第8話 能力

説明多くてややこしくてすんません

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 ー戦乙女第六支部ー

「緊急通報。第6地区内ショッピングモールにて巡回中の警備員が爆発物を所持しているであろう男の目撃したとの情報あり!単独犯とのこと。現在二回の爆発が確認された。至急応援をとのこと!」


「了解、応援を二人送るわ。単独犯って言ってたけれど、その爆発はもしかしたら自分で生成してるかもしれないわ。居合わせた人を上手く避難させるように警備員と力を合わせて誘導して頂戴。三分もあればそっちには着くはずよ。それまで持ちこたえて」


「了解!通信は繋いだまま維持して避難誘導行います」




 爆発物。。。と、頬杖をつく者が一人。第六支部長の日生天利ひなせあまりである。

 この支部を任されたのはつい2年前ほどで、まだ35歳という若さではあるものの、高い指揮力と国内でも稀に見る能力付与、すなわちバフを多人数にかけることができる人材であるため、まさに成るべくして成った実力と才能を兼ね備えた瀟洒な淑女である。


「ここ二週間で三件もの爆発事案、そのうち前の二回はどちらも爆発系の能力者が引き起こした事件。そして今日四件目。。。流石に繋がりを疑わないような馬鹿はいない」


 おまけに二件目の犯人に事情聴取を取ると、あの方が与えてくれた祝福だ。などと組織性を疑わざる終えない発言をする始末。間違いない。何かが裏で動いている。


「ひとまず、この一件を解決しないとね」


 私は送った戦乙女二人の身を案じながら、これまでの事件の資料をもう一度見返していった。







ーショッピングモール:ステージ付近ー


「あ、アルバイト?ねぇ魅音さんもうちょっとさ、冷静に、ね?冷静に」


「あんたねぇ。。。あと、あんまり名前で呼ばないで。私のことはなあとかおいとか何でも呼んで」


「えーなんか女性の方をなぁとかおいとかで呼ぶってそれもう冷め冷めじゃない?」


「確かにいい気はしないかも。。。」


「おいクソ女ども!なに二人でべちゃくちゃべちゃくちゃ喋ってんだよ!いいか、そこから動くな。そして全員笑顔を見せるな!お前らの人生なんて暗くなって妥当なんだよ。明るく楽しく人生謳歌しようとしてんじゃねぇ!俺の周りで毎日毎日固まって笑って楽しんでのうのうと生きやがってよォ!!!!!!!」


 魅音は男の怒号にも動じない。とても冷静だ。


「一応慣れてないあんたに説明だけど、能力者っていうものの存在は知ってる?」


 あの男を警戒してか、気づかれないように口元を隠して小声で、目線も合わせずに言葉だけを送ってくる。


「いや、どういう世界かっていう大雑把な内容は葵のノートに載っていたけど、そういう細かなことは全く書いてなかった」


 それを伝えると、魅音は「それこそ伝えるべき大きなことでしょう」と半ばあきれながらも概要を説明してくれた。


「いい?能力者っていうのは文字通り能力を使う。そしてその能力は、10歳までの己の中の大きな出来事、もしくは自分が心の底から願った夢がモデルになってるの」


「大きな出来事って。。。初めて成し遂げたこととか?」


「大体そんな感じ。まあ本当は悲劇とかの記憶の方が発現しやすいんだけどね。それか、自分が今まで受けてきた待遇、育ってきた環境とかが、大きく関係するの」


「じゃあ僕なら、初めてカードゲームで父に勝ったこととかかな?」


「夢想世界の人はやりたいことは大体できるわよ。まあそれは置いといて、能力の発現っていうのは、ぱっといきなり体にパワーが湧いてくるものなんかじゃないの」


「へえ。。。神の祝福とかじゃなくて?」


「私たちの身体、そして夢想世界からこっちにやってきた人の身体には、一つ潜性の遺伝子が存在するの。つまり能力の種。これが人々に能力たらしめる力を与えるんだけど、この『能力』の本質は、潜性の遺伝子であるということ。潜性の遺伝子は、発現すると強力な何かをその人自身にもたらすけれど、その強力な何かの代償に、強力ななにかが潜んでいる」


「僕と葵の約束で言う、代償とおんなじもの?」


「ええ、あなた達の場合はね。そんな代償と利益をひっくるめたものを、能力と言うの。そして当然、そこには色々なヒントがある。例えば。。。」


 魅音は僕に突然抱き着いた。え、、、え!!え!?


