第5話 魅音姐さん(年下)①
「笑えない冗談はやめて、葵」
顔に影が多い。なだめるような、優しい声に微笑んだ顔だが、目が笑っていない。彼女は葵。。。水瀬葵の知人なり友達なのだろうか。だとすれば彼女と葵はこのような人がたくさん死ぬ何かに携わっていることになる。というか彼女は間違いない。問題は水瀬葵がこの人たちを殺す側なのか、これをやってのけたやつらに狙われている側なのか。
前者なら目の前の彼女とは敵対していないため、ひとまず命の保証はとれる。が、後者なら。。。さて、どう確かめるかだが
「葵なら、俺の姉だが」
俺もとい僕がとった行動は、なりすますこと。彼女のいう葵が一体誰のことかがわからないなら、その葵の関係者を偽れば、少なからず敵対はしてこないと踏んで出たのだ。そしてなりすますなら、元の人柄でただ偽るのには、なりすましているのを見破られたときに、本当の自分の正体へ繋がりにくくするためだ。という、至極まっとうな理由とともに単純に僕っ子脱却のきっかけにもいいかとそう思い切ったのだ。
目の前の彼女は大きなショックを受けていそうだ。そこまでその葵と深い関係だったのだろうか。
「。。。そうか」
彼女はそう一言つぶやいたかと思うと。
「前言撤回。生存者なし。不審な人物一名。生死は任せる。。。そうか。どうせはったりだが、分かった」
誰かとの通信を切り、再びこちらに視線を向ける。手にはいつのまにか彼女の身長ほどある大きな鎌がある。金属でできているのだろうが、僕の世界にある鎌とは違い、戦闘に特化したような、すこしSFチックなものだ。
「私、女だからって容赦はしないから」
「俺は男だ」
「その胸の膨らみはなに?煽ってるの?」
キャラ変しようとして違うことが頭から抜けていた。俺今女の子だった。
「まあいい。お前には少し付き合ってもらう」
刹那、俺の
「怪しい。なにかを隠しているにおいがする」
「はっはー。今時どこ探したって、俺っ娘なんていねぇさ!久々に面白い子拾ったねぇ」
「なにも面白くないわよ。葵ちゃんの親族を偽るなんて、卑劣にもほどがあるわ」
「私の邪魔しないんだったらどーでもいい」
声色の種類からしてざっと四人。瞼の奥に人がいる。目を開ける前に現状を確認しようと、意識が戻ってから少し傍聴している。
「まあ、そこらへんはあの子自身に聞こうじゃないか。もう起きてるみたいだしねぇ」
あっさりと、自分の策略が見破られたのだった。
「あんた、さっき
目の前の、魅音を含めた五人の中で、一番大人びている女性が俺に問いかける。
「ええ、確かに妹の名前は葵です」
「ふーん。割と警戒してるんだねぇ。チビなのに偉いじゃないか。見知らぬ大人の言うことは聞かないに越したことはないからねぇ。けど、今冗談を言ってられる状況かい?下手打ったら殺されるかもしれないんだ。物事の見極めってのは重要だよ」
「大丈夫だから今こうしてるんですよ。それにまだ、あなた方の言っている葵と、俺の知ってる葵が同一人物かどうか限らないですし」
「なら、お前はどうしてあの場所に寝っ転がってたんだい?死体と寝そべるのが趣味なのか?」
「それも、俺と葵が交わした約束が原因です。ひとまず、あなた方の知ってる葵について、聞いてもいいですか?」
この五人は、相当葵という人物に対して好感度が高いと見受けられる。さっき俺の意識を刈りとった子が特に高いだろう。もし水瀬葵のことなら、彼女がなぜあの女に狙われていたのか、少しわかるかもしれない。
「葵は、私の一番大事な人だった」
口にしたのは、おそらく魅音という少女、鎌を持っていた子だ。
「水瀬葵。きれいな銀髪で、人当たりが良くって、すごく可愛くて、かっこいい自慢の友達。昔からみんなの人気者だった。途中から私はこっちの世界で生きるようになったけど葵は若くして戦乙女になって、いろんな人を助けて犯人をいっぱい捕まえて、超新星って言われるほどだった」
スマホの速報にも書いてあったな。しかし、記事にはその彼女が悪事に関わっているという内容だった。
「一か月前、私は久々に葵を見た。でも場所が明らかにおかしかった。だって、私たちがいつも通るような裏路地も裏路地に、戦乙女の姿で涙で顔をぐしゃぐしゃにして座り込んでるんだから。私は追い返されることを承知でこの隠れ家に運んだ。けど凛花さんが許可してくれて、葵のことをみんなでまもるって決めたんだ。久々に葵とも話すことができて嬉しかった。葵は何か見てはいけないものを見たと言っているけれど、私は無理してそのことを話してもらうつもりはなかったし、言いたい時でいいよって、、、」
見てはいけないものを見た。だから路地裏に隠れていたのだろうか。そうなると、一か月前からあの女に狙われていたもしくは、そのすぐ後からということか。
「私はッ!葵が好きだった。気味悪がられると思ったけど、葵は受け入れてくれた。これからも楽しく一緒に過ごしたかった。。。ッ!」
好感度がやけに高いと思ったら恋仲だったのか。だが、それはなんとも悲しい話だ。俺もあまりバッドエンドは好きではない。
「そんなときに、あなたがあの場所にいるのを見つけた。外見はほぼ葵だから、生きてたんだと思った。けど、あなたは身分を偽って、葵は妹だと言った。あなたに今の私の気持ち、わかる?」
半分涙で声が上ずりながら、怒気をはらんだ問いかけを俺に向ける。この話に矛盾点はない。もしこれが本当なら、葵があの神社であの女にされていたことに理由がつく。そして、彼女の感情がとても嘘には見えない。。。俺っ娘から僕っ娘に戻らねばならないときがきた。
「わからない。けれど、僕には葵を生き返らせることができる」
僕はここにいる五人に、主に魅音に向けて言い放った。
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