買い物にALWBITE(アルバイト)

 喫茶カフカ。アルバイトの根城だと健士は誇らしげに言っていたが、あの子は天性の廚二病なのかだろうか。そこで今もモフモフの犬と戯れているが、笑顔はやはり子供らしい。僕は今日もカフカさんと魅音にコーヒーの淹れ方やお菓子の作り方を教わっている。ちなみに時給は1000円。都市部の一角だからか賃金をはずんでくれる。


「ねえ葵、今時間とれる?」


 魅音が皿洗いをしながら聞いてくる。洗い物をしてる魅音の表情はどこか穏やかだ。単純作業好きなのだろうか。


「空いてるよ。いつでもどうぞ」


 ちなみに敬語の件は僕が折れてため口を使っている。こう女子の名前を呼び捨てするときって、最初なんか緊張するよね。。。どうでもいい余談でした。


「じゃあ、フェンの誕生日プレゼント買いに行くから。一緒に来てほしいんだけど」


 むむむ。フェンとな。。。これはこれは。。。


 男の気配がする。。。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「え、なに?嫌なの?別に無理しないでいいけど」


「その、僕あんまりそういうの詳しくないよ?なにあげたらいいかとか分かんないし」


 いや、僕は男だった。なんなら今の好みも変わってない。これは元男としてアドバイスが出来るか。。。いや、僕はそこまで友達がいたわけではない。ましてや男女の関係なんてラノベの夢のような展開しか知らないし、そもそも今女だし男としてしゃべってるの気味悪がられそうだし。。。


「あの、ホントに嫌ならいいから。無理強いはしてな――――――


「喜んで行かせていただきます!」


「はあ。。。小声(こんな女の子今までみたことない)」


「あらあら、まあまあ、うふふ♪」


 かくしてバイト終わり、魅音と多分おそらくきっと思い人のプレゼントを買いに行くことになった。後ろでカフカさんが微笑ましそうにしているが、気にしない気にしない。






 バイトは客もあまり来ないので午後3時頃に終わり、今は魅音と近くのショッピングモールへと向かっている。

 この子葵のこと好きだったんだよね。泣いて激白してたからあれは嘘じゃないと思うんだけど。。。もう新しい子に乗り換えたのか。のことなんてそんなものだったのね。。。って、心の中の乙女が嫉妬し始めてる!!


「あの子大きくて、とても頼もしいけど可愛いのよね」


 すごい、魅音が頬を緩ませている。いったいどんな上玉なんだ。そのギャップもすごいし、きっと魅音に普段甘えてるんだけどいざという時守ってあげるんだろうなぁその彼は。こんなに人と関わるのが嫌いな魅音をここまで堕とすなんて、やりよるのぉ。


「たまに私も食べさせてあげるんだけど、そのとき私のほっぺを舐めてくれたの。どんなにコミュニケーションが苦手でも、あの子とは毎日話し込んじゃうのよね。。。」


「な、なぁ魅音。そやつは君より年下?」


「多分。けど、今は私よりも大きいのよ。いっつも私を見かけると押し倒してきちゃって。。。可愛いよね」


「めっちゃ肉食やん」


「いや雑食だけど」


「雑食なの!?普段いろんなやつを取って喰ってるの!?」


「まあ、あの子賢いからそういうこともしてるかも」


「気づいてるなら別れるかやめさせた方がいいよ!?逆に公認的な?そういう性癖的な!?!?」


「え、性癖って。。。あなたそういう。。。」


「なんで僕がそんな蔑んだ目で見られなきゃいけないの!?え、僕の常識が間違ってるの?」


「ええ。そういう性癖は。。。個人のことだから深く言えないけど、あんまりほかの人に言うものじゃない。気持ち悪い」


「魅音に言われたくない!」


 はあ、はあ、はああぁっぁぁあ。なんかこの一時のラリーだけでえらく魅音の印象と彼への好感度変わっちゃったよ。おっほん。僕も少しキャラがぶれてしまった。にしても魅音。彼の浮気とか遊びに何一つ言わないなんて、優しさ通り越して異常にもほどがある。最近の若者恐るべし。


「はい着いた。突っ立ってないで行くよ。ほら」


 あまりのショックで大通りの真ん中にて天を仰いでいた僕の手をおもむろに取って中に入っていく。この子意外とプレイガールなのか。止めてくれ。おとなしい素っ気ない塩対応の時々甘めな魅音さんに戻ってください。






