第6話

「そういえば、そろそろトンネルだらけのところか……」

 そんなことを思いながら、助手席にあるカバンへと手を突っ込み、タバコの箱を引っ張り出す。再びタバコを一本口にくわえて、火をつける。

 肺の中に煙をいれるようにゆっくりと吸い込んでから、口からもれるようにして煙を吐き出す。煙がチラチラとみえるが、気にせずトンネルへと進入していく。

 トンネルの中は遠くから見えた通り、天井にはオレンジのライトが等間隔に並んでいた。片道二車線が続いていて、対向車は別のトンネルを走るように設計されていた。ライトと二車線以外にトンネル内にはとんでもない大きさの扇風機がつけられていた。飛行機のエンジンと同じくらいの大きさではないかと思えるようなものだった。

「一発目から長いトンネルか……」

 これから代り映えしないものを見続けることに、憂鬱なものを感じながらもハンドルを握る手をゆるめることはしなかった。少しだけ下り坂のようになっていたトンネル内。中は二車線のため、速度が速いトラックが追い抜いていく。トンネル内は法定速度が下がるはずなのだが、そんなことなどお構いないといった感じだ。

 最後にトラックに追い抜かれて以降、近くを車が走ることはなく、前方の車に追いつくこともなく、一台だけの車がトンネル内を走っているような状態になっていた。

 灰を少し落として、タバコを吸う。

 変化の乏しいトンネル内。等間隔に並んだライトが思考を少しずつ鈍化させていく。ぼんやりとした世界が続き、時折、先の方が右や左にわずかにまがり、それに合わせてハンドルを傾ける。アクセルを踏む感覚は同じなのに、速度が落ちている時があり、その時は上り坂になっているようだったが、見えているものが変わらないので、感覚としては同じままだった。

「ふぁぁぁぁっ……」

 単調さにあくびがでてくる。目じりに涙が浮かんでくるが、くわえていたタバコを左手で持ち、右手で両目をこすり涙をぬぐう。

 ほんの一瞬、視界がなくなる。それでも車の前後には何もない。トンネルも直進だったので、問題はない。

 視界が戻った。手で隠れていた光が、両目に飛び込んでくる。

 赤い光が。

「なっ、なんだ?」

 目をこすった一瞬で何が起こったのか。慌ててブレーキを踏もうとアクセルから足をあげようとするが、次の瞬間にはオレンジ色のライトが並ぶトンネルの中が続いているだけだった。周りには相変わらず車はなく、一台だけで車を走らせている。

「み、見間違いか?」

 そう言いながら、自分自身を落ち着かせる。見えているのはオレンジだけで、赤なんてどこにもない。きっと強く目をこすりすぎたんだろう。そう思うことにして車を走らせる。だが、そう思えば思うほど、なぜか頭の中に赤い光がついているような感じがしていた。

 いったい何なのか。やっぱり疲れているのか。コーヒーとタバコだけで眠気をとばそうとしたから、頭が警告しているのかもしれない。休めといっているのかもしれない。

 そんなことを考えていると、トンネルの前方に黒いものが見えてきた。どうやらトンネルの出口のようで、小さくチラチラと光のようなものが見える。いつのまにかトンネルの中は登りになっていたようで、みえているものは空だった。

 車のスピードが少しだけ上がる。どうやら登りから平坦になったようだ。下りだと空は見えないはず。

 そのまま、車はトンネルから脱出した。トンネルの外は相変わらず、真っ暗で道の両側には木が並んでいた。しかし、外の様子を長々と見ることはできないようで、すぐに次のトンネルが見えている。トンネルの脇には相変わらず、トンネル連続と書かれた看板とその下に次のパーキングエリアまでが五キロと書かれていた。トンネルを出たあたりにパーキングエリアがあるのかもしれない。

 道路は二車線のまま、車はトンネルへと入っていく。

 今度のトンネルは妙に明るかった。オレンジではなく、白っぽいライトが並んでいる。さっきまでのトンネルと色が違うので、目が慣れてこない。何度かまばたきをしながら、運転を続ける。

 白っぽいライトにようやく目が慣れてきた時だった。後ろから強いライトがあてられている感じがした。ルームミラーに目をやると、後方は光で真っ白になっていて確認ができなかった。

 仕方なく、運転席側のサイドミラーを見た。

「っ!」

 そこにはあり得ないものがあった。

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