第2話 謎の少女 謎の世界 謎のノート

 俺は下り坂を駆けていく。


―助けて、あお君―

 

 声の場所は確実に近くなっているのに、だんだんとか細くなっていく。小学校の前を過ぎ、住宅街を抜けて両側が田畑に囲まれた一本道をひた走っていく。今住んでいるのは母方の村だ。5年前に父と離婚して引っ越してきたのだ。


 声はどこだ。


―嫌、来ないで―


 さっきまで弱弱しい声だったのが、途端に恐怖とともに大声で吐き出される。だがおかげで声の方角がはっきりした。


「こんな森の中の石段上がってくのかよ。。。」


 見慣れない、もう何年も整備されてない石段。改修工事などされてないのか、ところどころ朽ちている手すりと昔からのもの特有の急な段差が、おそらく数百段と続いている。直線でなく曲がりくねった急こう配なのが、この階段を上がろうとする気持ちに蓋をする。がしかし、


「なにかが、この上にあるんだ。行かなくちゃ」


 俺はいつにも増して使いまくってる脚の筋肉に鞭を打って石段を二段飛ばしで駆け上がる。手すりにつかまって脚をどうにかあまり使わないようにしているが、手すりが崩れそうな怖さとも戦わなければならなかった。


「あと、ここを上がったら―――――


「あなたは、戦乙女ヴァルキリアであるにも関わらず、並行世界に干渉して、挙句そこの人と交流して、能力を行使した。間違いないわよね?」


 石段を全速力で駆け上がって、どこか見覚えのある鳥居をくぐると。。。


「あなたたちは、間違ってる!私はそんなことのために戦乙女になったんじゃない!」


 そこには、右わき腹から多量の血を流している同年代くらいの少女と、SFなどで見かけそうな銃を構えている女の人が一人。少女は這いながら一歩一歩退くも、女は微笑しながら距離を詰める。気づけば声は止んでいて。なぜか少女に見覚えがあった。


 さっき聞こえた声はあお君と呼び掛けてきた。ということは、ここが声が聞こえてきた場所だとしたら、このうちのどちらかが、あの夢に出てきた少女であるということだ。思い出せ葵。お前は夢で何を見て、何を聞いた?


「あなたも、盗み聞きとはいい度胸ね」


「な、気づかれ。。。ぐあぁ!?」


 突如腹部に激痛が走る。目で痛みの発信源を追うと、あの少女がされたことを今自分にもされたのだと気づく。


「私たちの姿が見えるのね。あら?もしかして、あなたが契約したのって」


「違う!!一般人を巻き込まな――ッ!!」


「痛みがあるのに、無理に動かない方がいいわよ?もしかしなくとも死んじゃうわよあなた」


 僕が女に手を出されないようにと動こうとしてくれた少女だったが、出血がひどいのと激痛でその場にうずくまってしまう。かくいう僕も激痛でひざからへたり込んでしまうのを気力だけで我慢して、なんとか立っている。


「あなた、腕のその時計をどこで手に入れたの?」


 あの夢で出てきた時計は、離婚してこの村に引っ越すときの整理で部屋の中を探すと古い金属の菓子箱の中から出てきた。俺はその腕時計を今日に至るまでつけている。何気デザインも黒を基調としたかっこいいデザインで、なにもしないでいてもなぜか時刻も一回もずれたことがない。


「こ、この時計のことを。。。知ってるのか?」


俺は時間稼ぎと、単なる疑念から女に質問する。


「ええ、よーく知ってるわ。おかげで私が今何をすべきか分かったしね」


突如、僕の太ももに2発弾丸が撃ち込まれる。刹那、激痛によるショックの前に最後ともとれる声が聞こえる。


――私と契約するの!何もわからなくていいから、これを承諾して!――


 契約。。。さっきまで聞こえていた少女の声が頭に響く。頭の中を、痛みの電気信号が駆け巡る。撃たれた場所が熱く、じりじりと痛みが上がりだす。

 

 もしかしたら、これを逃したら僕は死んでしまうんじゃないかと、その契約に僕は承諾した。






――――――――――――――――――――――――――


「あお君。あお君。おーい、あおくーん」


「うん、今起きたよ」


「うん、間に合ってよかったよ。私のこの能力も、死にかけだからいつもつか分かんないし、ちゃちゃっとすませようね」


 気づけば、お互い無傷で神社に立っている。あの夢で見ていた、今さっきまで死にそうだった神社に立っている。


「あお君は、もう思い出したんじゃない?この空間での記憶は、この空間でなら忘れることがないからね」


僕は、この神社の境内であって違う空間に一度入ったことがある。



―――――――――――――――


「私の名前は―――っとと、その前に一つ。大人っぽい私と約束しよっか」


「約束?」


「うん。私は代償として名前を教える。だから――――


     私とあお君の夢をこのノートに書いてこう!」



 彼女が手提げかばんから一冊のノートを取り出した。表紙の見出しを書くところには、夢ノートと書かれている。


「私とあお君で、将来の夢を50個ずつ書いていくの。私たちがまた会うまでに、どっちが多く夢を叶えてるかで勝負するの。でね、勝った方は負けた方の叶ってない夢を叶えるのをお手伝いするの!で、負けた方はそのお礼に、勝った方の叶ってない夢のお手伝いをするの。」


 不思議とかなかなが少し静かになる。この神社の風景が一瞬ほんのり白くなるが、今はいたってどうもかわらない。強いていうなら、地面に少し散らかっていた落ち葉がみあたらないくらいだろうか。 


「要は二人で協力して夢をかなえようってこと?残念だけど、ぼくはやりたいことなんてないから、ぼくの代わりに100個お願い書いててよ。ぼくがお手伝いするからさ」


 えー、と少女はジト目で見てくる


「それじゃ私だけ満足しちゃうじゃん!じゃあ、私は君が困ってた時に助けるからさ。もし私が自分一人で夢を叶えられそうになかったら、一緒に叶えてくれる?」


「うん。それでいいよ」


 やった、と笑う。笑顔がとてもかわいく、愛らしい。


「私の名前は。。。葵。水瀬葵みなせあおい。いままでありがとう!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ああ、思い出したよ。葵」


 その少女、水瀬葵はぱっと笑顔を見せる。そして、すぐにまた悲しそうな表情で、今にも泣きそうな、それでも我慢して声を出す。


「私、もうすぐ死んじゃう、、、みたい、ははは」


 水瀬の表情は、悲しさと、悔しさと、少しばかりのうれしさとが混ざっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る