 魅音は無言で早い足取りで進んでいく。僕は初めてのショッピングモールに目を輝かせながら、魅音の今後に不安を抱きながら、魅音に手を引かれて後ろをついていく。どれだけ世界が違おうとも売っているものや流行りの物はあまり変わらないようだ。


 道中僕が前世で見たことのない飛び出してくる映像で楽しめるテレビゲーム機を見つけても


「え、なにあれ最新のゲーム機めっちゃ映像とか立体じゃないですか!?」


「興味ない。お金ない」


と目線すらそっちに向けてくれず、、、


「みてみてウインナーの試食やってるよ!めっちゃ脂乗ってて美味しそう!」


 美味しそうなウインナーの売り場を通っても


「お腹すいてない。お金ない」


と全く興味を示してもらえなかった。彼女は無表情で、ほかの人の2倍3倍くらいの速さで歩いていく。というか歩いてないんじゃないこれ?


 ここにもしバケモンGOなんてはいってたら、きっとバンバンバケモンが出てジム戦でレイドとかしてたんだろうな。とスマホを見つめていると、なんかALWBITEとかいうアプリを見つけた。なにこれ、何て読むの?あ、あー、、、びて?

 文字を読むことに集中していてもつれそうになった足に、魅音が唐突に止まったことによって慣性がはたらき、僕は見事にこけてしまった。


「はい。ここで買うからなんかよさそうな物あったら声かけて」


「えっ」


 僕は愕然とした。魅音のその言葉があまりにも素っ気なかったからでも、一緒にくるって一緒に選ぶとかじゃなかったのかとか、そんなんにじゃない。


「ここ、ペットショップやん。。。」


 僕が彼だと思い込んでいたのはどうやら犬だったようです。。。




「そっかー健士が飼ってるのかーへぇー随分可愛い犬だねーニコニコ」


「うん。。。てかなんか気持ち悪い。離れて」


「そっかー良かったー」


「あんたの方は、何がよかったの?」


「いやーてっきり魅音が――――――


 と続きを口から思わずこぼしそうになって僕はぐっと我慢する。


「てっきり私が、何?」


 優しく問いかけるように僕への殺意が目から口からオーラから漏れ出している。言ってはいけない。命が軽く吹っ飛ぶ。僕は懸命に黙っていると、魅音は怒ったように少し悲しそうに言った。


「はあ。。。こんなんなら、一人で来ればよかった」


「魅音。。。その、これは誤解があって――――――





一瞬の閃光。コンマ0.0いくらかの後に爆発音が僕たちを包む。


 「葵!」


 刹那、魅音が僕を庇って受け身を取る。ショッピングモールの端に位置しているペットショップだが、中央のイベントなどが開かれるステージの方から爆発音と衝撃波がやってきた。幸い魅音のおかげで3メートルほど吹き飛んだくらいで済んだが、ステージの方はどうなっているだろうか。ショッピングモールにこんな爆発物があるはずがない。政府も法律でそういうところはしっかり取り締まってるはずだ。ともすればこれは、、、


「葵、覚悟はいい?」


「え?」



「お前ら人生を幸せに生きやがって。。。どいつもこいつもイチャイチャイチャイチャしやがってよぉ!!」


 男の叫びとともにドゴーン!!という音と、ステージ付近が爆ぜる。


 魅音は鎌をどこからか顕現させて爆発の衝撃を相殺する。いつの間にか付近の人への衝撃や障害物もが取り払われている。


「お、おいそこの女ァ!なにしやがった!!」


「いい?葵」


「な、なんだよ!今無駄話をしてる暇ないんだぞ!」


「いいから聞いて。これから本業の時間だから、葵も早く準備して」


「準備って、、、」


いつの間にか魅音はフードを深くかぶって黒いローブを身に着けている。フードには幾何学的なロゴっぽいなにかが描かれている。


「まさかこんなところで遭遇するとは、ホントついてないけど、葵の実践経験にはちょうどいいか」

 

 背後から声がする。振り返ると、いつの間にそこに移動したのか魅音がいた。一瞬顔がわからなくなったけれど、それは魅音だ。


「さあ、ALWBITEアルバイトの時間だ」


 目線は見えないけれど、いつもの微笑みとも笑顔とも違うニヤリと笑うような顔で堂々と男に立ち向かわんとする魅音が、そこにはいた。

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