第2話 匙加減
「石田さーん 見ないでくださーい」
野口の声がする。
「見てません」
石田梅がイラっとした声で答えている。小テスト中だ。
「静かにせえ」
先生が注意する。
「石田さんが見てきますぅ~」
野口が言う。
「見てへんわッ!アンタみたいなアホの答え見ても間違うだけや!」
「アホって言う方がアホなんですー」
「アホにアホ言わんで誰にアホいうねんアホ」
「あー 三回言うたー」
「四回じゃ アホ」
「五回になったー」
「静かにせえっ!!!」
ついに先生が本気で怒った。
二人は慌ててテスト用紙に集中するふりをする。
「アンタのせいやからな」
小声で石田梅が言いながら野口の足を蹴った。野口が蹴り返す。石田梅が更に強く蹴る。野口が「あーっ」とわざとらしく言いながらコケるふりで石田梅の足を蹴る。
石田梅が立ち上がり野口の胸ぐらをつかんだ。
「おまえらああぁー!!ええかげんにせえ いうとるやろがああああぁー!!!」
二人は廊下に立たされた。
次の算数の時間も二人は同じようなことで、計算ドリルと漢字ドリルでたたき合いを始め、先生にゲンコツで頭をどつかれた。
「もうええ。高木、野口と席替わったってくれるか」
先生は疲れたように俺に声を掛けた。はいと答えて教科書を机から出し、ランドセルを持って野口の席に向かう。野口は俺を睨み石田梅はホッとしたように俺を見た。
「良かったー。次の席替えまでアホの野口の隣におらなアカンと思ったら、もう登校拒否するしかないって覚悟決めててん」
石田梅がうれしそうに言う。
「ありえへんわ。マジで席替えの時呪われてんのかと思ったもん」
石田梅は知らない。野口が席替えの時、本当は石田梅の隣だったやつに無理矢理席を替わってもらったのを。考えればわかりそうなもんやけど。なんであんなに野口が石田梅に絡んでいくのか、理由なんかわかりきっているのに。
「野口が隣じゃないと寂しくない?」
俺が聞くと、信じられないという顔で俺を見ながら
「寂しそうに見える?!」
と反対に聞いてきた。
「いや…けんかするほど仲が良いとか言うやん」
「ありえへんっ!!!」
きっぱりすぎるほどきっぱりと石田梅は言いきった。
「でもあんなに絡んでくんのって石田さんのこと気になってるからちゃうん?」
なんとなく野口の気持ちがわかるような気がして言ってみる。
「気になってるって、そら気になってるんやろな、ムカつくから。アタシも顔見ただけでムカつくし」
「…好きやからちょっかいかけてしまうんかもよ」
ついつい余計なこととは思いながら言ってしまう。
「ぞっとするけど、もしもアホの野口がアタシのこと好きやからいっつも絡んでくるんやとしたら」
石田梅はそこで言葉を止めた。
「やとしたら?」と聞くと、
「殺す」石田梅は拳を握りしめた。
野口がこちらを伺っている。残念ながら野口はやり過ぎた、正真正銘嫌われているようだ。自業自得とは言えちょっと可哀想な気がした。
石田梅は鼻歌を歌いながら次の授業の準備を始めていた。
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