になろう。

 春休みになったらまたお寺のお祭りがある。今度こそ、焼きそばだろうが、たこ焼きだろうが、焼いて焼いて焼きまくってお手伝いしよう。


「楽しみやな」スーちゃんが笑う。

「楽しみやな」アタシも笑った。



 もうすぐ春がやってくる。こんなに春のおとずれにわくわくしたのは、高校生になってから初めてのことだった。

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