T.Y Ep.2 堕ちる

月羽は悲鳴が埋める研究所を、血を踏みつけるようにして歩いていた。

「う、ぁあああ!!」

 目の前にいた白衣の男は腰を抜かして床に崩れる。

 月羽の刺すような瞳が彼に向いた。

「ここに、人造天使の情報は?」

「んなもん、とっくに燃やした‼︎」

 男は恐怖に震えた喉で叫ぶ。

「そうか」

 言って彼女が踏み込むと同時、男の体はばきばきと音を立て捻られたようにその場ではち切れた。

 舞う血は彼女にあたることなく、数センチ手前で空間に静止すると床に落ちる。

 正確には、彼女の肌の数センチ手前で粒子の動きが停止したのだ。故に彼女に物理的攻撃は効果を示さない。

 月羽は疲れきったような目で転がった死体を眺めると、それを踏みつけて進んでいく。

 数日前の一件から、彼女の性格は変わってしまった。

 目的のためにならどこまでも非情で 破滅的な選択肢を取れたし、それに対して痛みも感じなかった。

 しかし体はついてこなかった。今まで避けてきた類のものを平気でこなす彼女の体は、自身でも気が付かない精神の病みから体力を失いつつあったのだ。

 血溜まりを作った血液を踏んで進み行く彼女の足取りは、若干左右にふらつく。

 踏んだ血液がびちゃびちゃと音を立てた。

 月羽は壁に体を預ける。

「クソ……!」

 思うように動かない体に、吐き捨てる。

 そして考えた。

 何個の施設を潰せば、ヤツに辿り着くのだ、と。

 このおよそ3日程度で、研究所に実験施設を含めて10以上は潰したはずだ。それも人造天使の実験に関わった証拠の上がっている施設のみ。

 だというのに、一向に情報がつかめない。つかめたのは、人造天使の作り方程度であり、ヤツの行き先はわからない。

 人造天使が、人間に天使を宿し安定させたものというのには驚いたが、まぁ、驚いた以外に何もない。

「次だ……」

 彼女は虚げに呟く。

 そう、決して彼女の瞳から炎は消えていなかった。それどころか、轟と音を立て燃え続けている。

 これに消して終わりはない。

 月羽は壁に右手を添えると、吹き飛ばした壁から外に出て、安定のない足取りで帰路に立つ。



 1人の女がビルの上から、研究施設を眺めていた。

 深い青色の髪を腰まで伸ばし、こめかみのあたりから肩までの三つ編みを垂らした彼女は口を開く。

「凄まじいわね」

「行く?」

 踵まで伸ばした黒上の少女が凛とした目つきで言う。

「待って。それより奏多、情報は?」

 彼女は理路整然とした口調でそういい、肩までの白髪の少女をみた。

 少女はノート型パソコンを睨みつつ、ため息をついて首を振る。

「データのデリートどころか、ハードディスクも多分粉々だね。デリートされてるくらいなら治しようがあるし、データ管理は緊急事態でゆるくなってるけど、残念ながら奪えないかな」

「なら、あの子の情報は?」

 「それなら」と奏多。

「ここ数日で13の研究施設を破壊したのは、彼女で間違いなさそう。防犯カメラ見てみれば、データとほとんど同じ動きしてるよ。どうする? ソワレ」

 聞き、ソワレと呼ばれた青髪の女は余裕のある笑みを浮かべた。

「決めたわ。ルナ、あの子の足止めをお願い」

「ん」

 ルナ、黒髪の彼女は頷き、ビルの端からそのみを落とす。

 それを見てから、ソワレは言った。

「私たちも行きましょう。奏多」

「そうだね」

 2人も階段へ足を進め始める、

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