「嫌だ!葵、こわいよ。。。助けてッ!」


 さっきまでの淡泊なやり取りから一転。いきなり体が震えだす。ああ。。。魅音の体温を肌身でしっかり感じちゃうぅうぅ!


 と、男の方へ視線をやるとさっきよりも怒りを露わに、おでこにピキピキ筋を立てて明らかに僕たちに殺意を込めて歩いてくる。魅音の方は、、、僕の胸の中にうずめている顔をうかがうと、全然泣いても怖がってもない。至って冷静になにか図っている。


「さっきからイチャコラしやがってよぉ。ハハッいいだろう。お前らから始末してやるよ!!」


「ほらよく見て、あれが能力。己の武器でもあり、時として己を苦しめるもの」


 男は手のひらをこちらに向ける。魅音は鎌を相手に向けて臨戦態勢をとる。男の身体から熱気がじわじわと伝わってくる。手のひらが赤く、白く光りだす。それは野球ボールくらいの光の玉になって、グルルグルルと火柱が飛び始める。


「消し炭にしてやる。目障りなメス共は死ねぇ!!!!」


 男はそれを僕らの方に飛ばそうとしたときだ。なぜかその光の玉は男の手の中で爆散する。暴発だろうか。幸い男の周りだけでの爆発だったために、周囲にはそこまで被害がなかったが、それでも少し飛び散った破片が静かに避難している人たちに飛んでいくことはなく、鎌を一振りする魅音が目の前にいる。


「なんでだァ!俺の能力が、なんで俺を裏切るんだよォ!!」


ところどころ火傷で煙を上げている男が這いつくばりながら泣き叫ぶ。


「最近の報道からして、この爆破が二週間前から起こってるものと関連していると見た。そしてあなたの性格からして、自分に才能はなく周りの人には才能が有って、冷遇される自分を嫌い、冷遇する周りを憎んでいるのだろうとあなたの言葉から推測した」


「でも俺には、この能力が!!」


「普段泣き寝入りしているようなあなたが、こんなにも妬み嫉みに駆られているあなたが、こんなに攻撃力の高い能力を持っていてなにもしないはずがない。ならばその能力は、恐らく誰かに与えられたもの。でしょう?」


「ぐぅぅ。。。だからなんだ!どうして俺がここで暴発するんだよ!」


「そんなの決まってるじゃない。あなたに能力を与えた人間は最近頻繁に誰かに能力を与えている。それは多分これからの自分の計画の達成のためのデータ収集といったところ。そしてそのテスターの能力が暴発した。あなたもわかるでしょ?将来性が見えなくなった。見限られたのよ。あんたは」


「嘘だ。。。そんなの嘘だ!あの方は俺に。。。社会で底辺の負け犬の僕に優しく手を差し伸べてくれたんだ!」


 男は相当悲しそうな目で悲痛な叫びを発する。その顔はくしゃくしゃで、涙でずぶ濡れになっている。


「今まで社会に馴染めなくて、やっと自分に手を差し伸べてくれたと思った人が自分のことを裏切って、それはそれは計り知れない気持ちが今あなたの心に渦巻いているかもしれない。けど、それで今まで憎しみの対象にも入れていなかったここにいる人たちに手を出すのは、見当違いも甚だしい!」


「う。。。嘘だ。僕は、僕はァ。。。」


 半ば狂乱している男をしり目に、魅音は小声で退散しようと急かす。


「早くしないと、あいつらが来る」


「あいつらって、、、はぁ。まあいいか、この騒動で帰るのが遅くなるのは嫌だし」


「じゃ、私に掴まって」


「え?やっぱなんか魅音って僕のこと――――


「じゃ、行くよ。下を嚙みちぎりたくなかったら黙ってて」


え。とその時。すさまじい重力があらゆる方向からやってくる感じがして、気づけばショッピングモールの周りの規制線から少し離れた大通りにいた。





 派遣された応援の戦乙女が着いたのは、通報から2分45秒であったが、そこにはボロボロになったステージ、避難中の人々、そして犯人と思われる全身火傷を負って涙を流しながらボソボソと言葉を発し倒れている男がいた。

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