序章

覚醒世界へ

第4話 転生

 小雨がぽつぽつとビルの壁に這うパイプにあたって不定期に音色を奏でる。雨がほとんどを洗い流してしまったが、まだそこには血の跡が水でにじんで残っている。大通りから眩しいネオン色がほんのり差し込むこの路地裏で、十数名の命が無下にされている。そんな中、一人のはゆっくりと目を覚ました。


「んあれ、、、僕は、、、」


 そう、姿かたちは違えど人格は正真正銘相馬葵その人である。しかしその容姿は艶のある銀髪に琥珀色の瞳。骨格は童顔だが大人びた雰囲気のある少女である。さっきまでの葵とは似つかわしくない、そして二人が同じ空間で生活していたとしても絶対に関わることがなかったと断言できる美しい容姿である。一つひっかかるのは、変なフードのついたローブを着ていることだろうか。


「そうだ。トラックに轢かれて。。。ノートは!?」


 記憶を整理しきったのか、葵との契約の象徴でもあり彼女の形見とも言えるノートを探す。あたりを見回すと、少し離れたちょうど屋根があって濡れないところに置いてあった。

 葵は立ち上がって周囲をうかがう。人生でこんな死体の数と遭遇したのは初めてではあったが、さきの神社からありえないことの連続であるため、少し耐性が付いていた。まあ、それにしても冷静過ぎるのだが。今起きている状況を確かめるべく、葵はノートを開く。


 僕と葵の契約の象徴だ。きっと何かが書いてあるはずだ。


一ぺージ

あお君との契約にあたって

・あお君はあの人から逃げ切るようにって言っていたけれど、あの世界じゃ絶対に逃げ切れないので私のいる世界に逃げられるように運命を定める。

・このノートを、着地地点の周辺に無事に転送すること。


あお君へ

 私のためにあんな約束をしてくれて本当にありがとう。最後に助けられたらと思っておせっかいかもしれないけど、あお君のいる世界、夢想世界ドリームワールドと並行世界にあたる私たちの世界、覚醒世界リアルワールドだと、絶対に覚醒世界じゃないとできない夢があったから、こっちで叶えてもらえるようにしました。

 女の子にしたのはその方があの人にもバレにくいかなって思ったから。その。。。外見は私を参考にしてるからそこまで可愛くないだろうけど、そこは我慢してね。


 背丈が自分の視界よりも少し低いなと思ったら、僕は女の子になっているのか。と、近くの水たまりで自分の顔を確認する。


「どこが可愛くないだよ。それに葵を参考にしてるんなら可愛いだろ」


 話がそれてしまった。続き続き。。。


 その、俗言う転生なんだけど家は私が隠して使ってる家を使ってください。あとは腕時計の本当の機能のことだけど。。。



 そこから、腕時計の意外な機能と、この世界の常識についてちょっととが書いてあって。。。


 最後に、私と一緒に協力して夢を叶えるんだから、私の能力も使えるようにしておいたからね。まあ、契約なんてそこまで戦闘で使えないと思うけれど、あお君だったらうまく使ってくれるよね!頑張れ!


と絞められてあった。まあ、大方分かったけれど。。。


「ここどこよ?」


 普段使いのスマホを起動させてみる。なぜかこっちでも正常に動くし、マップを確認すると見たこともない地名や店が表示される。一応現在地はわかるようだが、帰る家の場所もこっちで葵がどういう立場なのかもわから―――――


 突如、スマホに速報が映し出される。 


 超新星と噂された戦乙女ヴァルキリア水瀬葵さんが、先日の首都圏域同時多発テロ事件に関与していたことが判明しました。



 どういうことだ?葵。。。


コツ、コツ、コツ、


 誰か人がやってくる。こんな死体の山の路地裏にくるんだ。きっとこれに関係している。。。そうだ、死体のふりをしよう。


「今回もこれだけの命が。。。ごめんなさい。私がもっとしっかり指揮をとれたら」


 なんだ。この人たちの指揮をとってた人?この人たちは、なにかの部隊なのか?


「それに。。。葵まで」


「えっ」


「誰!?いるなら出てきなさい!」


 葵という言葉を聞いて思わず声が漏れてしまった。今更無視なんてできないしきっと確かめられたら僕が生きてるってバレる。さっきの発言からして敵ではないという可能性は高いし。賭けるか。


「う、んあ、、、あれ?僕生きてる?」


 あたかも今意識を取り戻したような声を出して、仰向けだった体をむくりと起こす。


「せ、生存者一名。。。よかった。。。生きてたッ!」


 彼女は少し涙を流しながら。


「生きてたんだね!!!」

 

 ぎゅっと強く抱きしめる彼女。戸惑いながら人生二回目の経験を受ける僕。そして一つ思い出す。


 女性になってバレにくいはわかるけど、葵を参考にしたら結局ダメじゃんと。


 その少女は満面の笑みで僕の方を見ている。罪悪感しかないけど、


「その、人違いです」


 その途端。彼女の目から光が消えた。





 

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