第15話 出物腫れ物
次の日が日曜日だったため、月曜日の朝教室でスーちゃんの顔を見るなり尋ねた。
「梅何て言うてた?!」
スーちゃんは えっ? と驚いた様に目を見開いた後、ちょっと考えてから言った。
「……鼻…鼻の下にニキビが出来て……」
「は?」
「鼻の下におできが出来て恥ずかしかってんてっ!」
スーちゃんは怒った様にそう言うと、ちょっと用事あるから…と逃げる様に何処かへ行ってしまった。
おでき?鼻の下?何じゃそれ。
何だか猛烈に腹が立った。できもん出来たぐらいなんやねん。それだけでせっかく久しぶりに会える機会をあんな勢いで逃げたのか…
別に鼻の下におできがあろうとイボがあろうと関係ないのに…
腹立ちが治ってくると冷静に考えてみた。
梅はやっぱり女の子なんだと。
ニキビかおできか知らんけど、そんなもんが出来たぐらいで恥ずかしがる様になったってことか。
小学生だった頃の梅根性丸出しの梅とはもう違うのだなと、淋しい様なくすぐったい様な変な気分だった。
スーちゃんはその日はなんとなく俺を避ける様に、授業が終わると部活へ飛んで行った。
家に帰る道でも梅の事を考えていた。おできが出来ても寺まで来ていたのなら、マスクとかしてでも話ぐらいしてくれれば良いのに……
グダグダと恨みがましく考えていると家に着いた。
寺の正面ではなく裏口から入ろうと曲がりかけた時、寺の入り口でウロウロしている制服姿の梅が見えた。慌てて駆け寄る。
「梅っ!」
思わず叫んだ。
梅はビクッとしてそのまま固まった。また走って行ってしまうのではないかと不安で、思わず腕を掴んだ。梅が顔を背ける。
「あ、ごめん」
掴んだ腕を離すと、梅が離した腕を反対の手でさすった。
何と言えば良いのかわからず俺も梅から目を逸らした。お互い相手を見ずに黙り込む。
「…おでき……治ったん?」
ようやく声が出た。
「おでき?」
梅が不思議そうな顔をする。
「鼻の下におできが出来てたから昨日帰ったんやろ?スーちゃんが言うてたけど」
梅が顔をしかめた。
「違うん?」
「…違わへん…」
梅はふてくされた様に答えた。
「今日はどうしたん?」
「…こないだ覗き見みたいな事したから…だから…ゴメン」
梅は頭を下げた。
「そんなん別に……気にせんで良いのに」
梅はまたムスっとして横を向いた。
いつもの梅の不機嫌そうな顔。テレたときも嬉しい時もすぐムッとしたフリをする。いつもの梅。
「…何笑ってんの」
梅が俺を睨む。
「いや、ゴメン…変わらんなーと思って。梅やなーって」
「どーゆー意味や」
梅は更にふてくされた。ほっぺたが赤かった。
「スーちゃんと従姉妹なんやろ?」
「……うん。」
「じゃあスーちゃんと野口と俺でいっつも一緒に遊んでんの知ってるんやろ?」
梅は横を向いたまま答えない。
「たまには会おうや。野口も会いたがってると思うし。四人で遊ぼう」
梅は下を向いて爪先で地面を蹴っていたが、
「わかった。今度スーちゃんと一緒に遊びに来る」
と答えるとコチラを見ないまま、
「じゃあ」
と背中を向けて走り出した。
「絶対やぞー 絶対来いよー!」
梅の背中に大声で呼びかけた。梅は振り向かずに片手を上げてバイバイしながら去って行った。
もう一度梅と友達に戻りたい。会えないのはもう嫌だ。顔を見たらそう思った。
梅を裏切ったりしない。大丈夫。
梅に会えない事に比べれば何でもない。
久しぶりに胸が熱くなった。心の底から笑顔になれた。大丈夫。俺と梅はずっと友達だ。
梅の姿が見えなくなるまで、そのまま背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます