第2話

 若い頃から吸っていたタバコ。その吸いだしたきっかけは、母親だった。母親は常にタバコをくわえているほどのヘビースモーカーで、ご飯を作ろうが、掃除をしようがとにかくタバコをくわえていた。さっきまで火がついていなかったと思ったタバコ。ほんの少し目を離した間に、蛍のような灯りがともされていたということは幾度となくあった。

 はじめは好奇心から。

 母のタバコを一本だけ拝借し、口にくわえてライターで火をつけた。その時はタバコに火がつかなかった。火をつける時に空気を吸い込むということを知らなかったからだ。その時、タバコを持って振ったりなんだリしてからもう一度つけた。

 すると今度は火がついた。口の中に煙が入ってきて思わずせき込んだ。きっと火がつかなかったことに訳がわからなくなって、吸ったり吐いたりしていたからかなと思う。結果的に吸うことができたタバコはただむせるだけのものだった。

 タバコの煙をみながら物思いにふけりつつ、運転を続けていると、突然、車内の音楽が止まる。設置されていたカーナビの画面が切り替わり、着信、社長と表示される。

「くっそ、こんな時に……」

 タイミングが悪い。取らないわけにもいかないが、夜の高速。どこに警察がいるかわかったものじゃない。何か操作するような素振りを見せて、意味なくつかまるのも面白くない。

 結局、着信にはでることはせず、そのまま社長が切るまで待つことにした。

 数回のコールで着信が切れる。同時に音楽が流れ始める。

 着信に出ないといけない焦りはなくなったものの、代わりに早めに折り返さないといけない焦りがわき上がってくる。

「確か、次のパーキングまで三キロって書いてあったな。だったら……」

 それほど時間がかからないだろうと考え、燃え尽きたタバコの灰を落とし、再び口にくわえる。吸い込むと煙が肺に流れ込んでくるのがわかる。と、同時に頭が徐々にスッキリとした感覚になっていき、先ほどよりもさらにしっかりと眠気が消えていく。

 再び、青い看板が現れ、パーキングまで残り五百メートルとでてくる。ぼんやりと夜の道の中に道路の分離を示す、白いポールが見えてくる。その先端は車のライトを反射して光っていた。

 アクセルを踏む足を少しだけ浮かす。ゆっくりと車が速度を落としていく。車のエンジンがタイヤの回転数を増やさなくなったためでもあるが、急激な減速ではなくあくまで緩やかな減速。時速八十キロもでていたので、すぐに止まることなどできない。

 白いポールを超えたあたりで、ブレーキに足をかける。標識には四十キロの文字があり、そこまで車のスピードを下げ、曲がりくねった道順に従い、進んでいく。視界の中にぼんやりと光を放つ建物とその横にこれまた四角く光っている自販機が見えた。

 パーキングエリアの中に、車は一台も見えなかった。日付が変わってしばらくしている。止まるならサービスエリアだろう。そんなことを考えながら、白線に囲まれた場所の一つに車をゆっくりと進ませて、駐車する。大分短くなったタバコを灰皿の中にねじ込み、バッグの中に手を突っ込む。手の感触ですぐに目当てのものがみつかり、それをバッグから取り出す。

 スマホ。

 のぞき込むと真っ黒だった画面がすぐに光りだす。そのまま、画面にふれるロックを外す。電話の受話器を示すアイコンの横に小さな印がついていた。社長から電話があったことを示すもの。

 何度か画面をタップして、社長に電話をかけなおす。何度目かのコール音が続き、それが止まる。

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