第12話 梅想い 【side 梅】

「ほんでどうすんの?このまま何もせえへんの?」

スーちゃんが真剣な顔でこっちを見た。

「だって……」どうしたらエエの?

「いつまで内緒にしとくんよ、私が梅ちゃんの従姉妹やって」

 正直者のスーちゃんにアタシと従姉妹やってことをナイショにしてと頼んだことは後悔してる。さぞやストレスになってるだろう。


 岩下李(スーちゃん)はアタシの同い年の従姉妹だ。ウチの母親は三人姉妹の次女。スーちゃんのお母さんは三女だ。スーちゃんは杏ちゃんというお姉ちゃんがいる。

 ウチの家系は女性が多くて、母親の姉の子供もウチと同じ三人姉妹。スーちゃんも入れて従姉妹は全員女の子で五人。我が家の三人姉妹を入れると女が八人。男は弟の信だけだ。


 スーちゃんがリョータ(龍太)と同じ高校に行くとわかって神様に感謝した。本当は同じ高校に行きたかったけど、引っ越しして学区が変わったので学力的に無理だった。結局一番近い今の高校を受験した。


 スーちゃんは野口とも仲が良かった。中学の時それを聞いてびっくりした。野口が中学でも学校でひまわりを咲かせていることも。

 野口に会いたいと思ったがやめておいた。

スーちゃんが野口のことを好きみたいだから。

 野口にアタシと従姉妹だと言うのもナイショにしてもらった。仲が悪かったからだと嘘をついて。いや、嘘じゃない。マジで最悪に仲悪かったし…一時は。

 野口がアタシになんとなく好意を持ってくれてるのは、うぬぼれてる訳じゃなく知ってた。でも今はスーちゃんと仲良くなってるし邪魔したくなかった。

 それにアタシが好きなのはリョータだから。


 スーちゃんが高校でリョータ、野口と一緒に遊ぶようになって、二人のことを色々話してくれるのがうれしかったし、うらやましかった。スーちゃんはいつも一緒に遊ぼうと誘ってくれた。肝試し大会あるでとか、お寺のバザー手伝いに行こうとか……

 でもいつも断った。

 だってバレてしまう。リョータが好きやって…

いや、もうバレてるのかも知れん。中学の頃からリョータはだんだんよそよそしくなった。アタシがどんどんリョータを好きになるのに比例するみたいに。困ってたんかも知れん、気持ちに応えられへんから……


「ずっと会われへんのと、片思いしてんのがバレんのとどっちが辛いん?」

スーちゃんが詰め寄る。

「……会われへん方が辛い…」

「な、そらそうやん。だからそろそろ動かんとー」

スーちゃんはポテチの袋を勢い良く開ける。中身が飛び散った。

「いつまでも逃げてたらアカンで」

テーブルに散乱したポテチをつまみながらスーちゃんがアタシに説教する。

「わかってる…」言われんでもわかってるよ、そんなこと。


[わかってんのになんで同じ事繰り返すん?]

 昔リョータに言われた台詞がよみがえる。

 ああ、アタシは全然成長してない。


「いつまで内緒に出来るかわからんで、私。うっかりしてるからさぁ」

 スーちゃんはポテチで汚れたテーブルの上を自分の袖で拭きながらそう言った後、お茶の入った湯飲みを倒して「うわぁああ」と女の子らしくない悲鳴を上げた。


 リョータに会いたいなぁ…大騒ぎしているスーちゃんをぼんやり見つめながらそう思った。

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