第6話 魅音姐さん②

「いい加減ふざけるのも大概にして!あなたの戯言に、妄言に、いちいち私の心は揺れるの。揺れちゃうの!」


 魅音は鎌を顕現させて、俺に向かって振りかぶる。刃が首に刺さるすんでのところで、それを白いローブを来た女の人が割って入って止める。


「ねえ、そこの君」


 女の人がこちらを一瞥いちべつして


「人の生死を簡単になんの証拠もなく口に出していると、その遺族や大切な人はどう思う?考えなしに、突発的にそんなことは言っちゃいけないわ」


「葵を、私を馬鹿にするなぁ!」


「ごめんなさい。魅音さん。確かにさっきのは無神経だった。その、僕がが本当に葵の味方だと信頼してこれを見てくれませんか?」


 僕は葵との約束のノートを見せる。


「これは、葵の字。どうして。。。」


 魅音はノートの表紙に描かれた字を見て、懐かしそうに微笑んで、警戒するように僕に問う。


「これは、僕が葵と約束したときのノートです。その、小さいころに夢想世界の神社で葵と会った時が、最初の約束で。。。」


「最初ってことは、なんだ。あんたは葵と昔から知り合いだったのかい?」


「はい。その、恥ずかしいことに今の今まで忘れてたんですけど、声が聞こえて、たどっていくと神社があって、、、そこで葵が、、、女の人に銃で撃たれてて、そのときに約束してこっちに飛ばされたときにこれを見つけて」


「掘り下げたらとことんあんた規格外だったねぇ。なにもこっちはそこまでだとは思わないよ」


「お前は、夢想世界の人間なのか?」


 後ろにいた背の低い唯一の男の子に聞かれる。なにやら目を輝かせているが。


「はい。葵本人と契約した僕ならば、彼女を救うことができます」


「そうだったの。。。あなた、どこか身寄りはあるの?協力者とか」


「いえ、こっちに来てまだ一日もたってないですから、まだなにも決まってません」


 白いローブの人うーんと顎に手を当てて考える。


「あなた、アルバイト興味ない?」


 その後ろから、魅音が意を決したように言う。


「アルバイト?なんでいきなりそんなこと」


「いいから、やり方は私が一から教える。それに、葵が能力を使ってまでノートを託した相手なのに、このまま帰れなんて言えないし、あなたが本当に葵の味方なのかどうかもあやふやなのに野放しなんてできない。私がこの目で監視する。いいよね、凛花さん」


 凛花と呼ばれたその人は悩みもせずに即答した。


「不祥事だけは起こさないようにしてねん魅音ちゃん。あたしは責任とらないからね。そうだ。これから私たちの仲間になるんだから、自己紹介しとかないとね。あたしは柊凛花ひいらぎりんかだ。一応アルバイトでリーダーしてる」


 凛花さんは大人の色気がすごいというか、露出高めの服装と整った顔、麗しい金髪が世の男性を全員ものにしてしまうような雰囲気を醸し出している。バイトリーダーだったのか。


「私は風舞かざまいアゲハ。副リーダーよ。基本的に戦略を練ったりグッズを開発したりは私の担当よ」


 白いローブに、蝶の髪飾り、視線も光もつい吸い取られてしまうような腰までのびた黒髪が、彼女の美しさを際立たせる。僕よりも年上だろうか。とても美人だ。戦略というのは営業方針とか、路線とかだろうか。グッズはなんだろう。


「私は柊桔梗ひいらぎききょう。前衛は任せて」


 少し癖毛の目立つプラチナブロンドのショートボブで、気だるそうな碧の目。すらっとしたモデルのような体型で、揺れるスカートがめくれた先にはなぜかナイフが二本見える。この子は料理担当なの?それとも前衛って接客のこと?


「俺は犬神健士いぬがみけんし。健士って呼んでくれていいぜ。俺はおもに実行役だ。それにしても夢想世界から来たんだってな!俺にもむこうの世界の話聞かせてくれよ!」


「ま、まあそのうち、おいおいな。。。」


 勢いに押されて少し引いてしまった。中学生くらいだろうか。ニカっと笑う笑顔に鋭い八重歯が目立つ。暗めの茶髪に黒い目。雰囲気は落ち着いているのに、性格とのギャップがすごい。てか、行動役って何?。。。


「私は魅音。年は16。年齢ではあなたの方が上だけど、先輩は私だから」


 最後に魅音が紹介をする。紺色の肩まで伸ばした髪に片目が見え隠れしている。少し暗めの雰囲気で、言葉も素っ気ないけれどとても整った顔をしているし、葵のことになると雰囲気が変わる。この子ぜったい将来いいお嫁さんになるよ。


「じゃあ、早速明日からだから、今日から私と相部屋ね。あなたの名前は?」


「ぼ、、、僕はその、相馬葵です」


「あッ!?、、、いえ、こればっかりは本当なのよね。気が狂いそうだわ」



 かくして僕は魅音、、、魅音さんのもとでアルバイトをすることになり、さらに相部屋になりました。








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あの、魅音さん」


「敬語いらない。別に呼び捨てでいい」


「いやでも、一応先輩なわけですし、僕の良心が許さないというか」


「良心なんてあったら、最初にあんな嘘つかないでしょ」


「あいや、その、敵かと思っちゃって」


 僕が今なにをやっているかというと、喫茶店でお皿を洗っている。もちろん魅音さんと一緒に。


「ならそんなあんたの先輩からの命令。さんつけないで」


「じゃあ、、、魅音姐さん?」


「私は別に極妻じゃない」


 あれから一か月たった。喫茶カフカでの仕事も、店主のカフカさんとの親密度も良好で、魅音ちゃんとも軽口を叩けるくらいには仲良くなった。こうなんというか、ペットを手懐ける感覚というか。。。最初とのギャップがすごいヤバい。(まだまだ素っ気なさはあるけど)



「あなたから時折気持ち悪い雰囲気がなされるのはなに?」


「気のせいだよ気のせい」


「なんでだろう、あなたが全く女の子な気がしない」


 そういえば夢想世界での僕の性別を教えてなかったなと、今気づく葵であった。

 

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